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エレメントハンターセカンドクライシス

「ジオ兄!15分後に震度5がくるってよ!まったくもうちょっと早く発表しろっての」

カウンター席でTVを眺めていた少年が、厨房でフライパンを振るう青年に伝える。

「最近多いなぁ。せっかくスープの仕込みを始めたばかりだってのに。。母さん!寸胴固定してくれる?!あ、いらっしゃい!今は汁物は無理っすよ!」
「え?またかい?ジオちゃんのとんかつが食べたかったなぁ」
しぶる常連客だったが、いつものことだとカウンター席に腰を掛ける。
「おい、シン!TVばっかり見てんじゃない!手伝ってくれ」
今回の震源地から揺れの時間は。。30秒か?地震を管理できるようになったとはいえ、この揺れが無くなるわけでない。津波を避けるために高台で生活するのは不便極まりない。
「なあ、うちはいつメガフロートに移住できるんだ?まほろばタウンは定員オーバーだっちゅーの。・・・あ、公園行ってくる!」
「地割れに気を付けるんだよ!」
「わかってる!父ちゃんとは違うって」
「まったく、誰に似たんだか。。母さん、父さんにも連絡しておいてよ。」
出前に行っている父親は昔、元素消失に巻き込まれたらしい、自分が生まれる少し前だという。ジオは10年以上前に失踪した兄のことを思い出したが、厨房の喧騒で我に返る。
『たぶん、兄さんに似ているんだろうな』


まほろばタウンの高台に位置する公園。
海はきれいに見えるが、かつて東京と呼ばれた丸い湾は小さな地震でも津波がやってくる。
統合政府は元素消失により、軟弱になった地盤へ衝撃を加えて人為的な地震を起こしていた。
迷惑な話だが、元素消失で人類が9割以上が消えた時代からすれば、安定した生活が送られている。

グラッ

ほぼ正確な時間に揺れる。わかっていても気持ちのいいものではない。
「君のおじいさんは宇宙飛行士だったそうじゃないか?メガフロートどころかコロニーにも口利きできるんじゃないのかい。」
いつの間にか公園にやってきた端正な顔立ちの少年がシンへ声をかける。
「うちは定食屋だぜ?んなコネがあるならとっくに使ってるよ。父ちゃんは市場一筋!お前らこそこんなところから早く逃げてけよ。親父さん上院議員だろ?」
「ママがこの町から離れたくないって、パパはママにぞっこんだからね~。シンの一番上のお兄ちゃんも宇宙飛行士ってママに聞いたことがあるけど、ねえライト。」
ライトと呼ばれる少年は顔をしかめる。
「呼び捨てはやめろよイサミ。しかしジオさんより年上の兄さんがいるとは聞いていたが、初耳だぞ?シン」
赤髪の少女を追い払いながらライトはシンに問いただす。長い付き合いなのにそんな隠し事をしていたなんて。
「言ってなかたっけ?悪い悪い。でもじいちゃんの写真とかメモリーはいっぱいあんだけどさ、レン兄ちゃんのはさっぱり無くって。なんかスパイでもやってんのか?って母ちゃんに聞いたんだけど、あんまりいい顔しなかったから深くは聞いてないのよ。ほらッ、オレって意外と空気読めるヤツだからさ」
宇宙飛行士は憧れの職業であるが、一番の人気はもちろんエレメントハンターだ。いまだ未回収の元素も多く、20年経っても異世界での冒険は心躍る。技術が進み次元フィルターローブの喪失は20歳ぐらいまで引き上げられており、多くのハンターがネガアースで活躍している。


「そういえばトム博士は第三期のエレメントハンターだろ?なーライト、博士を紹介してくれよー。親友だろ?」
「何度言っても無駄だよ。俺たちは次元フィルターローブがそれほど高くないって診断されんだからさ」
「えーっ?アタシは適性度はA+ランクだから可能性あるわよ。シンだってA判定だし。お兄ちゃんはB+だけど」
「うるさいなあ。。S以上ないと選抜試験も受けられないんだし、今からじゃあサルベージャーがやっとだよ」
サルベージャーとはハンターが見出した元素回収方法を組織的に回収するメンバーであり、ハンターに比べれば見劣りするものの十分エリートであった。父親がハンターだっただけにライトのプライドが許さないのであろう。
「ちぇっ!つれないなあ。」
何度も繰り返す他愛のない会話。ネガアースとの交流が始まって人類の科学的進歩、精神的向上は計り知れないが言葉によるコミュニケーションは根源から外れることはないのだろう。
小規模な津波が到達したが、港に大きな被害はないようだった。公園から引き上げる人も多くなった。

「そういえばトム博士に借りたメモリを返してきてくれと頼まれてたんだっけ。シンも行くか?」
唐突にポケットのメモリを取り出したライト。父親からずいぶん前に頼まれていたのをすっかり忘れていた。
「お兄ちゃん、まだ渡してなかったのそれ・・」
「いや、いつでもいいと言われてたしさ、それにトム博士ってなんというか・・苦手だし」
中身は古い観光案内で大した内容ではなく、何度か訪れた際にも渡しそびれていたものだった。
「かっーーー!なんだよなんだよライト!そういうことなら善は急げ!ラボまで競争だ!!」
「いるかどうかわかんない・・ってあの人はいつもいるか。メモリー渡したら帰るからな」
「アタシはトム博士好きだよ。なんか変わってるというか、なに考えているよくわかんないし」
妹の大胆な告白は華麗にスルーし、高台の公園を駆け降りる3人。
「でもライトとトム博士ってオタクなところは似てるよねー。同類嫌悪ってのかな?わかる?シン」
「よくわかんねえなぁ。同じ趣味なら仲良くすればいいじゃん」
眉間にしわをよせつつ、やはり苦手なのはかわりないといった表情をするライト。
「ジャンルが違うんだよ、博士とは」
「そういうもんかねーー?」
ラボは目の前だったが入口は遠く、少年たちのコミュニケーション能力は向上していくだろう。


巨大なドームがいくつも並ぶ元素復元研究所。
10年前までは復興の拠点として大勢の研究者がこの施設で働いていたが、技術が確立して各地に復元施設が建設されたことと、まほろばタウンを挟んで反対側に新たな研究施設が建てられたことから、あまり人が寄り付かない施設となった。現在ではトム博士が一人で奇妙な実験を繰り返しているとの噂だ。
「これだけデカイのにトム博士ひとりっきりって・・変わり者だよなぁ」
「あ、でもアンドロイドは大勢いるわよ。ユノタイプも何人かいるから、話し相手には困らないみたい」
ユノタイプ・・たしかエイミー・カー事件の際、原子分解されネガアースに送り込まれトム博士達は救われたと授業で習った。かなり古いタイプのアンドロイドだが、最新式のブースターウェアより高価らしい。
雑草だらけの正面玄関ではなく、さらに奥の通用口へ。物資はドローンが運ぶのだろう。シンの定食屋もよく出前の注文がくるがドローンが受け取りにくるだけで、実際会ったことは無い。
通用口のインターホンのブザーを鳴らすものの、反応がしているのかわからない。
「壊れてるんじゃないの?前来た時は音が鳴ったじゃん」
「いやいや、さすがに壊れてるってことは無いだろ・・・留守ってことはないよな。基本引きこもりだし」
何度もブザーのボタンを押すライト。やはり反応が無い。
しびれを切らしたシンは通用口に近づくが、妙なことに気づく。
「なあ。。この扉って・・ホログラムだよな?意味あるのかこれ?」
手を伸ばすと扉を貫通してホロ映像が若干乱れる。
「ホントだ・・前もちょっとガタがあったけど・・ものぐさというか、無頓着というか・・・」
「まあ、扉は空いてるってことで、お邪魔しちゃおうぜ!中にいるんだろ!?」
「ダッシュもいるから平気よ」イサミはダッシュとは特に仲がいい。ダッシュは、カー博士が作ったオリジナルユノのバックアップ機であり、このラボのアンドロイドを統括している機体でもある。


いつものロビーいるだろう。トム博士はいつもそこで鉱石と会話をしている。変人極まりなし。
人前では興味なしの素振りをするが、二人きりだとライトと博士はウマが合う。もちろんイサミにはばれているが、兄としては慄然とした姿を見せたいらしい、今日はシンもいる。

ドカッ!バキッ!ぎゃーーーーー!

なんだか騒々しい。ロビーに駆けつけてみると、博士と思われる人物がメイド服の少女に追い回されている。
少女の手には似つかわしくないほどの大きさの木槌が。振り下ろすたびにロビーが破壊されていく。
「ちょっちょ!ダッシュ!ストップ!止まれ!停止!Jooji!остановить!멈춰라!えーっと!他になに入れたったか!わっー!」
「はかせー!これって人間っぽいですか?」ドコッ!!寸でのところにハンマーを振り下ろす。ユノ型アンドロイドからすればミリ単位での寸止めも可能だ。しかし自分の体はポンコツになっている。エレメントハンターだったころの動きは失われている自分が恨めしい。しかも暴走状態のダッシュだ。
「ダッシュ!ちょっとどうしたの!」イサミが間に入ってユノをなだめる。
「とめてくれるなおっかさん!はかせが浮気したんですよー!ばかー!」
「いやいや!浮気って相手人間じゃないし!ロボットでもないし!」
「・・二次元ですか?それとも鉱石ですか?浮気の概念はそれぞれですからね。まず謝りなさい博士」
やりとりを傍観していたシン。「なんかわかんないけど、うちのとおちゃんは謝りの一手だって言うよ。謝っちまいなよ博士」ここは乗っかっておこう。
4人ににじり寄られるトム。まったくの勘違い・・というかどうやったら勘違いになるんだか分からないような案件に対して返す言葉も見つからない。
『レンの言うとおり、まず謝りましょう。トムさん』
端末近くに表れたホログラムからアドバイスが提言される。
「うっ・・納得いかないが・・ゴメンなダッシュ。俺が悪かったよ、許してくれ」
その場にいる全員がユノ型アンドロイドの顔をうかがう。
「んもーwわかってくれたらいいんですよはかせ。浮気はダメですからね!」
ニコニコ顔は変わらないが、どこから取り出したか分からないハンマーを片手にラボの奥に消えてゆく。
「今回はやばかった・・感情アルゴリズムは難しいなぁ。助かったよキミたち」
ソファーに腰掛けたトム博士。
「ホミ、やっぱりシミュレートだけでは再現は難しいようだね・・次はこの子達に手伝ってもらう」
初代ユノは感情アルゴリズムは自己改良で人間と同等まで成長し、アトミックサブチップとしてネガアースに転送された。シェイプシフターの女王となれたのは、直前に高度な生存本能がユノに生まれたからだと推測している。何度も実験を重ねたが再現しないのでは研究者として沈痛の極みである。


「いつものことながら騒がしいですね。コレ、父さんから預かったメモリです。それから友達のシン・カラスです」
「あ、初めまして。シンって言います・・さっきホログラムの人、ウチ兄貴の名前呼んでましたよね?」
褐色の肌の少年の姿をした少年のホログラムの方を向く。
「ホミさん、お久しぶりです。」「俺たちは何度か会ってるけど、謎が多い人だよ・・でもシンの兄さんを知ってるってことはこの町出身ってことですよね。宇宙飛行士だったりしますか?」
『僕はホミ・ナンディ。トムとは同時期にハンターをしていたんだ」



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