雪の帰り道

きょうは雪の日だった。

雪の好きなところは、まっすぐに落ちないところ。ちょっと浮かび上がってから、はらはらと流れるように落ちてゆく。ずっと眺めていると、一瞬、空中で止まって見える。

札幌の雪はもっと粒が大きいから、落ちるスピードがはやい。京都の雪は、空を見上げて、ずっと眺めていたくなるくらい、儚くてかわいらしい。札幌で同じことをすると、睫毛に雪が積もって凍ります。

きょうはしかも、夜遅くに道を歩くことができた。誰もいない道で、手袋でそっと雪をつかまえる。ねらった結晶を、手の甲にのせてみる。

赤い手袋の上に、ガラスのような雪の粒があらわれた。大きめのをねらうのが肝心で、いくつか結晶が組み合わさっているから、覗き込んでもすぐには解けない。細かいところまで結晶が見える。わたしはひとりで喜んでいる。雪がうれしい。なんだ、本州のひとになってしまったみたいじゃないか。

積もってくれないかなぁ、なんて、自分が思うようになるとは思わなかった。雪が嫌いだったわけじゃない。ただ、特別な感情をもつよりももっと、近くにあるものだった。

このまま帰り道が続いてくれたらいいのに、と思っていたら家が見えてきた。仕方がないから帰ってあげる。手に持っていたスタバのカップが曇っている。あの子からのメッセージをもういちど見て、泣きそうになる。

あの子は雪の降る国へ行く。わたしはきっとそちらの雪のほうが馴染んでいる。重くて、つめたくて、すべてを閉じ込める、空の色も光さえも。そんな雪の圧倒的な美しさを、わたしはよく知っている。

でもわたしはきょうの雪を、ずっと覚えていたいと思う。スタバのカップを、メッセージが消えないように洗いながら、ぼんやりと、日付の境目を踏み越えていく。

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