『すずめの戸締まり』

日本のアニメ映画で長らく業界を引っ張ってきたスタジオジブリの宮崎駿ですが、その年齢や作風の変化から、最近はその後継者、あるいは後継者的な別のアニメ制作会社に注目が移っているように思います。
私もジブリの作品をいつも楽しみにしていましたが、『崖の上のポニョ』を最後に興味を急激に失いつつあります。年齢による作風の変化はしょうがないと思うのですが、年々「昔はよかったなぁ」とか「未来の子どもたちに考えてほしい」というメッセージが強くなっている気がして、それが説教じみたものに思えてしまうのです。
でも、スタジオジブリがあったからこそ生まれたであろう、細田守の作品、さらに、新海誠にも着実に日本アニメ映画の系譜が受け継がれているように思います。

『すずめの戸締まり』は新海誠監督のいわばメジャーデビュー3作品目です。
『君の名は。』で一気に世に出て、『天気の子』でその地位を確立した監督の、勝負となる3つ目の作品は、正面からあの出来事に取り組んだ作品でした。
3つの作品に流れている通奏低音は間違いなく同じで、過去の2作でどの程度強く色を出すか試していたように思います。今回12年、日本の干支でいうと一回り経って、ようやく客観的に観客が見れるようになったのと、風化しないぎりぎりのタイミングで主題に取り組んだのだと感じました。

人々の便利な生活は、何もないところにあるのではなく、様々な犠牲としわ寄せによって成り立っています。それを古の時代の人柱に例えて、表現しています。
でも、例えば、屠殺場、火葬場、障がい者施設、刑務所、沖縄基地、原発など、残念ながら今でも一般的に歓迎されない施設があって、そこで働いていたり、近くに住んでいる人がいる。それはまるで現代の人柱のようで、そういうものをひっくるめて私たちの生活は成り立っています。
見ないようにしていても、世界にはそういう場所もあるのです。

あの事件は、原発問題を借りてそれをまざまざと見せつけてきました。
日本全体が人柱を考えるチャンスだったとも言えます。
でも、多くの当事者ではない人は、数年経つとそんなことは忘れて生活を進めていきます。

新海誠の作品は、それを何度でも思い出させようとしてきます。
巫女であったり、天気を操る能力だったり、要石の姿を借りて。
災害を回避してハッピーエンドだった『君の名は。』、見ようによってはバッドエンドだった『天気の子』に比較して、『すずめの戸締まり』では、災害を避けられなかったとしても、人はそれを乗り越えて前に進めることを証明してくれます。人は運命の名のもとに、落とし穴のように死んでしまうこともあるけれど、生き残ったら、前を向いて生きようとすることが大切なのだと教えてくれます。今はなくなってしまったモノや町や、人を、意味づけて生きていくのが、生きていく人の活力となるのです。

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