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開窓、牽引手術してきた

私は歯列矯正をしている。インビザライン矯正という、マウスピースを週に一度取り替えて歯列を正していく治療法だ。その過程の中で、ある一つの事実が発覚した。

「すずきさん、歯茎の中に生えてこれていない歯がありますね。」

そう、なぜか一本生えてこれず歯茎の中で眠っている歯があったのだ。しかも犬歯。先生によると犬歯は根が長く、将来的にも残りやすく、入れ歯を作るときの基準になったりするので、生やして歯列に入れたほうがいいと言う提案だった。そこで表題の手術をすることになった。ここまでが壮大なプロローグである。


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赤丸部分が歯。フリーダムすぎる。歯列というルールを限りなく無視しているのが見てわかる。盗んだバイクで走り出しそうだ。


治療の工程としては
開窓…歯茎を切って歯を歯茎の表面に露出させる。
牽引…埋まっている歯と、外の歯に小さいピンをつけて、輪ゴムをかけて長期的に引っ張って外に出しながら移動させていく。
となる。



お気づきになっただろうか。


そう、


限りなく物理である。


親知らずを抜いた時もそうだったが、本当に歯の治療というのはなんか原始的である。麻酔やドリルなどの器具や、先生方の技術はもちろん進化しているんだとは思うが、「原始時代にも同じような方法で親知らずを抜いていたんじゃないか」と思わざるを得ない。そしてトラックや車にしか使わないであろう「牽引」という単語が歯の治療で出てくることにも驚いた。改めて調べてみても

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やっぱり歯の治療で使う言葉じゃねーよ。


手術日当日、ちびり散らさないようにお手洗いを済ませ、先生の説明を聞き早速麻酔をしていく。塗る麻酔、注射の麻酔とステップを踏んでいただけたので全然麻酔は痛くなかった。しかし歯茎や口はもちろん、片方の鼻の感覚までなくなってしまった。「先生ったら、私がビビり散らかしていたからしっかり麻酔をかけてくれたのかしら。」などと思っていたが、その真意は後程知ることとなる。

先生「この前、ここで二人小学生の子も開窓手術をしたけど、泣いたり痛がったりしてなかったから、きっと大丈夫だと思いますよ〜。」

突然の宣戦布告である。先生は「小学生も平気なくらい痛くない手術」と安心させたかったのだろうが、私の精神力の低さを舐めないでいただきたい。「泣いたら名も知らぬ小学生以下」という名誉がかかった状態で手術はスタートした。
歯茎を切っていくが、麻酔とはすごいもので全く痛みがない。だが、痛みはないが触られている感覚はある。親知らずを抜いた時も思ったが、歯茎の中にある「歯」という存在は、柔らかい肉の中にある固い石のようなものなのだとまざまざと思い知らされる。
目隠しをされている中で、そんな「固い石」の感触を、歯列から外れた、到底あるはずがないところでメスを通して感じるのだ。痛みは全くない。全くないが意味がわからない状況に思わず血の気が引いた。拷問をするのであれば目隠しをした方が効果的なんだろうとなんとなく思った。
おそらく歯を表面に露出させるために歯茎を切っている途中、ドリルで何かを削っていた。ピンをつけるために、埋まっている歯の表面を磨いている…?それにしてはなんだこの頭蓋骨に直接響くような振動はがががががががががががががががががががががががががががががが!!!!!!!!(振動だけで痛くはない。)
明らかに様子がおかしい工程が入りつつも、ピンを歯にUVライトでつけるときの「ピッ」という音がするのを一心に願った。タオルをかけられて視界がほとんどない中で、その音だけが終了の合図だった。今の私にとっては福音のようなもので、鳴れば勝ち確である。
歯茎を切っているにしては妙にゴリゴリとした感触が続いた後、露出した歯にピンをつける工程に入った。「ピッ」という音が何回か手術室に響いた。終わった…。何度か口をすすいだが、血が混じった水を吐いた。
麻酔前に外の歯につけたピンと、先生がゴムを掛ける。今、自分の口の中がどうなっているのか全く想像もできないまま、鏡を渡された。鏡を見ると、そこには上の歯茎の表面中央、唇とのキワキワの上の方に赤黒い穴が空いていた。そこから小さなピンが出ており、ピンにかかった輪ゴムが他の歯と繋がっているのである。よくピンをくっつけられたな。
全く痛みがなかった手術の割にグロテスクな仕上がりにドン引きした。そしてやっぱりめちゃくちゃ物理。片方の鼻が痺れていたのも、歯を露出させた位置が人中ど真ん中だったからである。もうお前(埋まっている歯)、住所で言うなら歯列じゃなくて鼻に限りなく近いんじゃないか。なんでそんなとこに引きこもってたんや。
前述のとおり、手術中の痛みはほぼなかった。小学生にも勝った。いや、小学生も痛がっていなかったと言うから、並ぶことができた。大人として誇りに思いたいと思う。

手術の途中、何を削っていたか先生に尋ねた。

先生「歯を露出させるのに顎の骨が邪魔だったから削ってたんだよ。」
私「じゃあ頭蓋骨を…けず…???」
先生「顎の骨は削っても再生するからね…。あんまり詳しく聞かない方がいいと思うヨ…。」

大人は信用できないと思った。

鏡で直視できないほどショッキングな見た目になったので、麻酔が切れたらさぞかし痛むのかと思いきや、痛み止めや抗生物質を飲んでいたので、麻酔が切れても思うほど痛くもなかった。穴が空いた部分が少しジンジンとする感じ。16時に手術して、夜にはおでんとパンとレーズンチョコを食べていた。

先生の腕もあってか、手術中はもちろん、術後もほとんど痛みを感じずにすごしている。改めてお礼を言いたい。親知らずを抜いた人間というのはいくらでもいるが、開窓手術、牽引をしたという方は少なくとも私の周りにはほとんどいなかった。ネットで調べてもグロテスクな術後の写真ばかり出てきて辟易していたので、あくまで一意見として、開窓手術を控えている方の参考になればと思い筆を執った。見た目ほど痛くないヨ!

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