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お茶挽き・お抹茶点てワークショップ振り返り

「いらっしゃい!」「殿、お見事にございます!」
2024年2月12日、私は江戸時代の栄に生きるお茶屋の娘になった。

遡ること2023年11月末、栄にある和かふぇ冨士屋の女将から「名古屋市中区の事業でお抹茶のワークショップを開催することになったので、よかったらお茶屋の娘をやってくれませんか」という誘いを受けた。名古屋市中区にある老舗を巡ったり体験する「あるくなかく」という企画の中の一つらしい。(和かふぇ冨士屋の営業元である冨士屋本店は昭和12年創業の老舗和食・ふぐ料理店)
正直よく分からないまま二つ返事で承った。私は女将の世界観と人柄が大好きで、なにも決まっていない状態でも面白いイベントになることを疑わなかった。

当初は私がお茶屋の娘として石臼でお茶の葉を挽いたりお抹茶を点てる様子をお客様にお見せして、実際に体験していただくイメージだったが、次第にがっつり寸劇もやることになり「お殿様も欲しい」という願望が女将と私の間に生まれた。
そこで女将が声をかけた相手は、円頓寺商店街に劇場を構えるカブキカフェ ナゴヤ座の副座長 名古屋山之助さんだった。マジか。山之助さん(以下、サンスケさん)のお返事は「ぜひ!」だった。マジか。
ナゴヤ座が昨年9月にちくさ座で上演した極上ナゴヤカブキ「SAZEN-魔剣の章-」でサンスケさんが演じられた相馬大膳亮というお殿様のインパクトは尋常ではなく、そんな化物のような役者さんにワークショップ内の寸劇でお殿様を演じていただくことのヤバさは、分かる方には痛いほど分かっていただけるだろう。

三人で寸劇の内容を話していくなかで、私が寸劇のプロットを作成することになった。その際に女将が和かふぇ冨士屋として形にしたい想いを語ってくださり、それを汲み取られたサンスケさんがぽんぽん放ってくださったイメージからヒントを得て、気づいたら脚本を書き上げていた。それは打ち合わせから2日後の12月に入った頃だった。脳内で繰り広げられるドタバタ劇を文字に起こす作業はとても楽しかった。ちなみに脚本を書いた経験はほぼない。

寸劇にはチンピラ二人組が登場する。女将がチンピラ役をぜひと声をかけた相手は、名古屋で一番名古屋を推すV系バンド 麗麗-reirei-のボーカル 紅愛さんとギター 近藤りょーじさんだった。マジか。二人のお返事は「おっけー!」だった。マジか。
二人とも素晴らしいミュージシャンとはいえ、今回のお仕事はお芝居である。よく受けてくれたなと驚きながらも、これだけの強者たちを集められるのは女将の人柄によるところが大きくすぐに納得。その後も音響や動画撮影に心強い面々が力を貸してくれることになり最強の布陣が完成した。


中身が固まった脚本を年末にメンバーに共有し1月から何度か稽古を重ねたが、全員で通し稽古を行えたのは当日のリハーサルを含めて2回ほどである。
その間は唯一の役者であるサンスケさんが極上ナゴヤカブキ「SAZEN 2-紫風の章-」や新作「GANKUTSU-O-復讐の夜明け-」が控えていて多忙を極めるなか全員を引っ張っていってくださり、この上なく頼もしかった。
サンスケさんと共演できたこと、寸劇の内容を話し合いブラッシュアップできたこと、さらにはお芝居のアドバイスやヒントを惜しみなく与えていただけたことは間違いなく私の財産。

名古屋山之助さん(ナゴヤ座)

紅愛さんとりょーじさんも凄まじかった。「脚本の流れに沿っていれば台詞はどれだけ変えてもOK」と伝えていたが、台詞は変わるどころか死ぬほど増えていた。そしてそのアドリブ全てが笑いを堪えるのが辛いほど最高に面白かった。
二人も通常のライブや「SAZEN 2-紫風の章-」が控えているなか、チンピラ役に加え家臣役もこなしてくださり、プロフェッショナルの心意気を間近で勉強させていただいた。

左:紅愛さん、右:近藤りょーじさん(麗麗-reirei-)

音響担当のHさんは音響未経験者だったが、各シーンや台詞の意図も空気も正確に咀嚼し、作品のクオリティーの底上げに貢献してくださった。音の入り出やボリュームを設定して操れるソフトを自主的に導入して使いこなしている姿には畏敬の念を抱いた。有能すぎる。
動画撮影担当はナゴヤ防災サミット代表。代表マジフッ軽で助かります。代表には当日のリハーサルから入っていただいたが、持ち前のセンスで脳内にある理想に寄せられそうなアングルやカメラワークを探ってくださっているのがよく分かりかなり頼もしかった。
「よりよいエンタメを提供したい」と同じ方向を向いてくれている同志たちの存在の安心感たるや。
女将は常日頃から大切にされているおもてなしの心を胸に、お客様とキャストスタッフどちらに対してもこれでもかときめ細やかに準備を進めてくださった。早い段階から寸劇への出演が決まり、誰よりも緊張し思い詰めていた姿はかわいらしく少し面白くもあった。
「関わる人全員にとってプラスになるように」という女将の気持ちに全力で応えるべく、私もできることは全てやった。

フライヤーなどの制作も担当した


精鋭のスタッフも揃い、とうとう迎えたワークショップ当日。正直少し怖かった。
ワークショップへの参加方法は抽選制で、抽選が当たったお客様の中に私のファンはほぼいないことを当日の数日前に知った。そもそも、大切な推しが女性と共演することを果たしてどれだけの方が受け入れてくださるのか。寸劇の幕が開き、最初に登場するキャラクター お藤として完全アウェーの空間に飛び込んでいく直前とその瞬間の感覚は忘れられない。
ここで自分が中途半端なことをしたら全方位に失礼だ。全力でお藤を生きた。小さなミスはいくつもあったが、化物たちに必死で食らいついた。

拙く淡白な脚本にサンスケさん、紅愛さん、りょーじさんは極上の肉付けをしてくださった。こんな贅沢な経験はなかなかできない。
サンスケさんが演じられた宗春様はとてもチャーミングで、それでいて決めるときは決める魅力たっぷりのお殿様。サンスケさんのお芝居を特等席で浴びられる幸せを噛み締めながら掛け合いを楽しんだ。
紅愛さんとりょーじさんは名古屋が誇る真のエンターテイナー。放っておいたら一生続きそうな、無限に湧き出る秀逸なアドリブ。一方で空間の空気を瞬時に読む冷静さ。圧巻だった。「二人にはこういう役割を頼みたい」というミッションを完璧に、いやそれ以上に果たしてくださった。
あれだけ不安がっていた女将のお芝居も、蓋を開けてみれば最高だった。宗春様をぶっ叩くハリセンの音も痛快。なお、緊張しすぎて劇中の記憶はないらしい。

ありがたいことにお客様はとても温かった。お客様の歓声や笑顔、笑い声にどれだけ救われたか。それだけ楽しめる作品を作れたという手応えと多幸感で胸がいっぱいになった。ワークショップ終了後に「楽しかった」「すごくよかったよ」と声をかけてくださる方も多く、ご褒美のような時間を過ごすことができた。それだけではなく、後日お邪魔したナゴヤ座の劇場や麗麗のライブ会場でも声をかけていただけたときは本当に嬉しかった。


「当店ではどなた様でもお気軽に茶の湯を楽しんでいただきたいのです。流派にとらわれずにどうぞ温かいうちにお好きな形でお召し上がりください」

これは劇中でお抹茶をいただく際にお藤が宗春様に伝えた台詞で、ワークショップの、和かふぇ冨士屋の想いそのものである。
茶道の敷居の高さは否めず、簡単に足を踏み入れられる世界とは言いづらい。しかし、それではもったいない。作法や流派などの伝統を守ることも大事であると理解したうえで敷居を極限まで下げて、まずは茶の湯を気軽に楽しんでいただく。寸劇後のお茶挽き・お抹茶点て体験タイムでは作法の説明は行わず、お客様にはフリースタイルで臨んでいただいた。今回の寸劇と体験がお抹茶を楽しむきっかけになり、さらに興味を持って茶道の世界に足を踏み入れてくださる方が一人でも増えたら幸い。

和かふぇ冨士屋の想いやワークショップの趣旨を詰め込んだ動画を、ナゴヤ防災サミット代表が制作してくださった。撮るだけでなく作れちゃうの?なんで?
※動画の埋め込みが上手くいっていないようです。
動画のご視聴はこちらからお願いします。



ワークショップに関わったこの3ヶ月は、私にとって青春のような日々。
サンスケさん、紅愛さん、りょーじさんとご一緒できた経験は一生の宝物である。大きなイベントの重要なポジションに、私を信じて託してくださり、頼ってくださった和かふぇ冨士屋の女将には感謝しかない。スタッフさんの支えなくしてワークショップの成功はなかった。そして、お客様の楽しそうな姿がなによりのご褒美。

関わってくださった全ての方に御礼申し上げます。ありがとうございました。


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