彼女の、すべらない話

 スーパーで二人で買い物をする最中、彼女が徐ろに語り出す。

 そういえばこの前、どこどこにおいしいパン屋さんがあるって聞いて行ってみたんだけど、そこの看板商品が、パンの中に、バターとこしあんが入ってるの。それを買って食べたんだけど、それが本当にすっごくおいしくて、こんなおいしいもの食べたことない、こんなもの考えついた人すごい天才だって思ったんだけど、これよく考えたらアンパンなんだよね。

 と、彼女はまるですべらない話のように語った。客観的に見れば、ただアンパンを買って食べただけの話を、まるですべらない話であるかのように彼女は僕に語って聴かせた。

 そして僕と彼女は大笑いした。

 どういうわけか、彼女はアンパンを食べてからそれがアンパンだと気づくまでに随分な時間がかかった。そんなこともあるのかもしれない。僕からするとそんなのありえっこないので、想像するより仕方ない。

 とにかく、彼女の人生に、そんな時間があったのだ。

 そんなことを話してもらえて、それで笑ってられるというのは、俺なんかにしてはなかなか上出来だ。

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