小説  酒場の陰謀さん

 目を覚ますと必ず寝室のどこかにちくわが落ちている。四本入りのものが一パック落ちている。枕元のこともあれば押し入れの前ということもある。不思議と寝室以外には落ちていない。必ず寝室に一パックのちくわ。透明のパック、真ん中に縦書きで「ちくわ」とある。製造年月日は2050年8月3日。現在は2023年8月8日。この表記が印字ミス、何者かのイタズラ、わざと先の日付を書いた、というような事でないとするならば未来から来たちくわということになる。2023年の食品には製造年月日が印字されていない。正確には製造年月日の表記義務がなくなったそうだ。書いても書かなくてもいいよ、となりメーカーは書かなくなった。未来では製造年月日の表記が再度義務つけられたのかも知れない。賞味期限は一週間。そこは未来も現在も変わらないようだ。未来といえど腐らないちくわは発明されていないのだろう。ここに引っ越してから起きているちくわに関する出来事がイタズラでもなく、俺の幻覚でもないとするならば二十年先も人はちくわを食べているということになる。製造はおねおね食品。スマホでおねおね食品と検索すると該当件数はゼロとなった。未来、ちくわ、と検索すると「ちくわを覗くと未来がみえるという能力をもった青年が競馬でぼろ儲けする話」という映画のレビューがでてくる。同じような体験をした者のブログ等はでてこなかった。同じような体験をした者のブログはでてこなかったが、同じような体験した人間はいる。叔父さんだ。なにせこの家のちくわに関することの前任者は叔父さんであった。小さい頃は神戸のおじさんと呼んでいた。母親の五歳年上の兄貴。今年で七十五。今どこにいるかは詳しくわからない。

ここから先は

41,647字

¥ 500

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?