金縛り

ひと眠りしようと思ってベッドの上で横になり、体が動かないことに気が付いた。
またこれか、と思った。変な眠り方をすると大抵これが起こり、これが起こるときは大抵──、と思った矢先、玄関の方からガチャガチャとドアノブを回す音が聞こえた。ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ。

「あけてよ〜」

男なのか女なのかわからないくぐもった声だった。ガチャガチャガチャガチャ。
夢だろうと思った。そしてまた実際に夢だった。無理矢理に目を覚ました私の体は、だけどまだ動かなかった。

玄関先から何かが歩いてくる気配がした。私のベッドの位置からは見えないけれど、ひたひたした足音だった。まだ夢の中にいるらしい、諦めて目を瞑った。夢の中で寝たふりを決め込むのは変な感じがした。ひたひたと聞こえていた足音が止まる。私のベッドのすぐ脇に来たんだな、そう思っても変わらず私の夢は醒めない。

「ねえ起きてよ」

姉の声にそっくりだった。でも姉がいるはずがない。つい先週泊まりにきて、そして嵐のように帰っていったから。
瞑った目は開かない。開けられないのか開かないのか、自分でもよくわからない。

「遊んでよ」

声がだんだん近づいてくる。もう足音はしない。身体の上に何かがのしかかってくるのがわかる。お腹から胸部にかけて、大きな液体みたいな感触の何かが。
それはどんどん重くなる。

「おきてよ〜」

姉の声のまま、子供のような口調でそう言うのが聞こえる。身体の上の何かはさらに重くなる。自分の身体が薄く薄く引き伸ばされていくようで、私の身体はそれに耐えきれず、呼吸が一瞬止まる。

ひきつけのような呼吸と同時に目を覚ますと、身体の上にも部屋の中にも何もいない。
私の部屋だ、と思いながら胸を撫で下ろす。やはり夢だった。私には定期的に起こることだけれど、それでもこういう時の寝覚は最悪だ。水を飲むために水道の蛇口を捻る。

ガチャガチャガチャガチャ。

私は振り返り、玄関を凝視する。ガチャガチャガチャガチャ。幻聴だろうか。私の住んでいるアパートにはオートロックのエントランスがあって、だからそんなはずはないのだ。

「あけてよ〜」

身体が動かないのは、金縛りのせいだろうか。

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