越後平野から馬刺会津へ 日本海から阿賀野川を走る ZEROtoSUMMIT 福島篇(39/47)前篇
2022/9/17-19
新潟県新潟市 阿賀野川河口~福島県柳津町/140.0km
ひと筋の川をたどって海から山頂まで走るZEROtoSUMMIT(ゼロサミ)という遊びをやっている。
その国内篇、全国各都道府県の最高峰まで海から走るゼロサミ47を2016年にはじめた。これまでに38座を走り終えている。
国内最難関
福島県の最高峰は尾瀬の燧ヶ岳(ひうちがたけ)だ。東北6県の最高峰でもある。
会津駒ヶ岳も近いこのエリアには冬を含め何度か来ているが、海から走るのはもちろん初めてとなる。
燧ヶ岳に降った雨粒は、東側に落ちれば檜枝岐川(ひのえまたがわ)から伊南川(いながわ)に、西側なら只見川になる。
両者は奥只見で合流し、さらに会津盆地の端で本流の阿賀川と合わさり、新潟県に入って阿賀野川と名を変え、日本海に注がれる。
只見川上流は山が深すぎて走れるような道がないため、伊南川をたどって燧ヶ岳をめざそう。
距離は約300km。全行程を通して充分な食料を調達できるか不明。ゼロサミとしてはおそらく日本最難関である。
覚悟して河口に向かった。
1日目(2022/9/17)
阿賀野川河口~阿賀町石間/39.0km
早朝、新潟駅から路線バスで海に向かう。人気路線のようで、東京から新潟までの夜行バスはこぎざみに停車し、まともに眠れなかった。完全に寝不足である。
阿賀野川河口は、ちょうど一年後に走ることになる信濃川の河口から近い。日本を代表する大河川がそろって新潟港に注がれているのである。
ちなみに昨秋に新潟篇で走った姫川は西に大きく離れ、富山県寄りを流れている。
朝8時半、日本海にタッチしてスタート。
雪解け水で相当に増水するせいだろうか、河川敷がとてつもなく広い。
公園、キャンプ場、グラウンドがよく整備されている。
左斜め前方、東の方向に山脈が見える。飯豊(いいで)山脈だ。
若い頃に二度縦走しているが、まさか新潟市内から見えるとは思っていなかった。
さらに進むと南方に守門岳(すもんだけ)まで見える。脳内マップがどんどん更新されていく。
富山篇でケガをして以来、夜行移動の翌日は距離を抑えるようにしているが、台風が接近中なのでなるべく距離を伸ばしておきたい。
行けるところまで進んでおこう。
海から30kmちょっとで越後平野の端部に到達。
山間部に降った雨は狭くウネった渓谷をストレスを抱えつつ流れ、たまりにたまったエネルギーは、溪谷を抜けたとき平野に向かって一気に放出される。
そのポイントがまさにここだ。
心なしか川も喜んでいる。
マラソンランナーが長駆のすえにやっと陸上競技場に戻ってきたあの感じ。
その劇的な景色の変化がおもしろい。
日没と同時に道の駅阿賀の里に到着した。
暑い一日だったが、8月の徳島にくらべたらだいぶマシだった。
2日目(2022/9/18)
阿賀町石間~西会津町徳沢/55.4km
迫りくる雨を考えるとゆっくりはしてられない。6時前に出発。
その直後、橋上で猿の群れに遭遇。もうそんなエリアに入っている。
阿賀野川の流れが速く、強い。
越後の山々を下ってきた水は、激しく蛇行を繰り返しつつ強い意志を持って海をめざしている。
それは上流に進むにつれ清らかさを増し、ぼくはこの川にどんどん引き込まれていく。
阿賀野川の流域で最大の町である津川に到着。
肉屋に貼り出された馬刺の文字に、会津圏に入りつつあることを実感する。
この町は水路と会津街道が交錯する交通の要衝地だ。昼食地点くらいにしか考えていなかったが、不思議なオーラを放っている。
ここでせめてひと晩過ごせればいいのだが、後ろ髪を引かれつつ町を去る。
とうとう雨が降ってきた。
日出谷(ひでや)駅近くの清田酒店で酒と食料を調達。
お互い会話に飢えていたのだろう、おかみさんとの立ち話が盛り上がる。
勧められるままに、値段も確かめずに日本酒を購入したら、ポテチをおまけしてくれた。
公民館の軒下で雨宿りをしていると、こんどは散歩中のおばちゃんにつかまった。旅人を見つけては話しかけることが楽しみなのだそうだ。
お祭りだけが楽しみだったのにコロナでそれもできなくなったのよね。
そう嘆いていた。
写真をいっしょにとお願いしたが、固辞された。北国の女性はシャイなのだ。
津川より先の会津街道は、阿賀野川を避けて山あいを通っている。そしてこのあたりは、新潟水俣病の発祥地という重い過去も持っている。
雨模様の空と相まって、津川より先の阿賀町の集落はすこし寂しく見えた。
川がいつの間にか流れを失っていた。
豊実(とよみ)ダム湖でとうとう福島県に入り、阿賀野川はここで阿賀川と名を変える。
磐越西線の徳沢駅に着いたところで今日の行動は終わり。
清田酒店ですすめられた麒麟山酒造の酒をひとりですする。めちゃくちゃうまい。
徳沢集落は物音がまったくせず、静かに夜が更けていった。
3日目(2022/9/19)
西会津町徳沢~会津柳津(やないづ)駅/45.6km
朝焼けのなか、徳沢を出る。
土蔵が並ぶ上野尻集落を抜けると、視界が急に広がった。会津盆地に入ってきたようだ。
四方を山に縁どられた盆地特有の開放感が心地よい。
ここまで見ることのなかった蕎麦畑やマンサード屋根の民家が現れてきた。
かつて岩手に四年間住んでいたぼくにはわかる。「東北」にやってきたのだ。
喜多方市山都町で、阿賀川は只見川と分かれ、ここからは後者をたどる。
会津盆地を貫く阿賀川本流を荒海山(あらかいさん)の源流までたどる走り旅もいずれかならずやろう。
走れば走るほど脳内マップが拡張し、訪れたい川や町がどんどん増えてくる。
いよいよ台風が近づき、いつ雨に降られてもおかしくない状況になってきた。それでもきわどく雨雲をかわしつづけている。
残念なことに磐梯山は雲のなかで、まったく見えない。
さて、そろそろ終わりにするか。
これからいったん東京に戻るのだが、台風で帰宅困難者となってしまわないうちに家路につこう。
14時前、会津柳津駅で早めに切り上げる。時短のわりにまぁまぁ頑張ってよく走った。
四日後に再開の予定である。
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