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挨拶

はじめまして。
おはようございます。
こんにちは。
こんばんは。

僕の名前はツミヤマ。
広島の県庁所在地から車で約1時間20分ほど走った片田舎に住む31歳の男です。
この度、友達がノート上に書いてある記事を読み触発され、自分も始めて見ようと思いたったのである。
が、コレと言って楽しい話題も無く何かを専門的に解説出来る訳でもないので、ゆるーい感じに日々の生活や、ふと頭によぎった事柄、そして、ゾウと言う名前で行っている作詩活動のことなどを綴っていこうと思う。

と、ここまで書いたところで10分ほど指が止まる。
タバコを吹かしながら、ああでも無いこうでも無いと考えてはみるものの特筆すべきテーマは見つからない。
しかし投稿をやめようとも思えないのは「初めて」の魅力のせいだろう。

初めての行為への飽くなき挑戦こそが、我々人類の発展の歴史と言えよう。
簡単なことばかりでは無かっただろう。
初めて甲殻類を食べた人間のことを思うと、そのチャレンジ精神たるや畏怖の念を抱くほどである。

そして「初」を冠する言葉の甘美な響きたるや...

初恋、初デート、初キッス、初体験、初詣、ハツカネズミ、etc...

その魔性に人々は取り憑かれ、例に漏れず僕も、こうして「初」投稿をすべく頭をフル回転させているのである。
それが誰も見向きもしないであろうウェブ上の末端の書き込みであっても、「初」へ全力で取り組むということを僕は心掛けている。

もうひとつ、僕が人生で大事にしていることは挨拶だ。
学もなく、芸も無い僕のような人間がこうして平穏に暮らせているのは、紛れもなく挨拶のおかげである。

この記事の冒頭で書いた挨拶はもちろんの事なのだが、極論を言えば「ありがとうございます」と「いただきます」が有れば人は生きていけると思っている。
この日本という島国は特に礼節を重んじる傾向に有るので、逆を返せば、挨拶を出来ない人間は非常に生き辛く感じることであろう。

こんなことがあった。

ある夏の日、時刻は19時を周り、電柱はその影を伸ばしつつあった。
日中の汗を流すべくシャワーを浴びた僕は、火照る身体を静める為に、全裸で扇風機の前に座り込んでいた。
なぜかその時、むしょうにコカコーラを飲みたくなった。
冷蔵庫には酒と緑茶しか無い。
アルコールは大好きだが、なぜか僕はその時、コーラ以外を飲む気にはなれなかった。
いてもたってもいられなくなった僕は、自販機を目指すべく足速に家を飛び出した。
昼の気温とはうってかわり、涼しげな風とすれ違った。
慌てて飛び出したこともあり、ウォークマンを忘れた僕の耳に、何処かで鳴くスズムシの声がコダマした。
その瞬間、得も言えぬ感情を覚えた。
周り続ける地球が起こす風と、夏の虫の声。
この「当たり前」を不意に感じたことによって、生きている!と強く実感したのだった。
この地球上の無数の命のひとつに、僕が有ることをとても嬉しく思った。

ふと前を見ると、妙齢の女性2人組がウォーキングをしていた。
上機嫌だった僕は普段しないことなのだが、通りすがりに挨拶をすることに決めた。

こんにちは。
僕は言った。

しかし、女性2人から挨拶が返ってくることは無かった。
それどころか怪訝そうな表情で僕を見たあと、足早に過ぎ去っていったのだった。
ひとりの男の舞い上がった気持ちは、一瞬にして地に落ちた。
残酷な現実にうちひしがれながら、自販機を目指した。

当時の僕は医療関係者の多く住む閑静な住宅街にあるアパートに住んでいた。
我ながら、こんな野蛮な見た目の人間が暗くなった通りを徘徊しながら、いきなり声をかけてくるなど不審者極まり無いよなと感じていた。
深い悲しみのなか、僕は誓った。
今後、自分に挨拶をしてくれた人をないがしろにしない、と。

自販機に到着した。
4、5分の道のりであったが、とても遠く感じた。

そこで気付いた。
財布を忘れてきた。
いや、それどころか、
服を着るのを忘れていた。
遠くで赤色灯が回っているのが見えた。
それが僕の「初」逮捕だった。