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銀河鉄道に乗った夜
立つことすらできない
貨物車の固い床に這いつくばるしか為す術がなかった
震度5弱の揺れが続く漆黒の世界では
ガギグゲゴ以外の音は聞こえない
おまけにサハラの砂と鉄鉱石の塵が容赦なく襲い掛かる
唯一許された行為は目を開けること
その制限時間は5秒
短命の視覚が捉えたのは満天の星空ではなかった
そこは宇宙だった
神秘的な空間が広がっていた
見上げているのか見下げているのかもわからない
落ちそうという恐怖さえ感じる
振動と轟音と砂塵にまみれ、猛スピードで突き進む
ロケット?
いや違う
あの日僕は“銀河鉄道”に乗っていた
![](https://assets.st-note.com/img/1721294287850-quMKJRivuy.png?width=1200)
アイアントレインのことをどこで知ったかは忘れたけれど
その異名は一瞬で脳裏に焼き付き
いつまでも離れなかった
“世界一過酷でクレイジーな鉄道”
旅の舞台はモーリタニア
スーパーに並んでるタコの産地
知っていた情報はそれだけ
恐怖よりも好奇心が打ち勝ち
絶対に行くと決めた
その野望を世界一周中に叶えた
![](https://assets.st-note.com/img/1721294302575-dJtUm87CVP.png?width=1200)
「言葉のわからない異国の旅行者」が「ちょっと困っている地元の友達」になれた国だった
英語が話せなかったら英語ができる人を連れてきてくれた
その英語が話せる人は率先して道案内してくれた
車で乗り合わせた婦人がサンドウィッチを分けてくれた
すれ違った青年が身にまとっている民族衣装を着させてくれた
運転手は多すぎる検問に備え、パスポートを10枚もコピーしてくれた
そこに金銭は全く発生しなかった
あったのは優しさと暖かさだけだった
騙されないぞと気を張ってた自分が情けなくなった
次に行ったら謝ろう
また鉄道に乗ろう
アラビア語とフランス語を覚えよう
世界遺産バン・ダルガン国立公園も興味深い
![](https://assets.st-note.com/img/1721294313253-2LWwpbCJSR.jpg?width=1200)
旅行先としてはおすすめしないけれど
旅先としてはこの上ない
そんな国
モーリタニア
![](https://assets.st-note.com/img/1721294320292-H2qLQkYSna.png?width=1200)
バーチャルでも旅ができる時代だけれども
視覚と聴覚だけの旅はやっぱり物足りない
思わぬ出会いや優しさに触れて“喜”び
からかわれて、騙されて、バスが故障して“怒”る
歌い踊り、語り合い“楽”しみ
別れを惜しんで“哀”しむ
五つ感覚と第六感が本格稼働し、喜怒哀楽溢れるのが旅
だから僕は旅をやめられない
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