「デュアラン」と5,000円

巷では新たな大学が開校したという話題で持ち切りだが、そんなくだらない話には目もくれない私が今日注目したワードは「デュアラン」。たまたまTwitterのトレンド欄で見かけただけ。

言葉の解説は後ほどするとして、このワードは定期的に話題に上がり定期的に同じテーマで議論される単語である。今回もどうせ同じような話題だろうと思って調べたら案の定であった。このような「定期的に話題になり過ぎ去っていくワード」というのは様々な界隈に存在しているようで。パチンコ界隈でも最近は「5,000円」という単語の話題で持ちきりだった。

どちらにもある程度の知識を持つ私は、以外にもこの2つのワードが非常に共通点の多い、似た者同士であることに気づいた。今回は様々な界隈に明るい私が、それぞれの共通点を解説しようと思う。「どの界隈も同じような人たちが興味深い事を言うんだなァ」とでも思って貰えればガス抜き程度にはなると思う。

ちょっと長い用語解説

「デュアラン」とは「デュアルランド」の略である。
デュアルランドとは、トレーディングカードゲーム(TCG)の始祖と言われる「Magic:The gathering」(MTG)に存在する、ある10枚のカードの総称である。

MTGは1993年に初版が販売され今年は30周年を迎える。デュアルランドはこの初版にしか収録されていないカードであり、現在のパックを開封しても出てこないものだ。30年前に刷られたっきりなので当然コレクター間での市場価値は高い。状態にもよるが基本的には10枚のうちの、どの1枚を取ってみても数万円からというのが基本である。

また希少性だけでなく、ゲームにおける強さも尋常ではない。MTGやカードゲームに限らず、対戦ゲームが販売された直後の黎明期というのはゲームバランスが崩壊している事も多い。このデュアルランドは強い方向にバランスが取れていないカードなのである。

ちょっと見聞きしたことがある人ならば「Black Lotus」や「パワー9」という単語を聞いた事があるかもしれない。これらはデュアラン同様、MTG黎明期に印刷された「パワーカード」の事を指し、9枚あった事から「パワー9」と総称して呼ばれる。「Black Lotus」はパワー9の中でも特に価値が高く効果も強いことで知られる非常に有名なカードである。状態にもよるが1,000万円以上の値で取引される事も珍しくない。デュアルランドはこれらの「パワー9」に次ぐ強さを持つともいわれる。

もうちょっと説明が続くんじゃ

30年もの歴史を誇り、eSportsのように賞金大会も行われプロ制度も存在するMTGは全てのカードが自由に使用可能というわけでは無い。決められた枠の中(フォーマット)でデッキを組んで平等に戦えるようにする為、使用可能な枠組みが決められている。そして各プレイヤーが思い思いのカードで遊べるようにする為、多くのフォーマットとルールが存在する。

デュアルランドは非常に古い時代のカードである為ほとんどのフォーマットでは使用することが出来ないが、初版から現在までの殆どのカードを使用可能とした「Vintage」と、Vintageほどでは無いが幅広いカードを使用可能とした「Legacy」という2つのフォーマットで使用可能である。この2つのフォーマットは当然公式大会でも採用されるフォーマットであり、これらの大会を優勝する事で賞金や賞品も得られる。

Vintageは前述した「パワー9」すら使用可能なフォーマット。前述のようにパワー9はゲームバランスを崩壊させるほどのカードである為、このフォーマットでは当然複数枚採用される。よって、値段が1,000万円に届くようなデッキを組むことも可能。そういったカードをテーブルでやり取りしている対戦風景は価値を知る者からすれば圧巻である。

Legacyはパワー9こそ飛び交う対戦ではないものの、同様に黎明期のパワーカードが飛び交いやすい。Vintageほどでは無いにしろ、デッキの総額は100万はくだらないというような代物が多い。

反面で、Legacyは現代のカードでも通用するカードがそれなりに存在し、希少価値が低く手の届きやすいカードやデッキも存在する為Vintageほどの敷居の高さを持っていない。100万円のデッキと数万円程度のデッキが試合をし、値段の安い方が勝ってしまうというようなことが平然と起こる環境である。

デュアルランドはこのLegacyという環境においては、デッキ全体の値段を一気に吊り上げる原因にもなっている。MTGは頭脳戦のゲームであるので若いプレイヤーも多く実績を上げているが、Legacyという環境におけるトーナメントレベルのデッキを作ったり腕を磨いていくにはちょっとお値段が高いというのが現状である。実際はプレイヤー間でデッキをシェアしたり、必要な高額カードを信頼関係の上で貸し借りを行ったりというのが一般的であるようだ。

まとめるとデュアランは

  • 希少価値が高く高額

  • 希少価値だけではなく強いカードなのでより値段が高騰

  • 無いと遊べないというものではない


何故話題になったの??

早い話が、SNSで燃えたから。「デュアランが入ってないデッキは安っぽくてつまらなそう」といった趣旨の発言をしたプレイヤーが居たからだ。わがままだなぁ。

5,000円問題って??

さて、いったんMTGから離れる。タイトルにもあった5,000円問題は、現在パチンコ垢の中でもTwitterのスペースが大好きな人達の間で持ち切りの話題である。なんでも、「5,000円で遊べるパチンコが無い!」というのが主な主張である。そんなことが話題なの?と思うかもしれないが、

  • 「今の」パチンコは5,000円じゃ「遊べない」

  • 1パチではなく4パチで(1パチはボーダー以上回るような台がないから)

  • 5,000円で夢が見られないとダメ

とか、色々条件や主張があるらしい。わがままだなぁ。

この2つがどう繋がるのか

MTGにしろパチンコにしろ、「今それを楽しんで遊んでいる人がいる」事に対して一切目を向けず、自分が思っている理想と違う現状が嫌いという事だけで不平不満を述べているという共通点があると思う。

MTGは前述したようにデュアルランドを採用しない、または極力枚数を抑えた低価格デッキというものが存在している。またLegacy以外にももっとカードプールが狭くカードを揃えやすいフォーマットも存在している。パチンコには1円パチンコという4円パチンコの4倍遊べるフォーマットが存在している。どちらも様々が遊び方が提供されているにも関わらず、自分の欲望や希望とは異なるものに対して興味を抱いたり好意をもって接している人を蔑んでいるように見える。


こういう話が出てくる時に、私はいつも「攻殻機動隊を打ちたいな」と思うのである。一節にこういうセリフがある。

世の中に不満があるなら自分を変えろ。

それが嫌なら耳と目を閉じ、 口をつぐんで孤独に暮らせ。

草薙素子
攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX 第1話

私がこの手の話で当事者に聞いてみたいのは「あなた達そうなった時に本当にそれで遊びますか??」という事だ。例えばデュアルランドの価値が暴落し多くのMTGプレイヤーがそれを手にする事が可能になったとする。そうなった時に、先の発言をしたプレイヤーは本当に自分が望む状況になったと思うのだろうか。今まで実力はあるが資産状況的にそういったデッキを手に取る事が出来なかった選手が、デュアランを入手し整ったデッキを用いて怒涛の勢いで賞金を積み重ねるかもしれない。そうなった時に自分は対等な環境でそういった芽の出ていないプレイヤーに勝てると思っているのだろうか?「誰でもデュアランが使えるなんてひどい環境になった」と言っている様子が私には目に浮かぶ。

よくいる2.5円信者の皆さんにも問いたい。私の住む田舎のように店舗数が少ない地域ならまだしも、店舗数の多い都会であれば他店とは違った低交換率をウリに戦っている店舗は現存していると聞く。では、彼らはそういった店舗の常連なのだろうか?答えは聞くまでも無いだろう。自分がその環境に身を置くことが出来る状況にもかかわらずそれをしないのは何故なのか。

デュアランに否定的だった彼も「つまらなさそうだなぁ」と断定的な表現をしていない、要するに「やってみてつまらなかった」わけではなく「(傍目から見て)つまらなそうだった」のである。要するに自分でその環境に身を置いていないのである。

SNSなので不平不満をいうは自由だ。しかし、こういった類の「ネガティブな要素を含む」発言というのは共感が得られないとたちまち燃え広がる。普段パチンコ業界に対してネガティブな発言を連発している私が炎上したことが無いのは一定の共感が得られているからだとポジティブに考えている。実際は大して読まれていないとか、フォロワーが少ないとかそういったところが原因だろうが。とほほ。

まとめ

パチンコの2.5円や5,000円などは、基本的に「昔は良かった」的な懐古厨の怨念がもたらす発想だと思っている。だが、この人たちは一番大事な事を忘れている。万が一パチンコが彼らの言う「良かった時代」と同じ環境に戻ったとしても、周りを取り巻く環境までは戻らないという事を忘れている。お給料もそう、物価もそう、パチンコのスペックもそう、肉体的な若さや精神的な若さも含めてだ。果たしてそれを加味しても2.5円で、5,000円で遊べる状況が「今の自分」にとって良い事なのかどうなのかもう一度考えて貰いたい。

デュアルランドは10年ほど遡ると今の1/10程度の値段で購入できた。しかしデュアルランドの高騰は逆にこれらを採用できない人たちよって、これらを採用しない強いデッキを開発する為の原動力となっていたかもしれない。プロのデッキリストを見ても、デュアルランドを入れる余裕があるにもかかわらずデュアルランドの完全劣化にあたるカードを採用し結果を残しているケースも存在する。また、完全なプロ志向なプレイヤーならまだしも、友人と遊んだり野良の非公式大会に出る程度なら環境上位のデッキを使う必要もないし、プロキシ(偽物のカードの事。野良試合で使う分には問題は無いが、公式大会では本物以外使用不可)を用いればプロとそん色ないデッキを遊ぶこともできる。今自分がMTGを楽しむ上でデュアランが必要不可欠なのか今一度考えて欲しい。

最後に、今回のテーマに対する私の答えをMTGのとあるカードのフレーバーテキスト(対戦には関係の無い、MTGの世界観やキャラクターの性格を示すような雰囲気作りの為の文章)から引用して終わろうと思う。

"I didn't come to play. I came to win."
訳:「おれは遊びに来たんじゃない。勝ちに来たんだ。」

Kamahl, Pit Fighter
ピット・ファイター、カマール

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