坂城ちはや

純文学の短編小説を執筆中です。 Amazonにて短編集「花になった幽霊」「一寸先は泡」…

坂城ちはや

純文学の短編小説を執筆中です。 Amazonにて短編集「花になった幽霊」「一寸先は泡」発売中。 目標は短編集を作って文学フリマで出品することです。ピース!! @tamani_zoma

最近の記事

アイスクリーム・ナイト

同級生の氷熊くんは、夜になるとシロクマに変身する。 人は誰しも人間をやめたくなる日が一度や二度はある。かく言う私も毎日思っている。 そういう時、氷熊くんの身体には、とある異変が訪れる。アレルギー反応のようなものだ。最初の兆候は彼がまだ幼い頃に突然現れた。ふわふわの白くてまあるい尻尾がお尻にぴょこっと生えたのだ。彼が幼稚園に初めて登園した日の夜だった。慣れない環境と、親と離れ離れで過ごす寂しさは、彼にとって極めて甚大なストレスだった。氷熊くんのお父さんとお母さんはその尻尾を

    • 一寸先は泡

      僕の恋人の睡蓮ちゃんは、妙な癖をもっている。 バスや電車に乗る際は吊り革を持たずに仁王立ちで踏ん張る。人と握手をした後は必ず手を洗う。ドアノブに触れる際はハンカチで包んでから握る。 睡蓮ちゃんは正義感が強く、真面目で、いつも清潔だった。睡蓮ちゃんにとって、この世界は目に見えない幾多の脅威に溢れており、ひとかたならぬ注意と配慮を必要とし、生活のひとつひとつが(息をすることすらも)命がけのミッションだった。 睡蓮ちゃんの趣味は読書だが、如何せん図書館の本には触れなかった。清

      • アラウンド

        昔からメリーゴーラウンドが苦手だった。 陽気なBGMが同じフレーズを何度も繰り返し、カラフルな馬やカボチャ型の馬車が同じ場所をぐるぐると永遠に廻っている。 実際は永遠などではなく、終了時間が来ると、ぷしゅーという空気が抜けたような奇妙な音をたてながら動きは止まる。 だがその数分間が桃子には永遠の時間に感じられた。もうこのまま死ぬまで降りられないのではないだろうか、一生同じ音楽が流れ続け、一生同じ場所を周回しなければならないのではないだろうかというような、〝この空間から

        • 花になった幽霊

            昭和35年、僕はひっそりと死んだ。 最期に吸った一息はとてもか細く、それ故、誰にも気づいて貰えず、僕の死体の発見を遅らせることとなった。 アパートの天井の隅で幽体となった僕は生前と同じように膝を抱え、己の死体を見下ろすことしか出来なかった。 醜く朽ちていく肉体は次第に強烈な匂いを放ち始め、近隣の住民が警察に通報し、やっと僕は発見された。 遺品整理をしに父親が部屋に入って来た時も、僕は同じ態勢で宙を漂っていた。 死んだことが悲しいだとか、悔しいとも思わなかった。生きていた

        アイスクリーム・ナイト