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肩書き

「ウェディングデザイナー」


名刺にはそう書かれていた。

たしか15年以上前のこと。僕の留守に尋ねてきた旧友が置いていった名刺のことだ。

どういった職業…?と訝しんだのものだが、既存の職業を「~デザイナー」と言い換えるのが当時ブームだったんだと記憶する。

ウェディングをデザインするわけだから恐らく結婚式の進行をプランしたり、流される映像を制作したり、全体の演出を計画し取りまとめる仕事なんじゃなかろうかと思う。

他にも美容師=ヘアデザイナー、設計士=建築デザイナー、栄養士=フードデザイナー…そんな呼び名があったような?
(今もそうなの?むしろ定着してそう呼ぶのが当たり前に?)

べつにこういった風潮を軽んじる意図は全くなく、むしろ職業の呼び名をいくぶんキラキラとさせてあげることで、きっと名刺を受け取った相手も素敵な職業だなぁと感じてくれるかもしれないし、本人の自尊心が高まる効果もあるのだろう。良いこと尽くし、全然アリだと思う。

そして実は僕らの仕事にも様々な呼び名がある。呼び名は「陶芸家」だけじゃない。

「陶芸作家」「陶器作家」「うつわ作家」「作陶家」「陶芸彫刻家」「セラミックアーティスト」「クレイアーティスト」「陶小物作家」…思いつくだけでもこんなにある。

粘土で作れるものの幅はかなり広く、その作風に応じて伝え手たち(ギャラリーなどの売り手、雑誌などのメディア)が先導し、様々な肩書をせっせと作り上げてきた。

恐らく「陶芸家」と名乗る人の世間のイメージは未だに

「和服、白髪頭に仙人げなヒゲ」

…みたいな風貌じゃないだろうか。きっとその人は百貨店の画廊なんかで個展をひらき、壺に目が飛び出るようなおプライスをつけている。世俗から距離を置く仙人的なビジュアルのくせしてお代は必要以上に頂く。常人にはおおよそ理解不能の職業である。(映画・TVドラマや漫画“美味しんぼ”の影響もおおいにあると思う)

ともあれそういった一般的なイメージの陶芸家が現実に主流だったのはきっと1960年代あたりまで。並行して海外からのモダンな芸術の流入などにより、彫刻的な用途のない陶芸作品が生まれたりして表現の幅が広がっていった。でもこれ以降も陶芸家は陶芸家である。

これらと別路線が生まれたのは、戦後生まれの若者たちの反体制的な運動と関連がある。前述したような陶芸家のイメージを「権威」とみなし反発した作り手志望の若者たち。もっと日常に即した気軽なモノ作りで生計を立ててもいいじゃないかと、彼らは暮らしの中で使うための陶器の制作を行い、かつ雇われることを避け個人活動を決め込んだ。そういった風潮はちょうど僕の父の年代あたりからだ。

バブル崩壊後からかえってそういった作り手たちの活動は勢いを増し、その末裔が「うつわ作家」とライトな感覚の呼び名を与えられ現在活動をしており、きっと僕もそれに含まれる。

芸術作品の制作が主だった方が気軽な日常使いのものの制作に手を拡げたり、逆に生活陶器の作り手がアート風のアプローチをしてみたりと、今ではジャンルの垣根は壊れつつある。

また近年の「趣味でお小遣いが稼げたら」ブームの影響で「手作り作家」と呼ばれるセミプロ的な方々も参戦してきたりでこの業界は混乱を極めている。

思いもつかなかったような肩書がこれからも生まれてくることだろう。

乱立するそれらに惑わされ本来の自分があるべき姿を見失わないように、今ある足場をがっちりと組み上げ、かつ目指すべき「北極星」のようなもののイメージをしっかりとらえながら歩んでいきたい。


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