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【第二弾】次郎作による英語論文読み解き講座〜メタアナリシス編〜

こんにちは、次郎作こと布施田泰之です。

医学生時代から続けている”次郎作ブログ”(https://fuseda.xsrv.jp/wp/)や、

医学書や医学参考書のレビューを集めている”医学書レビュー.com”(https://igakusho-review.com/)というサイトを運営しています。


前回書いた記事が↑この記事がとても好評で、Twitterでも拡散していただいたことを受けて、「英語論文の読み方」の第二弾の記事を書くことを決めました!

僕は今、医師5年目の小児科医で、来年からはMPH(公衆衛生学修士)を取得するために東京大学の大学院に進学予定です。

2020年から、後期研修医の後輩と一緒に1つの論文を読んで、その論文を読み解きながら勉強するべき点をスライドにまとめて講義をする、という1on1の勉強会をしてきていたので、その資料を使ってnoteにまとめていきます。

自己紹介やこういった記事を書くに至った経緯は、詳しくは前回の記事に書いているので読んでみてください!


初期研修医の頃から果敢に英語論文を読み続けて、

ようやく「少しは読み方がわかってきたかな?」というところなので、

なるべく自分が分からなかったところを分かりやすく噛み砕いて説明していこうと思います!


第二弾「メタアナリシスの読み方」

前回は、

・なぜ英語論文を読むの?読むべき論文の選び方は?

という点から始まり、

・RCT(ランダム化比較試験)の読み方

についてご説明してきました。


今回は、ちょっととっつきにくい「メタアナリシス」の読み方についてです。

エビデンスピラミッドの頂点「メタアナリシス」

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最近の医学教育で強調されているEBMですが、その中でも「メタアナリシス」は一番エビデンスが高い、と説明されることが多いと思います。

メタアナリシスでは、複数の研究を統合して結論を出すので、確かにエビデンスレベルが高くなることが多いです。

それなら「メタアナリシスだけ読めばいいじゃん」となるかというと、そうではありません。

その理由は、臨床に進めばわかると思いますが、

・メタアナリシスで結論が出ていることは、あまりない

ということが1つです。

そして、

・そもそもメタアナリシスで統合する研究のほとんどはRCT

なので、RCT(ランダム化比較試験)の解釈が最低限できていないと、メタアナリシスの評価自体が難しい、という問題があります。

また、メタアナリシス以外の論文では見たことのない図や研究方法になるので、少し読みにくい、とっつきにくいと思います。

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また、メタアナリシスの質は統合する研究の質に左右されてしまいます。本文にも、集めてきた論文の質を評価する部分が出てきます。

そのため、個人的にはRCTを読みこなせるようになってからメタアナリシスを読んでみると良いと思っています。

システマティックレビューとメタアナリシスの違い

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そもそも、僕が言い分けていた「システマティックレビュー」と「メタアナリシス」の違いは知っていますか?

一度聞けば当たり前なんですが、

システマティックレビュー:複数の論文を集めてくるが、結果は統合していない

メタアナリシス:複数の論文を集めてきて、結果を統合して結論を出している

違いはそれだけです笑

メタアナリシスのガイドライン、PRISMA声明

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前回のnoteでRCTの説明をした時もRCTを行う上でのガイドライン「CONSORT声明」がある、という話をしたと思いますが、

同様に、システマティックレビューやメタアナリシスをする上でのガイドライン「PRISMA声明」というものもあります!

タイトルにメタアナリシスかシステマティックレビューが明記すること、個々の研究のrisk of biasを示すこと、研究を選択してくる際の過程をフローチャートで示すこと、などのことがチェック項目として挙げられています。


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では、実際に論文に沿って解説していきます。

今回は「ハチミツによる上気道症状の改善効果を見たメタアナリシス」の論文です。

小児科医としては「ハチミツによる鎮咳効果」を示すメタアナリシスが出たことが記憶に新しいですから、それに追随したメタアナリシスなのかな?と思って読み始めました。


メタアナリシスの手順

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メタアナリシスのMethod(方法)の部分を読み解く上で、

システマティックレビューやメタアナリシスの基本的な流れを知っておくと分かりやすいので、図を引用してきました。

本当に大まかに説明すると、

・研究で明らかにしたい疑問を決めて、そのためにどういった研究を探してくるか決める(論文を系統立って(システマティックに)調べてくるのでシステマティックレビューと呼びます)

・最初はタイトルと抄録(アブストラクト)のみで絞り込みを行う

・良さそうな論文は全文読む

・各論文の質を評価する

↑ここまででシステマティックレビューは終わりです。

これに加えて、

・結果を統合してみて結論を出す、まで行うとメタアナリシスになります。

論文の選択のフローチャート

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右の図が今回の論文での「論文選択のフローチャート」です。

まずは、①のように「データソース」つまりどのデータベースで論文を検索するかを決めます。

次に、②のように今回のメタアナリシスに組み入れる論文の条件を決めます。この論文では「Randomised clinical trials or in vivo observational studies」と書いてあり、RCTだけではなく観察研究も集めてくるみたいです。

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この、論文を選んでくる過程は、基本的に2人以上でやります。

一人だと抜けが出たり、客観性が出なくなってしまうからだと思います。時折本文に、これみよがしに研究者のイニシャルとかが出てくるのはこのためです笑

文献リストとrisk of bias(研究の質の評価)

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上のような作業を行い、出来上がった文献リストが大体載っています。

この論文リストはとても有用です!

なので、個人的には何か調べたいときに「システマティックレビュー」があれば、その論文の中の文献リストを利用して文献を探していくことがあります。

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システマティックレビューやメタアナリシスでは「集めてきた論文の質」も評価します。

総合的に「ちゃんと質の高いRCTが集まっているか」をみてみましょう。しょぼい観察研究しか集められていない時もよくあります。

「論文の質」の評価は「バイアスがかかっていないか」を確認することで行っていきます。

バイアスに関するものとしては、ランダム化ができているか、盲検化ができているか、研究の脱落者はどうか、などです。バイアスに関しては、また別でしっかり勉強すると良いと思います。

システマティックレビューの場合は、ここまでの知識で読むことができます!


メタアナリシスの結果の見方

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ついに、やってきましたメタアナリシスの「結果の見方」です。

メタアナリシスの独自の結果の図のことを「フォレストプロット」と呼びます。

スライドの右上にフォレストプロットの結果を集めて、森(フォレスト)みたいにしてみました笑 一応これが名前の由来みたいです。

内容としては、書く研究ごとに点推定値を示す四角と95%信頼区間を示す横線が並んでいます。

よくみると、四角の大きさが研究ごとに違うことに気がつきましたか?

この四角は研究の重みによって大きさが変わり、一般的には症例数が多い研究で四角が大きくなります。

その一番下には、「菱形」が配置されます。そうです、これが統合した結果です。

菱形の上下の頂点の位置が点推定値、菱形の左右の頂点の幅が95%信頼区間に対応しています。

知ってしまえば、結構見やすいと思います。

なので、この論文の結果を読み解くと、

「Combined symptoms score」は3つの研究でいずれもmean difference(平均の差)の95%信頼区間が全て0以下になっており、その研究の結果を統合しても同様の結果だ、

つまり、「Combined symptoms score」はハチミツで下がる、という結論のようです。

異質性(Heterogeneity)とは?

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ちょっと待ってください、先ほどの結果の図に謎の数字が書いてありませんでしたか?

Heterogeneity(異質性)に関する数字たちです。

異質性とは「研究ごとに治療と効果の関係に違いがあること」なんですが、これだけでは意味が分からないと思います。

実際、僕もこの「異質性」の意味がよく分からなくて困っていました。

分かりやすく例を挙げてみます。

ここに2つの真実があるとします。

「高齢者(65歳以上)にハチミツを飲ませると、咳の症状が2割減る」

「子供(15歳以下)にハチミツを飲ませると、咳の症状が8割減る」

この真実が本当だとすると、

「高齢者に対するハチミツの効果をみた研究」と「子供に対するハチミツの効果をみた研究」では、「ハチミツの鎮咳効果」が異なります。

この「ハチミツの鎮咳効果が、研究によって違いがある」ことを、

「異質性がある」と言うんです。

では、なぜ「異質性がある」かどうかを気にするのでしょうか?

それは「研究の結果を統合するときに異質性があると困る」からです。

研究ごとに治療効果が同じであれば単純に統合して良いのですが、異質性がある場合は色々と工夫したり、そもそも結果を統合することを諦めないといけません。

なので、メタアナリシスの論文では、異質性があるのかないのかを数字で示します。

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僕が大事だと思う、解釈に関する内容をお伝えします。(この記事では、詳しい異質性のパラメータの計算式には言及しません)

「Chi2」や「df」は、「コクランQテスト」と言う仮説検定に用いる数字になります。

「コクランQテスト」とは、異質性があるかないかを統計学的に検定する方法です。

なので、他の検定同様に、

P値が0.05以下であれば「異質性がある」と結論づけることになります。

(異質性の検定の場合はP 値を0.1以下で有意とする判断基準が用いられることもあります)

この論文は、P値が0.49なので異質性はないとなりそうですね。

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次に、「I2 (I-squared)」と言う数字に関してです。

この「I-squared」と言う値は「異質性を定量的に評価する指標」です。

0〜100%の範囲をとる数字で、0%で異質性なし、100%で異質性が高く統合すると問題あり、という判断となります。

分かりやすいですよね笑

なので、最初の頃はこの「I-squared」くらいは確認してみてください。

異質性はジャマものか

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では、異質性が少しでもあるメタアナリシスは、質の悪い論文、臨床に役立たない論文かと言われるとそうも言えません。

元々、メタアナリシスの強みに、

「各研究の結果を統合することで、より大きな集団に対して結論を出しうる」という点があります。

なので、異質性の意味を知って、いくつか対処法を知って、論文を読み解いていってもらえると良いと思います!

異質性の対処法

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おそらく、一番有名な異質性の対処法は「変量効果モデル(random-effect model)」と言う異質性があることを加味した統計学的モデルを用いた解析方法だと思います。

いつ「変量効果モデル」を使うかは細かい話になるので割愛しますが、

最初は「異質性がある結果をみたときは、解析に変量効果モデルを使用しているのか確認してみよう」くらいの気持ちで良いと思います。

逆に「固定効果モデル」では異質性があることを前提にしていないので、異質性がある場合には使用すべきではない、と言われています。

また、一般的には「変量効果モデル」では95%信頼区間が広くなり有意差が出にくくなります。


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具体的に今回の論文の解釈に関してですが、

このスライドでは「Cough severity」についての結果の図を載せています。

I-squaredは20%なので異質性は少しある程度で、解析には異質性がある時に用いる「変量効果モデル(random effect model)」が使用されていました。

各研究の95%信頼区間をみると、平均の差(mean difference)で0をまたいでいて有意差がないとされる研究も2つありますが、

結果を統合すると、mean differeceの95%信頼区間は0をまたいでおらず0以下となっており、「ハチミツには咳症状を抑える効果あり」と考えて良さそうです。

小児科の臨床医としての感想は、「ハチミツの鎮咳効果」はすでに報告があるから、まぁそういう結果になるだろうな、という感想です。

「上気道症状スコアの改善」というアウトカムも「咳症状の改善」に引っ張られて有意になっただけじゃないのかな、と感じました。

出版バイアスとは

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この論文では「出版バイアス」「Funnel Plot」を用いて確認していました。

さて「出版バイアス」とはなんでしょう?

それは「有意差が出た研究だけを出版(Publish)したくなるバイアス」のことです。

これは、研究者と出版社のどちらにもかかりうるバイアスです。

研究者としては「なんだ、有意差が出ないのかよ!次の研究に進もう!」となりますし、

出版社としては「やっぱり有意差のある分かりやすい結果がみんなの目を引くんだよね〜」と、有意差のある論文をアクセプトしやすくなります。

その結果に起こることは、

「有意差のある研究のみが出版されてしまい、それらを統合したメタアナリシスの結果が歪んでしまう」ということです。

けっこう落とし穴ですよね、最初に気付いた人すごくないですか?笑

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その「出版バイアス」の評価方法「Funnel Plot」です。(Funnelは漏斗って意味らしいです笑)

方法としては、出版されている結果をプロットしていくのですが、

縦軸は「標準誤差」で、分かりやすく言うと、上の方に症例数の多い研究結果、下の方に症例数の少ない研究結果がプロットされます。

横軸は「効果の大きさ」で、オッズ比や相対リスクなどです。

下の方に分布した研究は症例数が少ないため結果のばらつきが出て、必然的に左右対象にバラつきます。

しかし、スライドの右下の図のように、左右のどちらか一方に偏っている時に、効果がある研究結果だけが出版されている可能性に気付くことができます。

この「Funnel Plot」は出版バイアスに気付くためのツールです。

では、そもそも出版バイアスを起こさないことはできるのでしょうか。

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「出版バイアス」を生まないために、NEJMやJAMAなどの有名ジャーナルが集まって、

「臨床試験を行う時は事前に登録してください、してないと結果載っけてあげないよ」と明言しました。

これにより、多くのランダム化比較試験などの臨床試験は事前登録されるようになり「出版されなかった臨床試験」が確認できるようになりました。


資金提供はどこだ

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これはメタアナリシスだけではないですが、論文(特に薬の効果を比較するような臨床試験)を読む時には一応資金提供先を確認するようにしましょう。

ただ、「資金提供がある=ダメ」と言う簡単な話ではなく、

イメージとしては「資金提供先によっては、バイアスがかかりやすくなりうるのでより注意深く読もう」という感じです。

以前読んだ、RSウイルスのモノクローナル抗体に関する論文は、アストラゼネカが資金提供をしていたのですが「現在のスタンダードと比較していない」「サンプル計算が有意差が出やすいようになっている」など、論文を読み解く上で細かい注意点がありました。

資金提供先についても意識して論文を読んでもらえるといいと思います。



それでは第二弾「メタアナリシスの読み方」は、以上になります!

前回の「論文の選び方〜RCTの読み方」よりはボリュームとしては軽かったかなと思います!

今日で一度「ふ〜ん、メタアナリシスってそう読むんだ〜」と理解していただいて、

また実際にメタアナリシスを読む時に参考にしてもらえると良いかなと思います!

また、分かりにくい内容があれば是非教えてください、手直ししようと思います!

医師としての勤務経験から、病院の外からも医療現場をよりよくできないかと考えています! サポートいただけるといろいろなことにチャレンジできます! 応援よろしくお願いします!