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ショート問題とプロスペクトの育成について

 当初の予想を覆して開幕以来地区首位を走る我らがクリーブランド・ガーディアンズ。監督1年目のS. ボート監督のマネージメントや個々の選手達の頑張りは真につ賞賛に値します。とは言え、かねてより懸念された問題点は解決されたとは言えません。今季これから優勝を目指すに辺り各媒体でもチラホラ記事になってきていますが、今季のみならず中長期的に見てチームの今後を左右するトピックと思いますので、取り上げたいと思います。


ショートのレギュラー問題の経緯

 2015年メジャーデビューしたF. リンドーア(現NYM)が即定着して以来、ショートはCLEの強みの一つでした。しかしFAが迫る中度重なる契約延長交渉の決裂によりリンドーアは2020-21オフにNYMにトレードされ、それ以降ショートのレギュラー問題がのしかかっています。

 元々CLEは若手を取る際にショートができそうな選手を獲得する傾向がありましたが、リンドーアが退団する前後のトレードでそういったプロスペクトを獲得した結果、二遊間のプロスペクトを大量に抱える事になりました。

 リンドーアの穴埋めとしてNYMからリンドーアに押し出される形で代わりにトレードされてきたA. ヒメネスがプレーしましたが、絶不調でマイナーに降格。その代役としてやはりリンドーアとのトレードで加入したA. ロサリオがショートのレギュラーとなりました。ロサリオはムラっ気のある選手ですが、そのアグレッシブさが当時のT. フランコーナ監督に気に入られ、レギュラーとしてプレーする事になりました。一方ヒメネスはマイナーでの調整を経てセカンドにコンバートされます。ロサリオ・ヒメネス以外の選手も何人か試されましたがレギュラーを獲得する事はなく、その2人が二遊間を務める事になります。

 そして2022年、ヒメネスが本格的にブレイクしてプラチナグローブ獲得、ロサリオも懸念だった守備が改善して攻守に活躍し、地区優勝&PS進出に貢献します。しかし2023年に双方共に不調に陥り、その年にFAになるロサリオはシーズン途中にLADにトレードされ、またショートのレギュラー問題が再燃する事になりました。

 2021年の時点でロサリオを試さずにじっくり育てるべきだったという意見もありますが、不運にも候補となる選手がその時に怪我や不調でプレーできなかったですし、現状見る限りもしそうしていたら少なくとも2022年の地区優勝は難しかったと思います。そうなれば低迷していた危険性もありますし、個人的にはロサリオの起用は妥当だったと考えます。

 ロサリオのトレード以降にショートのレギュラー候補としてCLEでプレーした選手は

・G. アリアス
・T. フリーマン
・B. ロキオ

の3人。

いずれも帯に短しといった具合にレギュラー獲得とは至っていません。

アリアス 長所 パンチ力
     短所 攻守における安定感のなさ

フリーマン 長所 メイクアップ
      短所 守備力

ロキオ  長所 守備力
     短所 パンチ力のなさ

といった所でしょうが、3人とも打撃が安定しないのが一番の問題でしょう。現状消去法でロキオが一応ショートのレギュラー格で、フリーマンはM. ストローがマイナー落ちして空いたセンターにコンバートされています。アリアスは4月下旬好調だったにも関わらず出場機会が十分に与えられず、結局元に戻ってしまいました。SNSなどでファンから叩かれる事も多く、個人的には何とかしてあげて欲しいです。

下部組織の選手達

 絶対的なレギュラーがいない中で下部組織の候補となる選手は何人かいます。

まず3Aコロンバス・クリッパーズの3人。

J. テナ 長所 守備力
    短所 フリースインガー

A. マルティネス 長所 打撃
        短所 守備力

J. ブリトー 長所 打撃
      短所 基本セカンド専門

やはり帯に短し、といった所ですが、この内テナは連続試合安打記録を作るなど好調ですので、近々昇格もあるかもしれません。なお、3人とも既に40人枠入りしています。

 2A以降に目を向けると何人か候補はいますが、個人的には現在A+でプレーする、A. ムーニーに期待しています。

打撃も好調でパンチ力もそこそこあり、守備範囲は広くないみたいですが基本ショートが専門。楽しみな選手です。

 また特殊枠と言いますか、先日遂にメジャーデビューしたD. シュニーマンもショートでプレーしますが、マイナーでの起用を見る限り彼はUT枠として期待されているように見受けられます。個人的には一度試してみて欲しいですが😅

ただどの選手にしても、ショートのレギュラーを獲得するのは簡単ではないでしょう。即メジャー定着したリンドーアが凄かったのであって。

なぜヒメネスがショートにふさわしいと思うのか

 The AthleticのCLE番記者、Z. マイセルは今季TDLでのCLEの補強ポイントとしてショートを挙げています。

具体的にはB. ビシェット(TOR)、L. レンヒーフォ(LAA)の名前を挙げていますが、ビシェットに関してはTORが可能性を否定していますし、レンヒーフォに関しては基本セカンドが守備位置です。また他にはH. キム(SD)、J. チザムJr.(MIA)などの名前も上がってくるかもしれませんが、競合相手は少なくないでしょうし、TORやSDの場合、売り手に回るかどうかも分かりません。

 また仮に獲得したとしてもキムのようなレンタルならなおさら、レンヒーフォやビシェットにしても数年しかいないでしょうから、また一から探し直しになりかねません。

 ですので、個人的にはA. ヒメネスのショートへの再コンバートが一番現実的な選択かな、とずっと思っています。

初めに引用したCOVERING THE CORNERの記事には彼はアームがあまり強くない事からセカンドの方が良いのではないか、と指摘されていました。なるほどとも思いますが、それでも自分がヒメネスの再コンバートを推す理由は以下の通りです。

①守備が一番上手い

 STATSを見るまでもなく、これに関しては異議がないのではないでしょうか。二年連続プラチナグローブ賞受賞、エラーしただけで信じられない、と思わせる彼の守備は本当に素晴らしいです。ロキオも守備は良いと思いますが、ヒメネスと比べれば…。

②年俸

 ヒメネスは22-23年オフに2029年までの契約延長に同意しています(2030年はクラブオプション)。

本来FAになったであろう27-29年の3年間をCLEが買い取った形ですが、その間の平均サラリーは約2300万ドル、スモールマーケットのCLEにとってはかなりの額です。特に後述しますがヒメネスの場合リンドーアと違い打撃に難がありますので、異論が出てきても仕方ない部分があります。またセカンドというポジションで考えると、ヒメネス程の守備力ではなくても代替選手が毎年市場に出てきますので、もっと安価に済むのではないか、という意見はあると思います。

一方ショートに目を向けると、リンドーア初め一流のショートとなると3000万ドル/年以上がスタンダードになっています。そうなるとショートの選手と考えれば多少打撃が不調でもヒメネスの契約は割安とさえ言えるかもしれません。記事などでは目にしてはいませんが、フロントとすればある程度それを見越した契約だったのではないでしょうか。

③打撃に関して

 先述から分かる通り、ショートのみならずCLEの若手野手の大きな問題は打撃が安定しない事ですが、ヒメネスも2022年は非常に良かったものの、2023年には成績を落としてしまいました。それでもAVG .250、OPS .700とある程度の率が残せるのが違う所です。

とはいえホセラミの様にチームが依存する程ショートで不振だった彼がセカンドにコンバートされて打撃が好調になった経緯はありますが、これ位の打撃なら再コンバートによって多少悪化しても大丈夫ではないかと考えます。確かにリスクはありますが。むしろ他の選手がセカンドをプレーする事によってヒメネスの様に打撃が開花する可能性もあります。

④二遊間の"相棒"に関して

 前述のヒメネスと二遊間で相棒になる候補の内、J. ブリトーなどはセカンド専門ですので、もしヒメネスがセカンドのままだと、他のポジションへのコンバートを余儀なくされます。またショートができるといっても、あまり不安なく任せられるのは現状ロッキオとテナ位ですので、選択肢を増やすという観点からも、ショートの守備力といった観点からも、ヒメネスに任せたい、というのが本音です。

 またご存知の様に今年のドラフトでCLEは1位の指名権を獲得しました。その候補として良く名前の挙がるT. バザーナ(オレゴン州立大学)はセカンドの選手です。他にトップ3として他に名前が挙がるC.コンドン(ジョージア大学)はサード/外野手、二刀流選手で大谷2世とも称されるJ. カグリオーン(フロリダ大)はファーストですので、いずれの選手もショートは守っていません。誰を指名するかまだ分かりませんが、もしバザーナを獲得するなら、セカンドを空けておいた方が良いのではないでしょうか。

プロスペクトの育成・昇格に関して思う事

 CLEは予算が限られているので仕方ない部分はあるでしょうが、プロスペクトに拘って損切りできず、結局モノにできないまま退団、という事を繰り返してきました。しかし2022年はプロスペクトの入れ替えを積極的に行った結果、彼らが地区優勝の原動力になりました。

にも関わらず2023年からはまた逆戻りしてしまい、プロスペクトの育成が停滞している感があります。

 TDLまで2ヶ月を切り、今季を占う上でいろいろな判断が迫られる時期となりました。大切なのは現有戦力の見極めだと思いますが、現場の頑張りに比してフロントの動きに不満を感じるのが正直な所です。D. シュニーマンの昇格初めマイナーでも幾つかトランジションがありましたが、懸念のショートの穴埋めに関してはそれらしい動きはまだ見られません。

 CLEのフロントとしては恐らくプロスペクトをメジャーに昇格させて不調になって価値を下げるよりも、このままマイナーでプレーさせて価値を下げずにTDLに臨みたい、という意図がある様に見受けられます。ただいつも感じるのですが、例えばLADやTBなどと違い、CLEのプロスペクトは特殊過ぎて、特に野手に関しては他球団からの評価があまり高くないのではないでしょうか。各メディアの記事からその様なニュアンスをひしひしと感じます。

個人的には昇格して活躍できなくてもトレード市場においては誤差の範疇だと思います。むしろ活躍しても正しく評価されない故にモチベーションが低下する方が遥かに危険ではないでしょうか。実際にX.カリーは好投したにも関わらずロースターの関係でマイナーに降格させられた結果、一気に不調に陥りました。プロスペクトに見切りをつけられない割に扱いが雑過ぎると思います。

 やはり育成において適切なのは活躍すれば評価され、不調ならマイナーで調整する、健全な競争原理ではないでしょうか。殆どの若手選手、特に野手はマイナーオプションが残っているのですから、TDLまで残り2ヶ月、きちんと評価して競争させてあげて欲しいと思います。

 あとプロスペクトに関してもう一つ考慮すべきはやはりルール5ドラフトとの関連です。今季2A アクロン・ラバーダックスは打撃陣はさっぱりながら強力な投手陣で好調ですが、その中核たるA. ダベンポートらは今オフにルール5ドラフトの対象となります。

対象が少なかった昨オフと違いかなりの選手がプロテクト対象になるでしょうが、現在ロースター入りしている若手含めてふるい分けが進んでいる様子は見られません。トレードである程度放出するにせよ、やはり見極めは必要でしょう。

終わりに

 ショートの問題はずっと記事にしたいと思いながらずるずると来てしまい、ここに来ていろいろ騒がれて慌ててようやく記事にした、という形になってしまいました。TDLで何らかの動きがあるのはほぼ確実でしょうが、それまでにチームがどう若手を見極め、起用していくか、注目したいと思います。

ヘッダー画像:MLB.comより

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