続!ブスと地獄の歯列矯正

歯列矯正がスタートして、二年半が過ぎた。


痛いと噂に聞いてはいたが、予想以上の痛さと不便さに苦しまされる日々だ。

特にこの、『不便さ』と言うのがなかなか厄介なのである。こればかりは歯列矯正経験者にしかわからないと思うが、食べ物が詰まるのだ。汚い話で申し訳ないが、とにかく詰まる。これでもかと言うほど詰まる。浜辺美波あたりの細身の女性であったら、歯に詰まった分だけで腹がいっぱいになりそうだ。


そのため食後は歯磨きが必須なのであるが、他人と食事している際はこの歯磨きタイムに苦しまされるのだ。

まず、通常他人と外出して食事に行った際歯磨きをする者は少ないだろう。食後に長時間席を外した場合、人はまず排便を疑う。歯磨きをしに行ったというのに排便を疑がれてはやっていられない。

さらに食事ごとに長時間席を外した場合、『やたらとウンコがでる女』と思われるであろう。

気心知れた友人の場合、歯磨きの際には歯磨きに行くと宣言するが、そこまで親しい仲ではない相手との食事の場合は『少しお手洗いに…』などと言って席を外すので、『よく知らないけど飯を食うたびにトイレに行くやたらと便通のいい女』と印象付けてしまう。最悪である。こんなことなら食事ごとに歯磨きをする変人と思われた方がまだマシではないか。ただ、突然歯磨き宣言を行なうのもなんとなく気色が悪い。


この歯磨き・ウンコ疑惑問題は歯列矯正が終わるまで続きそうな予感だ。あと一年経たずに終わる見通しであるから、少しの辛抱だ。


もう一つ大きな問題がある。顔が全然美人にならない。私は歯列矯正をスタートする際に、矯正したら顔がマシになるのではないかと期待していた。よくよく考えたら目も鼻も完成度が低いので、矯正ごときで美人になるわけがないのだ。顔も悪けりゃ頭も悪いことが歯列矯正生活を通してよくわかった。

私は俳優の香川照之に顔が似ているのであるが、自分でも信じられないことに矯正したら西野七瀬になると勘違いしていた。なるわけがない。しかも、矯正したことにより歯並びが照之並みに良くなり、また皮膚が余ったのか(?)ほうれい線が濃くなった。もうお分かりであろう。以前に増して香川照之に近づいたのだ。今までは香川照之の親類レベルだった顔が、香川照之本人レベルになってしまった。散々自分の顔を卑下した後で個人名を出すのは申し訳ないが、年齢も性別もまるで違うオッサンに似ているとなれば相手が誰であろうと嫌に決まっている。香川照之は悪くない。素敵な俳優さんだ。


もちろん歯並びが良くなりコンプレックスが解消された喜びはある。後悔はしていないし、完成すれば口を隠さずに大口開けて笑えるだろう。いいこともたくさんあるが、ただ口にワイヤーをくっつけているだけに見えて1人1人にドラマがあることを非・歯列矯正者にも一度知っておいて欲しかったのだ。


矯正しはじめの頃は血迷って色々なことをやってしまった。ワイヤー交換の直後は豆腐を噛むだけでも歯が痛むのだが、歯が動いている影響か寝ている間に歯軋りしてしまうのだ。当然、痛みで目を覚ますことになる。

私は苦肉の策できゅうりを噛んで寝ることにした。前歯が擦り合う瞬間が痛いため、奥歯にきゅうりの薄切りを挟んでおけば前歯が触れ合わないという作戦である。今時バイキンマンでもこんなに頭の悪い作戦は実行しないであろう。


就寝体制に入ると同時にきゅうりを噛むため、話しかけられても答えられない。隣室で寝ている家族に話しかけられても、物言わぬ貝のようにしてひたすらきゅうりを噛み締めていた。何が悲しくてきゅうりを噛みながら寝なくてはならないのだ。熱狂的なきゅうり好きでもこんなことはしない。情けなさを我慢してしまえば、虫歯にもならず、飲み込んでもなんの心配もないこのきゅうり作戦はなかなか良かった。ぜひ歯列矯正したての民にはきゅうり作戦を実行してほしい。


二年半時が経つうち、『ブスと地獄の歯列矯正』に記したアゴディスりマンの歯科医のほか、ロリコンフェイス実況中継処置マンの歯科医も参戦し、彼らのおかげで私の歯はみるみる揃っていった。癪に触ることの多い奴らではあるが、私の歯を揃えてくれてどうもありがとう。これだけ尽くしてくれていれば、性格が悪いことと顔つきが気持ち悪いことなんてチャラである。


まもなく終焉を迎えようとしている歯列矯正。最後に私の顔はどれほど照之に近づけるのか、期待大だ。

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