ラブホ女子会

そんな予感はしていたが、年単位でブログの更新をサボってしまった。

別に誰も更新を待っていないから良いのだが、自分の継続力のなさには呆れ返る。
しかも、読み返すといかにもオタクらしい痛々しい文章で、咽び泣きそうになってしまった。それなのにまた同じような文体で更新しようと言うのだから、もはや黒歴史を作るのが性癖の変態だとしか思えない。


しばらく更新しない間に、友達ができた。
Twitterで知り合ったオタクの友達2人である。
私は小さい頃から古典オタク、アニメオタク、アイドルオタクとさまざまなオタク道を通ってきたのであるが、彼女たちもまたオタク人生を歩んで来た仲間だ。
しかも、20歳を超えて今更ジャニーズにハマってしまったと言う繋がりである。

歳を取ったジャニオタは怖い。
幼少の頃からジャニーズを愛していれば、愛し方がわかっているから落ち着いたものだ。
Twitterを巡っていても、昔からジャニオタをやっている人にはどこが気品があるように思える。
しかし、ある程度人生の苦みを経験した後でジャニーズにハマっているものの形相は異様なものがある。
単純な娯楽としてジャニーズを推すのではなく、救いを求めて彼らを応援するからであろう。

ジャニーズは良い。
というか、アイドルは素晴らしい。

魂が削れ落ちて、ステージから溢れ落ちキラキラと輝いているような気がする。
詩的で気持ちが悪すぎる表現であるが、オタク2人には同意された。

そのように、アイドルに対して異様に熱い感情を持つ2人と、ラブホお泊まり会をした。夜通しアイドルの話をしようと言う集まりである。

そこで、特別企画としてプレゼント交換をすることになった。各々推しがいるのであるが、推しをイメージしたもの、もしくは推しがもしプレゼントしてくれるならどんなものか…などなどを想定して贈り物を考えるというわけだ。


私が用意したものは、推しTシャツ(友達の推しの首元の画像がプリントされたもの)、推しのほっぺたをイメージしたオリジナルパッケージのマシュマロ、推しとの間に生まれた子どもからの手紙、推しから貰った第二ボタンである。

こうして文章にしてみると狂気の沙汰であるが、私はこれを真剣に用意している。
特に、頬の柔らかさが特徴的な彼をイメージしてマシュマロを買い、『●●くんのほっぺ』なる商品を思いついたときには思わず唸った。
想像力のあるオタクで良かった。一人の人を笑顔にできるのだから。

それから、推しとの間に生まれた子どもからの手紙は我ながら狂っていると感じた。
と、言うのも私はそれを仕事中に書いたのだ。文具は家より職場のほうが豊富であるから、上司が会議をしている間忍者のように倉庫へ走り画用紙などを強奪し、知能指数を5歳に下げて手紙を書いた。知能は元々低い方であるからかなり簡単な話であった。
子どもが折ったような不器用な花の折り紙が添えられたつたない文字の手紙は、かなりリアルなものだった。肥満体型の成人女性が書いたとはとても思えまい。

私は勝つつもりで当日を迎えた。
オタク2人を打ちのめしてやろうと、ほくそ笑んで構えていたのであるが、彼女ら2人も狂ったオタクであることを私はすっかり忘れていた。


まず、私にプレゼントを贈ってくれたオタク友達のうちの1人(以下・仮にBちゃんとしておく)からの贈り物は、最近髪色をピンクにし、気分が上がっていた私へ推しが送るなら…と言うテーマのプレゼントだった。


中に入っていたのはケアベアの小さなクリアポーチと、ピンク色のグリッターが入ったシャドウである。

あまりのリアルさに悲鳴が漏れた。
私の推しは女にこういった贈り物を選ぶ筈だ。私の推しは、女の子はピンクが好きだろうという安易な発言をバラエティでしており、それが非常に股の奥にズドンと響いたことを完全にBちゃんに解られている。恐ろしい。

また、クリアポーチは鍵など細々したものを無くさないようにと言うはからいらしい。ADHDの私にぴったりの贈り物だ。私がADHDでは無かったらこんな贈り物は貰えまい。世の中の同担の心身ともに健康な女はこんな素敵なクリアポーチを貰うことは出来ないのだ。ビバ・ADHD。

私の推しは私のことを本当に愛しているのだな、と胸の奥が暖かくなった。間違いなくこのプレゼントを選んだのは目の前のBちゃんなのであるが、私の思い込む力の強さとBちゃんのなりきる力の強さのお陰で、完全に推しから貰ったものだと思い込むことができる。というしかそうとしか思えない。不在であるはずのご本人降臨っぷりにはイタコもびっくりだろう。


私が用意したものはもう1人の友達、Cちゃんへ渡した。
想像通りうっすらとした恐怖と共に彼女は笑顔になってくれ、私がオタクに生まれたのは人を笑顔にするためだったのだな、と胸が暖かくなった。

トリはCちゃんからBちゃんへの贈り物である。先程からCちゃんは自分のプレゼントに異様に自信を持っており、胸騒ぎがしていた。

「さて、では私の番ですね」

彼女の贈り物は香水と、推しが持っていそうなてぬぐい(ハンカチ代わりに持つという代物だ)だった。オタクは推しをイメージした匂いが好きだ。

彼女は軽やかにベッドの前に立つと、冊子を私とBちゃんに手渡した。

Bちゃんの推しの顔写真が印刷されたプレゼン資料だ。誘導されるままに資料をめくると、そこには香水のなりたちが書いてあった。

人の記憶に最後まで残るのは香りなのだという趣旨の論文か何かの抜粋だ。怖い。単純な恐怖が私を襲った。だってこんなのは、オタクみんなが好きなものだから。娯楽のつもりで参加したプレゼント会でこんな説明を受けることになるとは夢にも思わなかった。

香水は時間と共に匂いが変わってゆく。その経過になぞらえて、BちゃんとBちゃんの推しとの出会い・葛藤・そして死…ストーリーが資料に描かれている。
この香水は単純に『推しの香り』というわけではなく、推しと彼女の物語そのものというわけである。

何だか私は一周回ってBちゃんが可哀想に思えてきた。こんなに一度に愛情で殴られて、人間がいっぺんに許容できるエロを超えているではないか。

案の定隣でBちゃんはヒーヒー言っている。
そりゃそうだろう。こんなことされたら、狂ってしまう。


「もうやめてあげてくださいよ」


私は訴えたが、Cちゃんは穏やかな笑みを浮かべるばかりだ。彼女もきっと、自分自身がオタクに生まれた意味を感じているところだろう。
 
Bちゃんは手ぬぐいに香水を染み込ませ、シンナー中毒者のように匂いを嗅ぎながら幸せを噛み締めていた。
 

悔しい。これは私の負けだ。


興奮のプレゼント大会を終えて、私たちはプロジェクターの大画面でジャニーズのDVDを見た。フロントに電話をし、ペンライトを持ってこいだの、ポップコーンメーカーをもってこいだの次々要求する姿は、女王様というより海賊に近かったと思う。

おまけに騒ぎすぎて、ホテルのスタッフが部屋のチャイムを鳴らしたことにも気がつかず電話をもらう始末だ。『先程チャイムを鳴らしたのですがお出にならず…』と言う彼の声は震えていた。

こんなに騒いで、本来の目的でラブホテルを使用しているカップルの部屋にまで我々の声が届いていたらいい迷惑だ。

夜通し騒ぎ、私たちはエロい話をしながら寝た。お休みの一言もなく、あの色気のあるアイドルをどう犯すかなどと話し合いながら誰からともなく寝たのだ。散々海賊のように飲み食いし、エロい話をし、衝動的に寝るとは3大欲求に振り回されていて笑えてくる。


翌朝、朝からジャニーズの動画を流し最高の気分で朝の支度をした。昨日夜中まで騒いだというのに全員異様に肌艶が良い。美容のためにストレスを排除するのが大切というのは真実のようだ。


翌日も丸一日遊び倒し私たちは帰路に着いた。オタクというのは本当に元気だ。
次の日からの仕事も、推しからプレゼントを貰った女であるから余裕である。そこらへんの女とは精神状態が違うのだ。


余談だが数日後、私は職場の鍵を無くした。私に鍵を預ける上司も上司だ。ADHDの本領発揮というやつだ。
結果、以前使用したカバンから無事見つかり大事には至らなかったのだが、数日間推しからの愛で舞い上がり気を抜いていたことを反省した。
今こそ、クリアポーチの出番である。さすが私の推しは私のことをよく理解してくれている。予知能力でもあるのではないか。

私はクリアポーチに鍵を忍ばせ、二度と無くさないと神と推しに誓った。

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