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音楽ZINE『痙攣』編集長の選ぶ年間ベスト50 (25位から1位まで)

年明けに発表すると言いましたが案外早く完成したのでもう上げてしまいます。早速25位のアルバムから。

25位 Palm『Nicks and Grazes』

This Heatの軋みとAnimal Collectiveの享楽の邂逅、とでも言おうか。ポストインダストリアルの流れをくむ硬質なポストパンクとジャケットデザイン通りの鮮やかなネオサイケデリアが見事に融合するバンドきっての野心作。


24位 Gilla Band『Most Normal』

ノイズロックのスタイルを纏いながら、完璧にコントロールが効いたサウンドプロダクションには衝動性の熱はない。ロックミュージックに温度はいらない。そう言わんばかりの冷徹さが全編にわたって炸裂する傑作。

23位 kamui『YC2.5』

ラップが一人称の語りの音楽であるなら、それはどこまで拡張可能か。kamuiはこの問いに対して、ディック的な現実の多層化で応じた。そしてこれら複数のレイヤーを貫くのは、ただ生き残りたいというハングリーさだ。


22位 kasane vavzed『Red』

凛として時雨から仮面ライダー555まで、ありとあらゆるリファレンスを横断しながら繰り広げられるのは無機質で殺伐とした現代の都市風景だ。その無慈悲さは2022年もっとも過小評価された音楽的成果に他ならない。


21位 Lonely Pirate Committee『Too Much Fun』

ジム・オルークがもしポップパンクバンドをプロデュースしたらこうなっていただろうというサウンドを見事に実現して見せた新鋭ユニットの2作目。衝動性と緻密さは矛盾しないということの最良の例だ。


20位 syrup16g『Les Misé blue』

確かにサウンド的な変化には乏しいかもしれない。だが昨日と同じままでいること、間違うことなく繰り返すことの困難を、誰よりも切実に歌ってきたのが彼らではないのか。成熟の困難を生きる全ての人に捧げられた一枚。


19位 七尾旅人『Long Voyage』

今作において七尾旅人は時代の混迷と日常への愛着に引き裂かれている。「なのにどうしてこんなにも、瞳を輝かせて」、その問いに対する答えはない。ただ生活という、やるせない航海がそこにあるだけだ。


18位 Bebawinigi『Stupor』


パンクとネオフォークを「魔女の音楽」という共通項で結びつけ、ひとつなぎの文脈を提示してみせる手腕は圧倒的という他ない。特に後半の魔的とすら言えるサウンドスケープは必聴のそれである。


17位 Tallah『The Generation of Danger』

ニューメタルにマスコアの密度と実験を導入した上で、初期Slipknotにも匹敵するキャッチ―さでまとめ上げた意欲作。一時間近い長尺ながら時間を感じさせないスムーズさはバンドの練度の賜物だろう。


16位 Emma Volard『Deity』

プログレッシヴな現代ジャズの手法にR&Bを合わせる全体の作風はHiatus Kaiyoteを彷彿とさせるし、実際にオーストラリアメルボルンの同郷出身である彼女だが、全体の感触はもっと無機質でスペーシーだ。


15位 Niños Del Cerro『Suave Pendiente』

もし『TNT』期のTortoiseがドリームポップをやっていたら、そんな妄想さえ浮かんでくる傑作である。各パートの細やかな録音と音色の広がり、ジャンルオリエンテッドでありつつも多彩さを損なわないバンドアンサンブルは必聴。


14位 Asian Glow『Stalled Flutes, means』

第五世代エモの潮流を代表するレーベルLonginus Recordingsに所属する新鋭は、今エモロックに向き合うことが単なるノスタルジーではないことを証明した。フォークトロニカからシューゲイザーまで、今作のサウンドの多彩さはそれを雄弁に物語っている。


13位 岡田拓郎『Betsu No Jikan』

音楽が生まれる/作られるプロセスそれ自体に批評的に介入するような、即興演奏と編集工程を複雑に組み合わせた本作は、しかし単なるコンセプチュアルな実験に堕することなく、今まさに未知なる音が生成してゆくワンダーに満ち溢れている。


12位 The Orielles『Tableau』


バンドの飛躍作となった三作目。クラウトロックから現代ジャズ、ポストクラシカルまで射程に収めた、静謐な広がりを湛えた独特のサウンドスケープは、PortisheadやRadiohead、The xxといった先達に連なり得るものだ。

11位 betcover!!『卵』

さながらJohn Zornの薫陶を受けた90年代高橋徹也のような、とてつもなく異様なバンドアンサンブル。この猥雑で寂しい夜の中心にたたずむ彼は、いったいどんな朝を迎えるというのだろうか。


10位 DIR EN GREY『PHALARIS』

痛み。苦しみ。悲しみ。生きることは一つの拷問に過ぎないと知りながら、それでもなお生きていくしかない。そんな諦念をDIR EN GREYは、暗い情念にのたうち回るような京の多彩なボーカルを軸に表現してみせた。


9位 black midi『Hellfire』

バロックポップからブルータルプログ、フォークロックに至るまで、多種多様な音楽性をフラットに操作する手つきに、現代の脱文脈化した音楽文化における一つの巨大な達成を見ることができるだろう。


8位 Rural Internet『Saint Anger』

痛切な叫びさえジャンクになる世界で、果たして私たちは聖なる怒りを紡ぐことができるのだろうか。彼らはブロステップ、トラップメタル、EDMといったありとあらゆる陳腐化した遺物を極めて緻密に組み合わせることによって、この問いを乗り越えようとした。


7位 マッチャポテトサラダ『アニメーション・トリッピング』

ポスト渋谷系からヴェイパーウェイヴまで。高校生というプロフィールがもはや詐称にしか思えないほどの大胆さと巧みさで作り上げられた今作は早熟さゆえの行き詰まりを感じさせるが、後半に顔を出す夏の情景へのオブセッションに一筋の希望を見出せる。


6位 death’s dynamic shroud『Darklife』

かのOPNと並ぶヴェイパーウェイヴシーンの古参である彼らの、近年の実験志向の一つの集大成と言える大傑作。Daft PunkとBrian WilsonとDepeche Modeが見事に混ざり合った縦横無尽なハイファイサウンドはグループの存在感を何段も引き上げた。


5位 明日の叙景『アイランド』

シューゲイザーに大幅に接近するだけでなく、LUNA SEAなどのV系の系譜、凛として時雨に代表される邦ロックの文脈をも貪欲に取り込み、ポストブラックメタルの表現力を格段に拡張、増幅させた今夏最大の衝撃作。


4位 春ねむり『春火燎原』

1stアルバム『春と修羅』以上に複雑で入り組んだ内面をむき出しにし、政治により深く接近した今作において、トラップから激情ハードコア、ハイパーポップに至る横断的な作風がとられたのは今表現すべきことの重みゆえだろう。2022年最もアクチュアルな一枚。


3位 THE SPELLBOUND『THE SPELLBOUND』

電子音響の立体性、大胆かつ尽きることのないアイデア、それらを完璧に駆動する歌と演奏。THE SPELLBOUND待望の1stアルバムにしてセルフタイトル作である今作は音楽がまさしく人間の意志の産物であることをこの上なく明確に示している。


2位 Quadeca『I Didn’t Mean To Haunt You』

驚異的な成長。まずはそう言う他ないだろう。前作で垣間見せていたフォークサウンドへの関心は、The Microphonesに象徴されるゼロ年代初頭のUSインディを射程に収めた幽玄かつ緻密な音像へと昇華された。22歳という若さを考えれば、彼が2020年代の中心たる日もそう遠くはなさそうだ。


1位 nouns『While of Unsound Mind』


第五世代エモの先駆からの現行シーンの回答を軸に、ハードコア、ブルータルプログ、ポストパンク、ポストインダストリアル、ブラックメタルといった諸要素を、独特のヴィンテージ感あるローファイサウンドで極めて巧みに纏め上げた今作は、ここ10年程のロックミュージックの最高の総括であるだけでなく、現代の引き裂かれたエモーションのこの上なく真摯な反映たりえている。今年これを超えるアルバムは存在しない。


というわけでいかがだったでしょうか。2022年のシーンの総評については来年刊行予定の痙攣の2022年総括号でやろうと思います。来年もまたよいお年を。

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