2022年夏 甲子園準々決勝 下関国際対大阪桐蔭

山口県勢としては2005年の宇部商以来、実に17年ぶりの甲子園ベスト4進出。
山口県で生まれ育った立場としてこの一戦は非常に価値の重い試合だと思うので、文に起こそうと思う。

下馬評

恐らく下関国際が大阪桐蔭に勝つと事前に予想した方はほとんどいなかったと推測するが、今大会の下関国際は他の学校とは明確に違う強さを持っていると感じた。

野球というスポーツは、チーム競技でもある一方で、
突き詰めると
【ピッチャー対バッター】
の個人競技的な側面も持ち合わせている。

従って、今の野球界全体のトレンドとしては、
組織的なプレーを洗練させるよりも「個々の能力を最大化する」ということに重きが置かれる傾向がある。

まずは大きく強くしなやかな身体を作り、
最大出力を上げられるだけのメカニクスと技術を高める。

これは至極合理的な考え方で、先ずは数値として達成できる要素を埋めることが勝つための前提条件だと私も考えている。

この傾向は、コロナ禍も相まってより顕著になった。
チーム練習の時間が確保しにくくなった結果、個々のステータス向上に時間をかけざるを得なくなっているように感じる。

そんな中、下関国際はある意味異質に感じた。
カバーリング、ケース別ポジショニング、野手の声掛けの量。

勿論個々の能力の高さも感じるものの、そうではない部分への意識の高さが甲子園出場校の中でも出色である。

そんなチームが、優勝候補筆頭の大阪桐蔭に対してどんな戦いができるのか、私が山口県出身であるということを抜きにしても非常に楽しみな一戦となった。

ゲーム内容

大阪桐蔭先発は右オーバーの別所投手。
甲子園ではリリーフ登板のみで今大会初先発。

ストレートは140キロ中盤、カット系のスライダーとフォーク。

一回表は危なげなく3者凡退。
ただ下関国際は2ストライクからステップ、バットの握りを変えるなど三振を減らす為の工夫がチームで統一されている印象を受ける。


下関国際の先発は左スリークォーターの古賀投手。

ストレートは130キロ中盤~後半、100キロ前後のカーブ、130キロ弱のスライダー、右打者には120キロ前後のチェンジ。

リーチがあるので角度があり、クロス気味の角度で右にも左にもベース版の右側(投手目線)を軸に攻める投手。

1回裏、
先頭四球から3番松尾選手、4番丸山選手の連続タイムリー2ベースで2点献上。
その後の海老根選手のヒットも含めて、全て変化球を打たれており、恐らく桐蔭打線は変化球にタイミングを合わせている印象。

しかし、1死1,3塁のスチールに対してサードランナーに目を配りつつも鋭い送球で2塁ランナー刺殺。ショート捕球までのタイムで1.8秒、このタイムをサードランナーをケアしながら出せるのは能力の高さを感じる。

立ち上がりに一気にワンサイドになる雰囲気もあっただけに、このプレーの貢献度は大きい。


2回表

すかさず下関国際も2連打と犠打で1死2,3塁。
2連打はどちらも変化球を叩いていて、その後の森選手・古賀選手のストレートへの反応を見ていても変化球狙いをチームで統一している印象。

ここではチャンスで加点できず無得点。


2回裏

先頭星子選手がセンター前ヒットも別所選手犠打フライアウト。
1番伊藤選手は四球で1死1,2塁。
2番谷口選手、ここはバッテリーとしては低めのスライダーで内野ゴロを打たせたい場面。2球で追い込み狙い通りの低めスライダーを打たせ、4-6-3の併殺。
ストライク先行できたことが功を奏した。

3回表
この回先頭9番橋爪選手が変化球を捉えて2ベース。ストレートの反応を見ると変化球狙いは継続の様子。
逆に桐蔭バッテリーは、ここは変化を使うならはっきりボールにするべきところ。


内野ゴロで1死3塁とし2番松本選手。

追い込まれてからのやや抜け気味のフォークに対して軽打で合わせレフト前タイムリー。1-2と迫る。
この場面もストレートに反応してきていないだけに桐蔭としては変化球はしっかりボールにしたかったところ。


3回裏

地震情報(NHK)によりよく分からず。とりあえず三者凡退。
得点後の回かつ3番松尾選手から始まるクリーンアップに対し三者凡退で切り抜けることができたのはゲーム展開的には大きい。

4回表

1死からヒットも残塁。
下関国際打線、この回からストレートにも振りにいっている印象。

いづれにしても、変化タイミングでもストレートを見極めorファールに出来る下関国際の打線は非常にそつがない。


4回裏

2死1塁カウント3-2打者別所選手の場面。
ランナーは自動スタート。

スチールによるベースカバー、5-4Bや6-4Bフォースアウトのベースカバーの必要がない為、二遊間は引いて守ることができる。
が、この打球、打球は死んでいるとはいえライナーで芝生まで飛ぶ打球に対してセカンドがしっかりと守備範囲で届いている。
このプレーはまさしく下関国際のポジショニングが一球毎に根拠を持って動いている証拠。

5回表

四球のランナーを進め2死3塁、打者は先ほどタイムリーの松本選手。
初球のスライダーには反応せず、二球目のボール気味のストレートを強打しセンター前タイムリー。
変化を打った後の打席なのでストレートに張ったか。

その後ランエンドヒットで2死1,3塁となり、
大阪桐蔭はピッチャー前田悠伍投手。

下関国際打線は明らかに別所投手に対して合ってきていたので継投のタイミングとしては妥当か。


5回裏

失点後、かつ1番伊藤選手からの打順の為、下関国際としては締めたいタイミングも、1死から2番谷口選手がヒットで出塁。その後松尾選手に粘られ四球。

ここで目に付いたのは、捕手の橋爪選手は粘られての四球後間髪置かずタイムを取り古賀投手の元へ。
坂原監督も速やかに伝令に指示。

つまり、監督と橋爪選手の間で意思疎通がなくとも、ここは間が必要だという判断を2人が同時にしているということ。
チームとして同じ野球観が共有できていることが伺える場面。

しかしここは珍しくファーストフライ落球により失点。
2-3


6回表

前田投手
ストレート140~145キロ、スライダーとチェンジアップ。
ガン以上にホップ成分の多そうなストレート。おそらく回転効率と回転軸の傾きが少ないとと思われる。

しかし、選抜から夏のこれまでのピッチングから比べると、甘い球とボール球がはっきりしている印象。
四球から連打で1点返し、3-3。
連打はどちらも変化球を叩いているので、球質的に変化球を狙った方が捉えられると読んだかのような打線の対応に見える。

続く打者が四球で2死満塁。ここで三度2番松本選手。
変化球狙いを察したか、ここからはストレート4連投で追い込み、最後は変化球打ち損じで3者残塁。


6回裏

先頭出塁し犠打で1死2塁。
展開的に1点勝負の様相を呈しているので、犠打は多用していく展開になる。
2死3塁となり次打者四球で2死1,3塁。
2番谷口選手がレフト前タイムリーで再度リードで4-3。

ここまでタイミングが合っている谷口選手であるものの、勝負せざるを得ない場面の為苦しい状況。
球数も120球を超えてきたため、継投を考えるべきタイミングだが、次打者松尾選手を四球で出した後2死満塁で右オーバー仲井投手へスイッチ。

場面を考えれば、できれば松尾選手のところで変えたかったところ。
しかし、4番丸山選手に対し全く物怖じすることなく直球勝負で三振。

冷静に考えれば考えるほど苦しい場面だが、こういう場面を勢いで押し切れる投手が後ろに控えているのは非常に心強い。

7回表

2死から水安選手がチェンジアップをセンターオーバーの2ベース。続く奥山選手、チェンジアップを捉えるもセンターフライ。

基本的に前田投手のストレートに合うイメージがない中でも松尾選手は一定割合で変化を要求している印象。


7回裏

ヒットとバントのお見合いのような形で無死1,2塁。打者は7番大前選手。
2ボールとなり大阪桐蔭のサインはバントエンドラン。

それが結果的にトリプルプレー。

ここでなぜ西谷監督はバントエンドランを選択したか。
・バントの確率が高いとみて下関国際は強いチャージを仕掛けてくる
・下関国際の投内連携のレベルが高い
・バスターを仕掛けたとして、仲井投手の球質を考えるとフライアウト・空振りになる可能性が高く、進塁が難しい
・大前選手のバントの技術を評価している
・場面的に必ずストライクを入れに来るカウント

この要素を踏まえ、西谷監督はバントエンドランを選択したと思われる。
作戦の妥当性は高いと考えられるが、結果的に早めの動きが裏目に出た。

8回表

トリプルプレーを経て、甲子園球場の雰囲気が若干下関国際寄りになった雰囲気を感じた。
しかしここは前田投手が踏ん張り三者凡退。


8回裏

1死から前田選手、伊藤選手の連打で1死2,3塁。
ここで好調の谷口選手も、直球で押し最後はインへのスライダーで三振。
松尾選手に対してもインのストレートで押し、最後はアウトローのスライダーで三振。

仲井投手、決してフォームの完成度は高くないものの、出力の高さと桐蔭打線に対してインコースを物怖じせず投げ切れるメンタリティ。大舞台で力を発揮できるタイプの投手。

9回表

下関国際のチャンステーマ、Vファーレン長崎に観客が拍手する甲子園お決まりの展開。
だがこれは再三のピンチを防ぎ粘り強い戦いを見せてきた下関国際が呼び込んだものだとも感じる。

先頭、赤瀬選手がセンター前ヒット。これも変化球。
続く二番松本選手はバント企画も追い込まれ、バスターに切り替え。
2-2とした後、低めのチェンジアップに対し軽打で合わせレフト前。

個人的な見解として、前田投手の一番良い球はストレート。ここまでの下関国際の打線のアプローチを考えても、ストレートで押さなかったのは悔やまれるのでは。

バント成功で1死2,3塁となり4番賀谷選手。
初球チェンジをファール、二球目ストレート外れてボール。
ここで投じたのは甘めストレート139キロ。これを詰まりながらもセンター前に転がし2点タイムリー。

これに関しては打った賀谷選手を褒める他ない。


9回裏

甲子園はある意味異様な雰囲気だが、仲井投手は飄々と球威ある球を投げ続け、結果3者凡退で試合終了。
つくづく仲井投手のメンタリティは頼りになると感じた。
非常にリリーフ向きの性格。
坂原監督が躊躇なく2死満塁の場面で登板させられたのも頷けるピッチング。


勝因


簡単に勝因を特定できるほど野球の試合は単純なものではないが、

・下関国際の持ち味である堅実な守備
・下関国際打線の桐蔭投手陣の攻略
・仲井投手の圧巻リリーフ

になるだろう。

逆に、大阪桐蔭の敗因とすれば、
・変化球狙い中心の下関国際打線に対し、終盤まで変化を捉えられ続けた
・球場の空気を変えてしまったトリプルプレー

となると思われる。


ここまでくれば、地元山口県勢が優勝する姿を見たい。


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