「浦井が一人と『話』が三つ」2022感想
「ハッシュタグで感想を呟いてください。」
この世で一番嬉しくて、一番プレッシャーのかかる言葉である。
ハッシュタグで呟けば、ご本人(少なくとも関係者のどなたか)に届く可能性が高い。こんな魑魅魍魎みたいな有象無象みたいな有形無形みたいなファン達の声を聞いて下さるなんて。しかも退場BGMが流れる中焦ってアンケートにミミズののたくった字でキモさの片鱗だけ見せつけるようなメッセージを書きつけることもなく、ある程度推敲して体裁を整えたうえでキモさの片鱗を見せつけることができる。良い時代になったものだ。
しかし一方で、「このキモさの片鱗をご本人がご覧になるかもしれない」という葛藤と長く戦うことになる。感想を書く猶予が延びれば延びるほど、「このキモさをどう料理してお出ししたものか」と悩む時間が長くなる。どう料理したところでキモさが放つ臭気は変わらないのだが、料理人は勝手に創意工夫を凝らしてキモさを皿に盛りつけようとする。
一言で言ってしまえば「浦井が一人、サイコー!犯人はZAZY」で終わる感想を、僕はこれからキモさと自己満足とよく分からん信念で水増ししていく。もし関係者の方がお目を通していらしたら申し訳ないので先に結論を述べる。
今年の公演も最高でした「浦井が一人」最高です三本ともすごい面白かったです最後感動しちゃいました来年もお願いします是非お願いします叶うことならまた浦井さん脚本書いてください
はじめに
昨年の「浦井が一人と『話』が三つ」は僕の人生を変えた。
オタクはすぐ誇張表現をする生き物だが、この「人生を変えた」は大袈裟でなく本気と書いてマジのやつである。
本筋から逸れるので詳細は省くが、昨年の公演の、特に三本目『東京の話』で、僕は高輪さんに恋をしてしまい、演じ手である浦井さんの卓越した演技力、センス、佇まいに惚れ込み、「男性ブランコを一生応援するために収入を上げよう」と決意し勤めていた会社を退社した。
しばらく「浦井が一人」という文字列を見ただけで感動と興奮が蘇り、内臓がキュッとなって腹を下すようになった。だから今年の「浦井が一人」の開催の報せを聞いた時はしばらく便所で放心状態になり、昨年の公演のYoutube配信が決定した時は「人生最高の日?」と呟きながら便所に引き篭もった。
よって今年の「浦井が一人」を見る前の期待値は秋の空よりも高くマリアナ海溝よりも深かった。おいおい、こんなに楽しみにしちゃってどうするんだよ、思ってたよりあっけなく終わっちゃったら立ち直れないぞ。
――そんな心配は全く無用の長物であったことをすぐに思い知る。
VR
えっち!!!!
それぞれの脚本を神谷さん、蓮見さん、そして浦井さんご本人が担当されているのは知っていたが、どの順番で上演されるのかは知らされていなかった。いや、勘の鋭い視聴者ならば「浦井さん脚本の作品は最後だろう」と分かっていたかもしれないが、その時の僕は「浦井さんの作品が一番最初ということも十分あり得るぞ」などと考えており、明転後、私物のVRを装着した浦井さんの姿を見てしばらく「ああ、これは浦井さんの作品に違いない」と誤解してしまった。
しかし様子がおかしい。VRを嵌めて立ち尽くす彼の声が妙に艶めかしい。いや、そんな風に聞こえるのは僕の心が中学二年生で止まっているからかもしれない、僕のスケベ野郎、ヘンタイ、ケダモノ。
彼は突然の来訪者にひどく狼狽し、それから口を開く。
「――違うよ?」
クスクス笑いが大きな笑いに変化する。やっぱりみんなもそう思ってたよね~よかったよかった。VRをジトッとした目で睨みつけるジュンコさんの姿が手に取るように分かる。さあ、「丁寧な説明」を聞かせてもらおうか。
ループタイを首から下げた紳士(澤登氏というらしい)は穏やかで知的で上品な印象を受ける。恋人を「ジュンコさん」と呼ぶところもそうだが、立ち上がる彼女の腰に手を添えたり、彼女の手を包み込みながら話したりといった所作から優しさと気品を感じる。浦井さんの演じる役の中でも、知性と気品と狂気が混じった役が大好きなので、脚本を書かれた神谷さんは浦井さんの魅せ方を本当に心得ていらっしゃるなと思う。しかし正直初見の時はまだ浦井さん脚本ではないかと思い込んで見ていた為、「浦井さんはご自身がセクシー担当(ある番組での平井さんの評)であることを自覚し過ぎではないか」と気が気でなかった。
CR海物語もといVR人柱伝説の妙に胡散臭いけれど妙に説得力のある話と、それはそれとして彼の屈折したHEKIが、交わるようで交わらない時間が続く。彼のHEKIを目の当たりにしたジュンコさんならびに視聴者の方々はどんな感想を抱いたか気になるところである。僕は人生初の淫夢の荒唐無稽さが逆に生々しくて笑ってしまった。余談だが、ハムスターの話をするときに彼が両手で何かを包み込むような仕草をしていて、配信特典でその場面に「思い出しながら手で大きさを表す浦井.jpg」と題が付いていてこれも笑ってしまった。そこにハムちゃんがいるんだね。ジュンコさんが出て行ったあと、様子を窺い、素早くVRを装着するオチも最高だった。ジュンコさんと彼は仲直りできるのだろうか、それとも彼は独りで夜な夜な人柱を立てる日々を送ることになるのだろうか。
先日の「浦井の枕もと」で、神谷さんとの稽古で細やかな演技指導を受けたと語られていた。先述したハムちゃん然り、まるでジュンコさんがそこにいるかのような演技といい、本当に指の先まで細やかな演技をされていることに改めて感動した。フォロワーさんが仰っていて初めて気づいたが、ジュンコさんに振り払われたときにスリッパが少し床を滑るというのも細やかな演技を物語っていると思う。
神谷さんとの3分トークでは、昨年に続いて一本目がえっち枠であることに言及された。あの第一声手でフィニッシュ事件はまだ皆さんの記憶に焼き付いていることであろう。しかし神谷さんが今作はえっちではないと仰るので、えっちではないらしい。へえ。
余談だが、今回の「浦井が一人」は、それぞれのコントにトランプのジャック、クイーン、キングの役割が与えられていたらしい。切り裂きジャックならぬ生き埋めジャックという単語はそこから生まれたのか。
このえっちな一本目が浦井さん脚本ではないことになぜか安堵しながら、二本目を待った。
広くなった部屋の中で
タイトルを見た時はいまいち意味が掴めなかったが、すぐに「広くなった部屋」の意味が分かった。こういう、タイトルを付けるセンスからも脚本の質の高さが窺える。
ポテトはM二つが丁度いいところとか、ケチャップの受け皿候補にティッシュが上がるがすぐに却下されて小皿をもってくるところとか、男一人暮らしへの解像度の高さがとても心地良い。男一人暮らしへの解像度だけでなく、男女の会話や彼女の胡散臭い友達、振られた方より振った男の方が引き摺って情けない姿になるところなど、端々に生活の解像度の高さを感じた。恥ずかしながらダウ90000のネタは殆ど見たことがないのだが、これだけでも絶対に面白いコント集団であることが窺える。これを書いたらすぐにダウ90000のネタをチェックしようと思う。
電話での会話を聞くうちに、同棲していた元カノに未練タラタラの彼の姿が浮かび上がる。なんとか口実を作って声を聞きたい、その結果生み出された「年金が関係ありそうな美容院のハガキ」という産物の滑稽さは、笑えながらも心当たりを突かれた。「年金について話す浦井.jpg」ありがとうございます。
「すぐバーベキューする安い一眼首から下げて被写体だけ喜ぶ写真を撮る男」の悪意のテンションよ。今回の蓮見さんの脚本の端々にある、妙に具体的な口の悪さが(普段の男性ブランコのコントでは見られないもので)とても新鮮で面白かった。昨年のワクサカさんの脚本と少し通じるところがあるかもしれない。健太郎氏の話が出た時の、口調の温度が一気に下がるところがリアルで面白い。平井さんの描く、温かくドラマチックな絵本のような映画のような世界観を演じる浦井さんは、ふたりの世界を包み込んで支える大きな柱のように思える。僕はよく太陽と月でいうところの月に喩える。しかし、蓮見さんの脚本を演じる浦井さんは、等身大の、みみっちくてちっちゃいところも、情けなくて優しいところも内包したごく普通の男に見えた。ここが蓮見さんの言うところの「演技の目盛りの細かさ」なのかもしれない。浦井さんは、一人遺してきた娘を見守る穏やかな父親の姿にもなれるし、元カノへのプレゼントをゴミ箱に投げつける情けない男の姿にもなれるのだ。改めてすごいものを見せてもらっていると感動している。
中盤~後半で鮮やかに回収されていく謎もとても面白かった。ケチャップ自分で買ったんかい。白湯ニューバランス氏は彼女のコミュニティでネタにされつつも十分ノロケられていたのだろう。この後の喧嘩ののち、彼の家の表札に再び彼女の名前が貼り付けられることになるのかどうか、楽しく想像したい。
コントの最中は話も演技も面白くて引き込まれていたので気に留めなかったが、改めて考えるとものすごい台詞量である。自分なりに覚えやすくアレンジなどしたのだろうかとも思ったが、蓮見さんのnoteに上げられていた台本を見たところ、殆ど一言一句違わずに覚えていらっしゃるようだ。そのうえで話し方の温度や指先までの演技をされているのだから、やはり浦井さんの努力と才能には圧倒される。よく雑誌のインタビューなどで、俳優のお仕事もしてみたいと語っているが、その目標は遠からず達成されるだろうと信じてやまない。改めて浦井さんの凄みを感じたコントであった。
余談であるが、彼の部屋から消失した卵についての言及がなかったので、あれはあのネタが所謂クイーンの役割をしていたことと何か関係があるのだろうかと深読みし、「クイーン 卵」という頭の悪い検索をしてみた。すると「クイーン卵」というまんまみたいなブランド卵がヒットしたが、多分関係ないだろう。そのちょっと下に、アムウェイの卵レシピのサイトもヒットしたが、これも関係ないだろう。あのコントにおけるクイーンは、紗季ちゃんのことなのだろうか。
手品
キービジュアルの回収だ、とすぐに分かった。オタクはタイトル回収とキービジュアル回収が大好きなんです、ありがとうございますデュフフ。
これは浦井さんにしか書けない、浦井さんにしか演じられないコントだと思う。ご自身の最強の武器を熟知されている。
着せ替えのひとつひとつがいちいちしっくりくる。本当にダーツもビリヤードも嗜んでいそうだ。何かテレビの企画でビリヤードやってくれないかな、などと一瞬願った。ウリナリ的なね(年代が古いよ…)。個人的に「すごく真面目そうなのに巨額の横領をしている中堅銀行員」がしっくりき過ぎて声を出して笑ってしまった。ドラマに一人いるだけでサスペンスの香りがしてくる役ですね。このネタは盛大な自分イジりであると共に、最高の自己プロデュースであると感じた。
キング山中氏のキングは、もうそういうことですね。昔の宣材写真を使ってくるところも流石というか、自分イジりが上手いなあと思った。推定だが10年近く同じ宣材写真のままだったのだろう、男性ブランコファンなら必ず一度はお目にかかったことのある(場合によっては見飽きるほど見た)、若干スーツに着られていて、不思議な…いや個性的な柄の入った眼鏡のあのお写真である。あの写真が大ウケしているところを僕も生で見たかったなあ。配信特典の浦井さんの台本に、「もうちょっとイジる 全然知らない情報を入れる」とメモ書きがあったが、どんな情報を入れてくれる予定だったのだろう。尺の都合でカットしたのだろうか、一時期の男性ブランコファンが一生見たあの宣材写真の情報、ちょっとだけ気になる。
トランプを扱う手つきのたどたどしさ、あれも細やかな演技である、台本に「(カードを)ちょっとだけ落とす」とメモ書きがあったが、それも計算した演技というのがすごい。浦井さんは顔の演技も動きの演技も多彩だが、こういった指先までの細やかな意識を常に張り巡らせているのだろう。昨年「てんどん記」を見た後に、「『栗鼠セン』を見て男性ブランコに憧れて芸人を志した若手が、『てんどん記』を見て挫折するのだろうな」となんとなく考えていた。その時は平井さんの圧倒的な世界観のことを考えてそう思ったが、きっと「浦井が一人」を見た若手も同じように心が折れるのだろうなと思う。僕は男性ブランコのお二人のSNSも毎日チェックしているし、出ているテレビ番組も極力全部見ているし、ライブの配信も積極的に買っているので、なんとなく男性ブランコのお二人に勝手に親しみのようなものを抱いてしまいがちだが、こういう機会に改めてお二人が化け物であることを示してもらい、打ちのめしてもらえるのがありがたい。
「今まで何かに本気になったり、何かになろうとしたことはない」と話す彼は、今の浦井のりひろさん本人とは対極の姿であり、いくつかの選択肢が違っていたら辿っていた姿なのかもしれない。浦井さん本人が書かれた脚本ということで、余計にそんなことを考えてしまう。彼の言う「幸せな地獄」を、今浦井さんは歩んでいるのだろう。昔の自分から託されたペラペラのジャケットを羽織って。いつかの憧れ、いつかの選択が、彼を幸せな地獄へ導いた。ライブ全体を通して、この場面が一番心を突き動かしてくれた。
花びらが散り、新たな花が芽吹くマジックは、絵に描きたいほど美しかった。というか絵に描きたい。でも最後の紙吹雪が舞っているシーンも捨てがたいな。僕が革命前のフランスの貴族だったら余すことなく画家に描かせて寝室に飾っていただろう。それほどまでに美しかった、何者でもない、「彼」の姿は。
余談であるが、昨年から引き続き、三本目はラストシーンで舞台上に物的余韻を残す(もしかして:散らかす)ネタであった。紙吹雪が舞うラストシーンと、その紙吹雪を残した終演の挨拶は、まるで彼岸と此岸のようである。昨年は紙飛行機が、今年は紙吹雪が、ひとときの夢を舞台の上に攫っていったのかもしれない。
蛇足
「ZAZYなんて大嫌い!」
昨年僕は暗い部屋でひとり叫んだ。分かる人には分かるだろう、あの一件である。僕は芸人さん同士のプロレスをプロレスと割り切って見られない純粋無垢な乙女マインドを持っているので、あの一件で素直に落ち込んで誇張ではなく数日寝込んだ。インターネットをやってはいけない人の典型である。「なんであんなひどいこと言うの!」と素直に怒ったし、いかんせん高輪さんに恋してしまった立場なのであの舞台そのものを侮辱されたような気がして僕の中の純情乙女は大変に傷ついたのであった。
彼の発言を今も心から許してはいないモンスターペアレントで申し訳ないのだが、それでも今年、浦井さんの書かれた最高のコントに出会えたのは外ならぬ赤井俊之氏のおかげかもしれないのであった。浦井さんから「幸せな地獄」という言葉を聞けたあのコントは本当に尊いものであった。その点では赤井俊之氏に感謝なのかもしれない。あの時は怒ってゴメンね、しんいち氏と一緒に頑張ってね。
今年は浦井さん自身もその怒りを原動力にネタを書かれた側面があるかもしれないが、来年はぜひ、今回の成功や、あわよくばファンからの応援を原動力に、再びネタを書いて欲しいな~などとおこがましくも思っている。浦井さんの描く世界に、もっと溺れたいのだ。
あともっと身勝手なことを言うと、平井さんが書き下ろしたピンネタを浦井さんに演じて欲しい気持ちも少しある。いや、男性ブランコという枠組みから外れて浦井さん個人の魅力を引き出すのが主たる目的のライブであるから、お門違いにも程があるだろうが、せめて願望を持つことだけは許してほしい。
おわりに
無計画に書いていたら6500字を越えそうである。こんな「長文乱文」のお手本みたいな文書を果たして何人の方が読んで下さったかは分からない。お読みいただいたのなら心から感謝申し上げたい。
浦井さんはじめ、神谷さん、蓮見さん、ライブに関わって下さった皆様、最高のライブをありがとうございました。配信期間中何度も見返します。
再来週には「トワイライト水族館」も控えているので、心から楽しみである。人生を変えてくれてありがとう。これからも応援しています。
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