おいでやす、終わりそうな村

 村の重役たちが集会所に集まって話をしていた。
「すっかり村の若い者も都会へ出て行ってしまった」
「村おこしで作った裏山のアトラクションも、さびれ放題じゃ」
「一体どうすればいいのかのう」
「だから今新しい村おこしのアイディア出そうって集まったんだべ」
 しかし村に残っているのは年寄ばかりで、若者も数が少なく期待できそうな人材はいない。

「今流行りのゆるキャラを作ってみるのはどうだべ」
「ダメだ、アレが面白いのは最初だけですぐ飽きられる」
「じゃあB級グルメで売り出すべ」
「誰がうまい飯を作るって言うんだ」
「地道にこの村の特産品を売り出すしかないべ」
「でもヒノキとヨモギで一体なにが出来るんだべ」
 一同は黙ってしまいました。表通りにある特産館でお風呂に浮かべるヒノキ玉とヨモギ餅は売っていましたが、買うのは村の人だけです。そもそも観光客など来ません。村にひとつの小学校も、再来年に隣の市の学校へ吸収合併が決まっていました。この村自体が存続できるかどうかの瀬戸際なのです。
「もう、この村はおしまいだ」
「いや、まだまだこれからだ」
「そうだ、終わってなんかいない」
「でも、こんなに少ない人数で、何をすればいいんだ……」
 暗い顔を突き合わせているうちに、一人の顔が輝きました。
「そうだ。人数が少なくて、終わりそうな村だからこそ出来ることがあるぞ」

 それからしばらくして、その村は雑誌にも取り上げられるほどの観光名所となった。特に特別な施設を新しく作ったわけではなく、ただ空き家をいくつか改造して宿泊所などを作っただけだ。特産館も看板を買えただけで大儲けだ。ただ、売り物はヨモギ草とヒノキの木刀に変わったけれども。
「いやあ、良かったですね」
 村役場の若者が村の入り口で今日も大勢やってくる観光客を見て目を細めた。
「裏山のアトラクションも、少し改造しただけでたくさん人が入るのう」
「僕もあそこの係りをやってみたいですけど、このポジションのほうがいいってみんな言うんです」
「はは、確かに光栄なポジションじゃないか」

 また一組、観光客がやってきて入口の若者に訪ねた。
「村人さん、ここはどこですか」
「ようこそ勇者様、ここは『はじまりの村』です」
 中世風の衣装を身に着けた若者は宿屋と道具屋とダンジョンの場所について説明を始めた。

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