夏休みと噴水公園

 八月四日、晴れ。雲一つない快晴だ。今日も暑くなることを予感させるようにセミがけたたましく鳴いている。窓を開けると朝の涼しい風と夏の熱気が同時に室内に流れ込んだ。じっとりと夜の湿気を残していた部屋の中も瞬く間にわくわくするような空気に変わる。冷蔵庫から牛乳を取り出してコップに注ぐと、テレビをつけた。まだどの局も朝の情報番組を流している。画面の端に流れる天気予報を見ると、全国的に今日は晴れるそうだ。地方の水不足のニュースの後はトレンドコーナーでビアガーデンのにぎわいを映している。牛乳を飲み干すと台所にコップを置いて出かける準備をする。

 今日も暑くなりそうだ。

 噴水のある公園へやってくると、小さな子供連れが目立った。よくニュースで見るように子供の足を噴水につけた遊ばせている。時間差で噴き出す噴水に子供は大喜びだ。公園の隅にはアイスクリームを売る車がやってきた。夏休みでこれから遊びに行くような小学生がお小遣いを握りしめて、販売の準備が終わるのを待っていた。午前十時ごろの公園は、今日が始まった喜びであふれていた。

 まだ今日は暑くなる。

 正午を回るころになると、子供たちの姿は消えて昼休みのサラリーマンたちがやってきた。こんなに暑い日でも外で弁当を食べるのだから、社内で居場所がないのかもしれない。噴水のそばで楽しそうにコンビニで買ったそばを広げるOLはしきりに紫外線の話をしていた。

 暑さは頂点を極めたのかもしれない。

 昼休みが終わると、近くの学校の生徒たちがやってきてトレーニングを始めた。噴水の脇にスポーツドリンクのボトルを置いて、何度も公園の周りを走っている。体力づくりのために顔をゆがめながら炎天下の中を飛んだり跳ねたりする若者は、美しいようでどこかグロテスクだった。それはこういった青春を送ってこなかった嫉妬も交じっているかもしれない。

 次第に暑さは和らいできた。

 陽も傾いてきたころ、家路を急ぐ人が増えた。片手に花火の束を持っている男性や、夕食の材料を抱えている女性が多い。しかし皆が急いでるわけではなく、手押し車を押してゆっくりと夕涼みにくる老夫婦や犬の散歩に来るものも多い。東の空が藍色に染まるころ、そろそろと立ちあがった。

 今夜も暑くなるそうだ。

 熱帯夜に注意と言うニュースを聞きながらそうめんを啜る。「あんた今日はどうだったの」と母親が聞くので「うん、まあまあだよ」と適当な返事をする。「はやく仕事決めてもらわないとどうしようもないからね。面接は行ってきたの」「うん」「そう、いい返事あるといいね」返事なんかあるわけない。今日は一日炎天下の下にいれば熱中症になって倒れて入院でもできれば涼しい病院で過ごせると思って頑張っていたのに、まるで倒れる気配はなかった。頑丈な体を憎む。

 明日こそ、本気を出そうと思う。

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