J2 第8節 新潟 vs 岡山 レビュー



新潟 0 − 1 岡山

2018年4月8日(日)14:03KO デンカS


◎試合の流れ


3バックの熟練度の差がはっきりと出た試合でした。3バックに着手して間もない新潟は不慣れなフォーメーションのためパスミスを連発。攻撃においても守備においても有効なプレーを出すことができませんでした。2011年以降ずっと3バックに慣れ親しんできた岡山は、新潟のプレスの緩さを突いた攻撃を展開しゲームを支配します。守備ではしっかりと枚数調整されたタイトなプレスを見せて新潟に攻撃の糸口すら与えません。後半に得たPKを決めて先制点を奪うと、その後も危なげのない試合運びでまたしてもクリーンシートを達成。前節愛媛に敗れて初黒星を喫した後でしたが嫌な流れを断ち切る見事なアウェイ勝利で首位をキープしました。



☆今回のレビューのトピック

◎ショートパスをつなぐ3バックの”いろは”

◎岡山の守備を支える武田将平の走力

◎中盤の数的有利と躍動する仲間隼斗

◎ピックアッププレーヤー 武田将平・仲間隼斗


それではまず、両チームのフォーメーションから確認していきましょう。



岡山のフォーメーションは3142

新潟のフォーメーションは3421

次に、両者のフォーメーションのかみ合わせをチェックします。


新潟は岡山のフォーメーションを3421で予想していたようですが、今季初めて岡山は3142のフォーメーションでこの試合に臨みました。もし新潟の予想どおり岡山が3421できていたらミラーゲームになります。しかし、実際には3142だったので、ミラーゲームになりません。

岡山は前線を2トップにした分、中盤の人数を増やしており5人対4人と中盤において数的に有利な状況にありました。新潟は前線からのプレスを仕掛けたいところでしたが、岡山の最終ライン3枚、中盤5枚の計8枚に対してプレスにかけられる人数が7枚と数が足りませんから、岡山にプレッシャーをかけるには工夫が必要になってきます。




◎ショートパスをつなぐ3バックの”いろは”




新潟の3バックはショートパスをつないでいくスタイルを模索しており、岡山のように中盤を省略してロングボールを多用するスタイルではありませんでした。J2は3バックのチームが多いのですが、ショートパスをつないでいくチームはここまでの対戦でも徳島、大分、京都、甲府、愛媛、と一番多いタイプであります。3バックでショートパスをつなぐチームがみんなやっていること、ある種のセオリーになっていることを確認してみましょう。


3バック同士の対戦ではWBとWBがガチンコの1on1になります。この図では新潟のCB富澤がボール持っていますが、ここからサイドにボールを展開してもWBは監視されているので前にすすみづらい状況にあります。これは3バックであれば相手が3421でも3142でも同じです。

このようにサイドにチャンスは少ないですから、ショートパスをつないで前に進んでいくためには基本的に相手の前線のプレッシャーと中盤のプレッシャーをいかにかいくぐるか?がカギになってきます。そこで大事なのがプレッシャーを受けずらい形へと変化すること。

例えばボランチ(図では磯村)が最終ラインに落ちて4枚になる。こうすると相手が前線3枚でプレッシャーに来てもまだ一枚余りますから前を向いてプレーしやすい選手が出てきます。前を向いてプレーできるとタテにパスを入れられますから最終ラインから前にボールが進みやすくなります。

次に中盤ですが、ここでの主役はシャドーです。シャドーはFWの役割もMFの役割もできるポジションですが、後方からボールをつないでいく場合ではMFとして振舞います。具体的には相手の中盤(主にボランチ)の守りづらいギャップに落ちていき(図では加藤、矢野)、タテパスの受け入れ先になります。フリーでタテパスを受けることができれば前を向けますから、そこから一気に最終ラインを崩しにかかる段階に入れますから大きなチャンスを作れます。


と、このようにフォーメーションを変えることで前向きにプレーできる選手を増やしてボールをつないで前に進むのがショートパスをつなぐ3バックのセオリーです。




◎岡山の守備を支える武田将平の走力



この試合の新潟は岡山の守備の前にほとんど思うようにパスをつなげず攻撃を組み立てることができませんでした。ミラーゲームではないので、岡山としては”誰が誰にプレスにいくのか?”をはっきりさせないと、拙い新潟のビルドアップでも突破されてしまう可能性がありましたが、実にうまくクリアしていました。では、どのようにやっていたのか?見てみましょう。


前述のとおり3バックでショートパスをつなぐために選手が落ちて数的有利を作る動きに乏しい新潟ですから、岡山は誰が誰を見るのか?わかりやすくなります。ただ、3421の新潟に対して、この試合の岡山は3142でしたから新潟の右CBの原が余ってしまいます。ここでがんばったのが初先発となった武田です。

ボールが中CB富澤→右CBの原へと渡りそうだなと察知すると、武田は自分のポジションを離れて原へプレッシャーをかけに出ます。この時、もともと見ていた坂井がフリーになってしまうので、坂井の位置を確認して原→坂井のパスコースを消すようなルートで原に寄せる。いわば、坂井・原を一人で見る格好です。そこで原を潰せればOK。

もしつぶせなくて前への展開を許す場合はどうか?

武田が前に出ると、上田の横のギャップを空けてしまう事になります。そこはシャドーの加藤がボールを受ける絶好の場所になってしまうので新潟も狙ってくるのですが、武田は走力を生かして加藤をけん制に走ります。三村や上田と協力しながらこのエリアを守るのですが、ここの守備の連係が実にスムーズでした。これにより加藤が自由にボールを受けて崩しに入れる展開を作らせませんでしたが、それを支えていたのは武田の守備でした。

実は、前節の愛媛戦はこのシャドーのボールを引き出す動きに完全に翻弄されてしまい前半は全く守備が機能しない状態だったんですよね。後半は修正が効いて盛り返したのですが、愛媛のボールのつなぎの上手さに手玉に取られてしまって試合のペースを握られてしまいました。その反省もあってか、”シャドーがボールを受けることを妨害する守備”が実によくできていて成長を感じさせるポイントでした。しかもミラーゲームではないので、武田のようにひとつふたつと頭を働かせながら次々とプレッシャーをかけないといけません。なので難易度的にはひとつ上の守備が求められていたんですがそれをよくこなせていたなと思います。そういう岡山の好守があったために、新潟は最終ラインからボランチやシャドーを経由してボールを前に進めることができず、かといってスペースにロングボールを蹴ったりFWに当てたりはできず、次第に手詰まりになっていきました。




◎中盤の数的有利と躍動する仲間隼斗



次に攻撃の方を見ていきましょう。


新潟は前からのプレスで岡山の組み立てを妨害したかったところですが、誰が守備のスイッチを入れてハメ込んでいくのかはっきりとしません。岡山の方も新潟の前プレを想定して準備してきていたので、新潟の前線の守備は問題になりませんでした。ということで、岡山は最終ラインからボールを前に動かせる状態にありました。

次に中盤ですが、ここで岡山が3142で臨んだうまみが存分に出てきます。図のようにこちらの上田・伊藤・武田の中盤3枚に対し、新潟は坂井・磯村のダブルボランチで立ち向かわなければなりませんから数的に不利です。上田に寄せれば武田が空き、伊藤に寄せれば上田が空き、武田に寄せれば上田が空きと、おっかけてもおっかけても数が足りません。この状態を回避して枚数を同数に持ってこないと新潟は岡山の前進をストップできませんでした。岡山は中盤でも自由を得ることができ、前向きにパスを蹴る準備ができます。そうなると2トップの出番だ!

2トップは3バック脇や裏のスペースへどんどん走っていきます。中盤は上田、伊藤、武田と誰が持ってもパスは出せます。ですからFWは中盤を信じて走ればボールが出てくる。これまでであればヨンジェの強さと高さをベースにした攻撃がメインでしたが、齊藤や仲間にその強みはありません。しかし、このように中盤としっかり連携して攻撃を組み立てることができれば二人ともドリブルを持っていますしいい攻撃を繰り出すことができます。非ヨンジェ型の攻撃を模索した前節と今節でしたが、そこにひとつの答えを示すことができた試合になったのではないかと思います。



◎ピックアッププレーヤー 武田将平・仲間隼斗



この試合が初先発となった武田将平選手。

豊富な運動量を武器に攻守にわたって大きな貢献度を示してくれましたね。彼がポジションを争っているのはまず塚川選手、そして関戸選手であろうと推測されますが3人に共通して言えることはスタミナが豊富で運動量があることです。彼らがどんどん走ってチームの好守に穴が開かないように頑張ってくれるので全体のバランスが保たれています。技術が高い選手たちではありませんが、そこは上田康太や伊藤大介がいるので大丈夫。長澤監督の中盤にはこうしたハードワーカーが必ず配置されているので、運動量をベースにどれだけのものを積み重ねていけるか?でこのポジションの主が誰になるか?が決まっていきそうだなと感じています。武田選手はレフティという武器もありますし、もう少しパサーとしての正確性を出せるといいなと思いますね。そして、彼は身長181cmとサイズがあるのでこの点はかなり強みになると思います。いまのところは離脱しているとはいえ高くて強い塚川選手がこのハードワーカー枠ではファーストチョイスになってくると思いますが、関戸選手とともに激しいポジション争いを演じてほしいなと思っています。



そしてこの試合多くの人がMVPに挙げたことであろう仲間隼斗選手。

開幕戦での退場劇からすこしづつ出場時間をのばし、前節の愛媛戦でも実にいい働きを見せてくれましたが、この試合は「仲間隼斗はこういう選手です」とはっきりと伝わるプレーを見せてくれていましたね。裏のスペースに走ってCBと対面してからの1対1では、これまであまりファジにいなかった”ドリブラーとしての仲間隼斗”を存分にみせつけてくれました。また注目しておきたいのが、彼のトップ下としての性能です。空いているスペースを察知する力に長けていて、中盤からボールを引き出すプレーが上手い。岡山だと伊藤大介選手が一番うまいですが、彼に次ぐくらいギャップでボールを受けるのが上手いですね。ドリブラーというイメージが先行していますし、FWという目で見てしまうんですが攻撃の選手としてはFWもトップ下もどちらもこなせる幅のある選手ですので、非常に使い勝手のいい選手が来てくれたなと思います。また彼の守備における献身性、これはほんとに称賛に値します。決してさぼることがないし、味方のミスであっても自分が走ってカバーしてくれるようなチームプレーに徹することができる。開幕戦の退場でダーティな印象が残ってしまうんですが、出場時間ののびにあわせて少しづつ彼本来の良さが見えてきているなと感じます。この試合ではもう少しでしたが、次は得点を期待したいですね。





それではまた。

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