J2 第13節 岡山 vs 福岡 レビュー

岡山 2 − 2 福岡

2018年5月6日(日)16:03KO Cスタ



◎試合全体の流れ


中2日で迎えた連戦、お互いにメンバーを入れ替えて迎えた試合でした。岡山は開始早々右サイドから駒野のクロスを見事に合わせられ失点。福岡はリードしたのちは自陣にひいて守備を固めます。平面でのパスワークに問題を抱えていた岡山は空中戦にシフト。ロングボールでの裏狙い、リカルド・サントスの強さ高さで福岡に圧力をかけます。前半の終わりごろには美しい三村のドライブボレーが刺さり同点。後半は一進一退の展開でしたが、伊藤のミドルが突き刺さり岡山が逆転。このまま逃げ切りか?と思われたAT、福岡の執念が実を結びオウンゴールで同点。ドローとなりました。


☆今回のレビューのトピック

◎連戦についてふまえておきたいこと

◎椋原の右CBおよび下口の右WB起用の理由

◎上田康太封じと救いのリカルド・サントス

◎シーズン3分の1が終わる前に出直しの長澤ファジ

◎ピックアッププレーヤー 下口稚葉 ・ リカルド・サントス



それではまず、両チームのフォーメーションから確認していきましょう。

岡山のフォーメーションは3142

福岡のフォーメーションは3421

次に、両者のフォーメーションのかみ合わせをチェックします。

3バック同士の対戦ですからほとんどのポジションにおいてマッチアップする形。岡山のインサイドのMF3枚に対して福岡は2枚ですから岡山が中盤においては数的優位を取りやすい可能性があります。



◎連戦についてふまえておきたいこと



この試合は中2日というかなり厳しいスケジュールで行われた試合でした。J2にはシーズン中いくつか連戦になるところがあるんですが、試合が立て込んでくると選手の疲労が蓄積しますから(ケガの予防のことも含めて)試合に使えない場合が出てきます。ですから連戦では基本的にメンバーを入れ替えながら戦うことになります。問題は試合間隔ですが、中3日以上に過密なスケジュールでは本来のパフォーマンスは出せないという認識が一般的のようです。メンバーを入れ替えるとチームのおおまかなやり方はキープできても、細かい部分でスタメンクラスの選手から落ちる部分は避けられません。なので普段通りのサッカーからどのくらい引き算しながらも戦えるか?がポイントになってきます。

長澤監督:前節から中2日ということで、カード等で使えない選手がいるということと、あと筋肉系のダメージがあって使えない選手、制限がかかっている選手っていうのが多々出ましたので、それをもって今いる中でベストのメンバーを選んだという形で、戦術的に組む余裕は今回はありませんでした

普段通り、狙い通りのサッカーはピッチの上でなかなかできませんから、セットプレーやミドルシュートなど流れを無視して刺せる武器に余計値打ちが出るのも連戦の特徴だと思います。三村、伊藤の素晴らしいゴールで逆転できただけになんとしても勝ちにつなげたかったですが、命拾いもした試合ともいえるかもしれませんね。



◎椋原の右CBおよび下口の右WB起用の理由



長澤監督:椋原健太は元々あのポジションができる選手で、相手の力量を考えてもおそらく地上戦ではほぼ負けることがない選手なのであそこに配置して、(福岡が)カウンターを中心に取ってくると思っていたんで。健太は試合に出続けていて走行距離もずっと12キロオーバーでずっといっていて、センターバックに落ちると少なくても2、3キロはセーブできるんで、その分、守備の方に力を使ってもらおうかなという形でそういうシフトにしました

FC東京時代にJ1でもCBをつとめた事があるのでもともと経験あるポジションだったということと、福岡がカウンターを主体にしてくるだろうということで、相手FWとの力関係で椋原が守備で後れをとることはないだろうということ。そして、ここまでフル出場で最も疲労が懸念される選手なので右WBからCBに落とすことで走行距離をセーブできるので、疲労度も抑えられるだろうという狙いだったというわけですね。

長澤監督:ワイドの下口のところは駒野がくると読んでいたんですけど、高い位置に何回もアプローチにいかないと割といいボールが出てくる選手。起点としてロングボールをかなりの精度で入れてくるんで、そこをちょっと狂わせるため。

福岡はロングボールを前線にいれてくる岡山と似たタイプのチームですが、ボールの出し手となるのは左WBに入る駒野です。駒野は長らく日本代表のSBをつとめた日本最高のクロッサー(クロスのキッカー)の一人ですが、彼を自由にさせてしまうと高い精度のロングフィードを蹴ってFWに合わせられてしまうので、岡山は右WBを走らせて駒野をけん制しなければならなかったということですね。百戦錬磨の駒野の攻撃力を考えると本来であれば椋原の守備力で封じ込めたいところです。しかし、前述のとおり椋原の走行距離をセーブしたいという狙いもある。そこで、起用されたのがこの試合デビューとなった下口稚葉。チーム屈指のスタミナからくる走力で駒野を抑えようということでした。


しかし、開始早々駒野の左からの悪魔のようなクロスをうまく松田に合わせられて失点。駒野は相当難しい相手だとわかっていたとは思いますが、一連のシーンでの下口の守備にはタイトさが足りませんでしたね・・・

長澤監督:よくやったというのはおそらくアマチュアの世界の話であって、立ち上がりのクロスを上げられたところの間合いとかはぜんぜん話にならないと思うし、結果という面では物足りないと本人たちも思っていると思います。これくらいやるとは分かっていたんで、そこから先の世界に生きているってことが今日は身に沁みたと思います

これが普通のSBやWBであれば失点シーンの下口の対応でも事なきを得ていた可能性はあります。しかし、この試合の相手は駒野。やはり見逃してはくれないんですね。駒野は何が怖いのか?というと、まず左右両方の足で高精度のキックが蹴れることです。通常左利きの選手であれば左足でキックさせなければまず防げますが、駒野は左から右に持ち替えて右でクロスを上げることもできますから左右どっちも対応しないといけないんですね。そして、この試合でも何度も見られますがDFが一枚張り付いていても相手越しにクロスを上げる技術が極めて高いことです。ボールの置き所、タイミング、ボールの軌道の高さ、いろいろなことを調整してクロスをあげてきます。普通のJ2の選手ならDFの足にひっかけるか、クロスを諦めるか、仮に上がったとしても可能性の低いボールになってしまうかというところでしょう。しかし、駒野は可能性のあるクロスを上げ切ってくる。失点シーンなどまさにそれでしょう。下口は駒野と対戦してみてどう思ったことでしょう。育成者として長く過ごしてきた長澤監督の「そこから先の世界に生きているってことが今日は身に沁みたと思います」という言葉にはたくさんの若い選手を見てきた人ならではの深みがあるように思います。



◎上田康太封じと救いのリカルド・サントス



開始早々で先制したあと福岡はペースダウンし、自陣にしっかりと構えて岡山の攻撃を迎え撃つ態勢に入りました。いわゆる”ボールを持たせる”形をとってきたわけですが、岡山としては構えた福岡を攻略しなければなりません。しかし、このところ顕著になってきた上田封じと連戦でメンバーの入れ替えがあったことが影をおとして平面での繋ぎが思うようにいきません。

福岡は523でブロックを形成しますが、特に上田康太のところにだけはほぼ松田のマンツーマンに近い形で監視を強めてきます。最終ラインでボールをさばくことになったのは塚川でしたが、上田へのコースをほぼ封鎖されているので中央を経由したボール回しができません。パスで組み立てるのであれば福岡の構造的な弱点を突きたかったところです。

まずは、鈴木・山瀬のダブルボランチの両脇、通称ボランチ脇のところ。ここは伊藤や末吉がしきりにポジションを取っていてボールを受けたがっていましたが、塚川が見つけられなかったことと福岡がパスコースを切っていたこともあってあまりうまく使えませんでした。あるいは、こちらのWBに相手のWBを食いつかせて作る通称3バック脇、ここに動き出しの上手い福元を走らせて起点を作るプレーとか本来はもっとできたはずだと思います。塚川にしろ下口にしろ連戦での起用ということで本来のポジションではなかったり経験に乏しかったりと、このあたりにもメンバーを入れ替えた分うまくいかない感じがでていたかなと。コンビネーションやパス交換ではどうも難しい。

長澤監督:先にああやって点を取られるとスペースを消されちゃって一枚一枚をはがすわけにはいかないので、質的な有利を取っている場所から入っていって前を向いて動かした方が有効だという判断でした。勝てるところが一か所あったので、確実に起点を作るということで、そういう選択をしていきました


攻撃の組み立てがままならない岡山でしたが、救いとなったのは先発起用されたリカルド・サントスの強さと高さ、そして重さでした。

福岡のCB相手にどうか?というところでしたが、リカは対面したCB堤をものともしない強さを持っていて、アバウトなボールでも競り勝ってボールをよく収めてくれました。いわゆる電柱(ハイボールを受けて落とす背の高い人)役をこなしてくれたおかげで、攻撃が手詰まりになることなく岡山は福岡に対して攻勢を強めることができました。



◎シーズン3分の1が終わる前に出直しの長澤ファジ



後半は前からのプレスを展開してアグレッシブに守備を展開する岡山と、それをかいくぐって攻撃する福岡となりましたが、伊藤大介の美しいミドルで岡山がリードを奪う事が出来ました。体力的にキツい中でしたが、なんとか逃げ切って連戦を締めくくりたいところでしたが福岡のパワープレーで押し込まれ同点に追いつかれてしまいました。

長澤監督:最初と最後に取られているんで。努力は認めるんですけど、われわれは勝負の世界に生きているので。締めきれなかったのはおそらくマネージメントの方の問題だと思っているので、そこはしっかりともう一回空気を作って出直したいと思います

試合の開始直後、前半の終わりの時間、後半の開始直後、試合終了間近。この時間帯は失点をしてはならない大事な時間なんですが、この試合では前半開始直後の3分。そして、ATでの失点ということで、締まりのない試合になってしまった感は否めません。岡山がここまで順位を押し上げられてきた要因は何と言っても堅守。その堅守を支えてきたのはボックス内での守備、ボックスディフェンスの強さでした。

肝心の時間帯に細かいところを徹底できないところが失点に繋がっていて、そこを引き締められなかったのは日常からの空気、厳しさの部分が原因だったということでしょう。シーズンも3分の1が経過しますが、まだまだ勝ち点が足りません。さらにいいチームになっていかないと勝ち続けるのは難しくなっていきますから、もう一度ピリっとしたチームを取り戻して厳しいリーグを勝ち抜いていきたいですね。



◎ピックアッププレーヤー 下口稚葉 ・ リカルド・サントス



この試合でJリーグデビューとなった下口稚葉選手にとっては厳しい試合になりました。首位争いをしているチームで先発で起用されること、若手の選手にとってこんないい舞台もなかなかありませんが要求されることも首位争いレベルになってきます。この試合を勝つうえでやはりあのクロス対応は致命的でしたが、チームがスーパーゴールでゲームを取り戻してくれました。失点に絡んだ直後どうかな?と思いましたが、多少浮足立ったところもなくはなかったですが、おおむね落ち着いて試合を戦えたことは大変すばらしかった。若い選手は失敗して落ちるメンタルをコントロールしきれないことが多いですから、ミスにミスを重ねてどんどんパフォーマンスを落としてしまう事がよくあります。ところが下口はそうはならずしっかりと役目を果たすことにフォーカスできていたのはこの試合大きな収穫でした。次の出場ではしっかりと爪痕を残してほしいですね。



そして今後のリーグ戦を考えるうえで最も希望を抱かせてくれたのは先発起用されたリカルド・サントス選手でした。まず、注目だったのは福岡のCB陣にぶつけてみてどのくらいやるのか?ということ。これについては前述のとおり相当やってくれたわけですが、福岡レベルのCBにあのくらいやれたことが一つの物差しになってくれると思います。このような大型のFWの選手は出だしは相手を圧倒していても徐々に研究されて、得意なこと・不得意なことが相手チームに分析されていきます。出場時間が増えるにつれて相手の守備も手厳しくなっていきますが、岡山としてもリカの効果的な使いかたがわかってきますので、そこのせめぎあいは注目ですね。とにかくPAの中に入られると相手は相当嫌がるでしょうから、リカをPAの中にどのくらい送れるか?そこを見ていきたいですね。




それではまた。

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