J2 第14節 水戸 vs 岡山 レビュー

水戸 3 − 0 岡山

2018年5月13日(日)14:03KO Ksスタ


◎試合全体の流れ


ここ2試合で敗戦、ドローと、悪い流れを止めたい岡山でしたが、水戸のカウンターの前にあれよあれよと失点を重ね前半で3−0とほぼ勝負を決められてしまった試合でした。福岡戦につづきメンバーをかなり落としたスタメンで臨んだものの、攻守ともにチーム力の低下が著しく上位争いはおろか残留争いしていてもおかしくないパフォーマンスしか発揮できず。後半スタメンクラスの投入でゲームを取り戻そうと決定機を積み上げましたがGKとバーの前に沈黙。ほとんどいいところのない試合になってしまいました。



☆今回のレビューのトピック

◎水戸のスタイルとアンカー周りの狙い撃ち

◎単調なリカ狙いと柔軟性を欠いた攻撃

◎1失点目にみる本職CBを起用できない難しさ

◎厳しい選手起用と正念場を迎えるチーム・サポーター



それではまず、両チームのフォーメーションから確認していきましょう。

岡山のフォーメーションは3142

水戸のフォーメーションは4231

次に、両者のフォーメーションのかみ合わせをチェックします。

岡山も水戸も最終ラインで人が余りますから、お互いに後方でボールを持てそうな組み合わせでした。水戸は4231のフォーメーションということで、トップ下に伊藤涼太郎を置く形。純粋なトップ下を置くチームとは今季初めての対戦となりますが、4231のトップ下は処理が難しいので厄介な相手でした。



◎水戸のスタイルとアンカー周りの狙い撃ち




水戸はこの試合ではある意味サイドを捨てることで中央の厚みを増し優位を作ってくる戦い方をしてきました。選手のポジションをズラすことで、こちらの守備を幻惑し数的に不利な状態にもっていきます。

4231の3のところ、両サイドのSHに入っている木村・田中はサイドに張っているんではなくて、どんどんインサイドに入ってきます。こうすることで、1トップの宮本以下ボランチに至るまで実に6人の選手が中央でプレーできることになりますから、当然セカンドボール勝負やパス回しでの数的有利が生まれてきます。これに岡山の守備陣形を合わせてみるとどうなるか?

アンカー上田の周りに水戸は4人も関与できる選手がいます。両SHを動かすことでいわゆるアンカー脇(ボランチ脇の一種)の弱点を活用できるわけですね。SHが中央へ寄ってくるだけでも面倒なのに、誰がマークしていいのかわかりづらい4231のトップ下もいるということで、こちらのボランチとCBはどのように守っていいのか混乱をきたすことに。

岡山のWBと左右のCBはSHが中に入っていってしまうと近場にマークにつける選手がいなくなってしまいます。守りたくても守れない選手が出る一方で、中央ではSHが動いたぶん数的に不利になってしまう。こちらがしっかりと構えて守備しているうちはまだよかったですが、セカンドボールの拾い負けやカウンターの局面ではこの傾向が顕著に出ます。その結果、3失点に繋がってしまいました。


攻撃時に水戸は前述のとおりフリーになりやすい右SBの浜崎からボールを入れてきますが、ひとつ大きな攻め手としてFWの宮本めがけたロングボールを蹴ってきました。

ロングボールを塚川が競ると、だいたい中盤のエリアに落ちるんですが、このエリアに水戸は想定していた以上に人を送り込めますからここでのセカンドボール争いでも優位に進めることができます。



◎単調なリカ狙いと柔軟性を欠いた攻撃



一方で攻撃の方はどうか?


水戸は守備の時には4411あるいは442の形で構えます。岡山は最終ラインでは比較的自由にボールを動かせましたから、ここからどのような組み立てをするか?というところ。前節効果的だったということもあり、この試合の前半ではリカルド・サントスへのハイボールを中心として攻撃を展開します。

リカへのハイボールを入れて、その落としを福元が拾って攻撃のとっかかりを作ろうという狙いでしたが、この試合ではほとんどリカがボールを落とすことができませんでした。リカが落してくれることを前提としているので、それをあてにして走っている福元は当然無駄になってしまいます。リカが落せるかどうかに攻撃の大半が依存してしまう苦しい状況でした。

長澤監督:前でポイントを作って自分たちから拾うっていう部分でちょっと前方と呼吸が合わないというか。(FWが)止まった状態で入れたらCBは2、3メートル助走をつけてくるわけですからFWも動き出さないといけないですし、動き出したときにどういうボールを入れるか。そこであやふやになっちゃった部分があったかなと。

どんなボールでも落としていまうストロングヘッダーもいますが、残念ながらリカはそういうタイプではないようです。落下地点の見極めが悪く、いいポジションを取れないのでせっかくの高さを生かせないタイプ。しかし、高さ強さがないわけじゃないのでどのように使うか?で生かせるようになるはずなんですよね。現に福岡戦では効いていたわけですから。そういう出し手と受け手のすり合わせの部分で呼吸が合わず、無理なボールをいれてはセカンド勝負に敗れ→カウンターと。悪い攻撃が悪い守備をよぶ悪循環でどうにもならなかった前半だったと思います。



後半岡山はメンバーを代え、赤嶺・仲間・齊藤のスタメンクラスを投入することで息を吹き返しますが、このリカ・福元の2トップとどう違うのか?は興味深いポイントであります。

まずは赤嶺へのハイボールですが、後半の修正があったとはいえ前半のリカへのボールの成功率と比べるとかなり改善されて落とせていました。アバウトなボールでも落としてくれるので、出し手も信頼して蹴りこんでいけます。

そして仲間の運動量とスペースを見つける力が発揮された間受け。前半は平面での繋ぎがほとんどできませんでしたが、受け手として優秀な仲間を置くことで攻撃の手筋が増えます。また、仲間には裏取りもあります。

そしてこの試合でも決定機を作り出していた齊藤のサイド性能の高さ。体を生かした競り合いだけでなく、ドリブルで運んでチャンスメイクもできる齊藤はサイドに出ていってクロスまで上げることができる。


こう並べてみてわかるのは、攻撃のバリエーションに大きな差があるということ。おそらく福元もサイドに流れて起点を作ったりとか、相手の背後のスペースを取ったりというプレーはできるはずなんですが、ここ2試合でそういうプレーが出てこないのは、前述のとおりあまりにリカへのハイボールありきで進めてしまっているので、リカの落としに走らざるを得ないのが原因であろうと思います。リカありきすぎて柔軟性を欠いたので前半は攻撃がうまくいかなかったと考えていいと思います。また前線に信頼できる攻め手がなければ後方も自信をもってボールを出せません。しかも、後ろは急造3バック、折からの”上田康太シフト”もあり展開力は低下しています。どこかで、優位を取らなければさすがに厳しい。




◎1失点目にみる本職CBを起用できない難しさ



ここ2試合は塚川・喜山・椋原の3人で3バックを形成していますが、やはり本職のCBに比べると安定感や経験といった点で大きく後れを取る感は否めません。そういうことを如実に感じさせたのがこの試合の1点目のシーン。これをふりかえってみましょう。

左SHの木村から裏へ走り出した右SHの田中へスルーパスを狙ったシーンですが、これを塚川がカットしてボールがこぼれ球になりました。前述のとおり中央にSHが寄ってくる水戸の特徴がよく出ている攻撃ですね。このシーンはまずスルーパスをカットした塚川のプレーはよかった。しかし、問題はその後でした。

トップ下の伊藤と塚川のちょうど真ん中に転がったボールに対して、あろうことか塚川はスライディングで触りに行ってしまいます。これはCBとしてプレーする以上は絶対にやってはいけないプレー。なぜならば、結果そうであったようにスライディングで地面に転がってしまったら前進する相手に完全に置き去りにされてしまうからです。伊藤のコントロールが少し乱れた分、一発で田中に出されてGK1vs1というシーンは避けられたものの、伊藤のスルーパスを田中に決められてしまいました。塚川も最後まであきらめずに追いましたがミスを帳消しにすることはできませんでした。このように、スライディングというのは捨て身の守備なので、間違いなくシュートやクロスが来る場合や、絶対に先に触れる確信がある場合でないとやるべきじゃありません。下手にやってピッチに寝ころんだらそれは単なる守備放棄に等しい。ましてやCBは最後の砦ですからね。イチかバチかのプレーをするエリア、状況ではありませんでした。


しかしながら、塚川は本来ボランチでしかも食いつき役としてプレーしている選手です。いつもであれば彼の後ろに上田康太が見てくれていて、またその後ろには濱田や後藤が控えているのが本来のところ。こうしたとっさの判断が求められる場面で、普段のボランチのプレーが出てしまう事はやむを得ないことではないかと。彼に濱田や後藤と同様にCBとしてふるまえ!と要求するのは少し酷な気がします。高さがある分、塚川を中央に持ってこざるを得ない事情もあるでしょうし、おおむね頑張ってくれている。そういった点を考えると、選手起用の苦しさがゲームの苦しさを招いていると考えざるを得ません。



◎厳しい選手起用と正念場を迎えるチーム・サポーター




ヨンジェ、赤嶺、齊藤、仲間、リカ、福元。FWの序列を考えるとだいたい上位からはこんな並びになろうかと思います。その中で、ここ2試合は5番手・6番手の選手をチョイスして戦わないといけない状況が続いています。

最終ラインは椋原・塚川・喜山。右WBが本職の椋原をもってきたり、ボランチが本職の塚川を持ってきたりと、あからさまに運用の難しさを露呈してしまっている現状があります。


前節の福岡戦は中2日での試合でしたから、大きくメンバーを入れ替えることになんの不思議もありませんでした。しかし、この試合はしっかり1週間の間隔があいた試合ということで疲労度的に苦しい選手起用を強いられるシチュエーションではありませんでした。にもかかわらず、なぜ前節のメンバーをほとんど代えずにこの試合に臨んだのか?これは一つ大きな謎ですね。さきほど前半と後半の前線の選手のちがいについて触れましたが、スタメンクラスはさすがにスタメンをとるだけのクオリティがあります。そして本来ポジションで選手を使わないと難しい場面が出てくることも述べました。

そうであるにもかかわらずスタートから起用しないのには何らかの理由があるはずです。もしかした未発表のけが人はいるのかもしれないし、体調不良者がでているのかもしれない。または疲労度の回復の部分で無理ができない状態なのかもしれません。いずれにせよ、より強い選手を使わずに無駄に温存する意味はない。監督も当然そんなことは百も承知で選手を選んでいます。

長澤監督:序盤で走っていたときにヨンジェが急にいなくなっちゃたりとか、ディフェンスにも制限のある選手が出たりとかいろんな部分が重なっているんで意図的に代えたというよりはいるメンバーでという序盤戦だったと思います。

チームの調子は谷に落ちてますが、この状況を脱するにはメンバーが戻ってくること以外にできることはありません。まずは、本職が本職としてしっかりと仕事ができる態勢を取り戻すこと。これに尽きるでしょう。もしかしたら時間がかかるかもしれませんが、それまではしばしの我慢。チームもサポーターも今が正念場だと思います。

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