第6回 勉強会「再生可能エネルギーとデジタルグリッド」
ゼロカーボン(カーボンニュートラル)に向けて一人ひとりが主役となるための勉強会。
第6回のテーマは「再生可能エネルギーとデジタルグリッド」。
はじめに「グリッド」という言葉について、しくみ株式会社の石田さんにお話いただいた上で、再生可能エネルギーとデジタルグリッドについて、株式会社DGネットワークの北野さんからご説明いただきました。
グリッドとは
「グリッド」という言葉を日本語にすると、格子状・方眼状のもの、マス目といった意味になります。
「グリッド」を電力網として考えると、
オフグリッドは、電力網に接続せず自立していること
マイクログリッドは、需要と供給が小規模な電力網で完結していること
スマートグリッドは、小規模電力網において需給の最適化制御が働いていること
デジタルグリッドは、インターネットで情報を送受信するように、ルーターや連携制御を用いて離れた場所でも電力の取引・融通を行うこと
など、様々な言葉・概念があり、電力のテクノロジーは日々進化しています。
また、ドイツのシュタットベルケでは、電力だけでなくガスや水道などを都市公社が経営・運営しています。
それでは、デジタルグリッドについて株式会社DGネットワークの北野史人さんにお話いただきます。
再生可能エネルギーとデジタルグリッド
2021年1月から2月にかけて、JPEX(日本卸電力取引所)の電力単価(電力小売事業者の仕入価格)が高騰しました。
LNG(液化天然ガス)の不足や原発再稼働の延期、寒波とコロナ巣ごもり需要増等の複合的な理由で、通常30円kWh程度の購入電機単価が、仕入価格で瞬間的に251円/kWh、月平均60円/kWhまで上昇してしまい、大きな問題になりました。
再生可能エネルギーのポテンシャルを表した2010年の資料ですが、上の4つが原油・天然ガス・ウラン・石炭という化石燃料で、グラフは残りの量を表しています。
黒い点は、全世界の一次エネルギーの年間消費量で、化石燃料を使うと毎年ストックが減っていくことになりますが、それに対して太陽光・風力・水力等の再生可能エネルギーは毎年発生し、そのポテンシャルは無限大と言うことができます。
日本は2050年にカーボンニュートラル、2030年に46%削減を目標としていて、再生可能エネルギーを含めた分散電源の導入支援についても首相から言及されています。
2021年7月時点で、420自治体(人口で言うと1億1,090万人に相当)が2050年二酸化炭素排出量実質ゼロを表明しています。
2021年5月に改正地球温暖化法が成立し、2050年脱炭素化が法律に明記されたほか、地方自治体が自ら削減目標を設定して、自ら推進・実施しなければならないこととなりました。
地方自治体が主導する形で地産地消の分散型電力システムを構築する必要があります。
2022年4月に電気事業法が改正され、配電事業ライセンス制度が始まります。
自然災害等への対策として、地域で配電網を運営することで分散電源を独立運用することで災害対応力を高めることを目的としています。
新しい技術の活用により設備のダウンサイジングやメンテナンスコストの削減等も期待されています。
企業の事業用電力を100%再エネで賄うRE100企業は、年間100GW以上の電力を消費している企業を対象としていますが、既に50社を超えています。
SDGsや環境への取り組みが評価項目になり、再エネや脱炭素の取り組みについては金融機関等も着目しています。
日本国内の一次エネルギーは、約9割を化石燃料に頼っています。
日本のエネルギー自給率は約10%で、発電に必要な資源を購入する費用として、毎年約4兆5千億円が海外に流出していると推測されています。
また、日本のエネルギー自給率は、経済協力開発機構(OECD)加盟35ヵ国のうち34位であり、かなり低い水準となっています。
紛争等で化石燃料が輸入できなくなってしまうと、電気を使えなくなってしまう状況になっています。
再エネ100%地産地消を実現すると、節約・省エネモードから積極モードにシフトして、地域に活気が出ます。
資本の域外流出を抑え、地域の経済的な豊かさが向上します。
二酸化炭素の排出を抑えるとともに、災害に強い街になります。
継続していくことで電力産業にかかるコストが下がり、雇用の促進や地域のブランド化、企業等の誘致の可能性も高まると考えられます。
現在は、電力会社を通じて海外に資金が流出して地域経済が疲弊している状況ですが、再エネ電力の地産地消を実現する「ルーラルエンタープライズモデル」では、地域再エネ資源を中心とした電力供給や地域資本による地域新電力を設立することで域内資金循環が可能になり、地域の自立・活性化が可能となります。
しかし、風力や太陽光といった再生可能エネルギーは、発電量が気候条件に左右されてしまうため、「不安定」という大きな課題を有しています。
需給バランスを取ること(発電と消費の「同時同量」を30分単位で実現すること)は簡単ではありません。
同時同量のバランスが崩れてしまうと、北海道胆振東部地震のときのように、全域でブラックアウトといった事態が生じかねません。
再エネ割合が増えすぎると、需給バランスが崩れて同様の状況になってしまう可能性があります。
ドイツでは、水道だけでなく電気やガスなどの生活インフラを各自治体が運営していて、需給管理も自治体ごとに分散して行われています。
白馬村内で計画(申請)されているFIT事業の情報がインターネット上で公開されています。
全部で22件あり、約10MWの発電設備が計画されています。
内訳を見ると、太陽光が19件で934kW、水力が3件で9774kWという状況です。
村内の事業者は白馬村(土地改良区)の小水力発電のみであり、地産地消率は1.6%にとどまっています。
白馬村の電力自給率は約98%と聞いていますが、脱炭素に貢献する環境価値は中部電力が持っているということになります。
毎月の電気代に含まれる再エネ発電促進賦課金によりFITの差額を負担していることを考えても、域外への流出が生じていると言えます。
再生可能エネルギーを電力会社のネットワークに接続するためには申請・許可・契約が必要で、契約順に容量が確保されますが、容量の50%は空けておく必要があり、全国的には50%の枠が埋まり接続できなくなっているところが続出し、空き容量を奪い合うような状況になりつつあります。
各地域の配電網の空き状況は電力会社のWebサイトで公開されています。白馬村はまだ空きがある状況ですが、域外の業者が空き容量を抑えに来ることも考えられ、いずれは容量が埋まってしまうと思われます。
「デジタルグリッド」という言葉を、「既存系統に悪影響を及ぼさない非同期連系の自立した分散電源」と定義しています。
既存系統と再エネが「つながってはいるが自立している」という状況を指します。
既存系統に依存せず、地域で発電・消費ができる「生再エネ」による地産地消のまちづくりを目指しています。
デジタルグリッドにより実現できることは以下のとおりです。
100%再生可能エネルギーのまちづくり(人にも地域にも地球にも優しい街)
電力の地産地消(資金の域外流出を防ぐ)
節約から積極へ(限界費用ゼロのエネルギーを目指す)
災害等に強いまちづくり(エリア内全域停電の抑止)
財政力の向上(地域経済の活性化)
CO2削減(地球温暖化対策)
デジタルグリッドの環境省事業として、住宅間を自営線で接続して、電力融通(余った電気を譲り合うこと)をするとともに、既設線を利用して余剰電力をイオンモール浦和美園店とミニストップ4店舗に供給することをしています。
マイクログリッドの構築を支援する経産省の補助事業があります。
導入プランの策定(調査)から構築(再エネ発電・蓄電)まで、最大で6億円の支援を受けられます。全国で30件程度が採択され、導入プランの策定が進められています。
那須塩原市で、マイクログリッド構築に向けたマスタープラン作成事業を進めています。
温泉地区に3箇所の配電塔があり、まずは1つのエリア内において、防災拠点や避難所に指定されている公共施設等で災害時に域内の太陽光や水力で発電された電力を使えるようにしています。
温泉街全体の設計として、宿泊施設の屋根など約60箇所で太陽光により2.7MWを発電し、6MWの蓄電池で需給調整を行うことを想定しています。
平常時でも自家消費し、余剰分はエリア内で消費されています。
域内でエネルギーを地産地消しながら、不足する分を上位系統から補うという形になっています。
最後にまとめとして3点を改めてお伝えします。
1点目は、地域外に流出しているものを域内で循環させて地域を元気にしましょうというルーラルエンタープライズモデル。
2点目は、再生可能エネルギーの導入は空き容量によって制限があり、全国的には取り合いが発生し、外部の開発業者が来る可能性が高いこと。ただし、デジタルグリッドを構築できれば、空き容量に関係なく再エネを活用できること。
3点目として、デジタルグリッドを構築することで出来ることを地図上に落とし込んでみました。
エネルギーの地産地消、CO2削減、上位系統との接続による電力融通(不足時は購入、余剰時は販売)、上位系統停電時も無停電化、エリア内再エネ導入最大化、RE100、地域活性化と域内資金循環など、理想とも言える地域に近づくと考えられます。
そして、それらを実現するためには、地域の住民や事業者が主役になる必要があります。
質疑応答・感想
価格面ではFITで売電する方が有利だと思いますが、デジタルグリッドを構築するメリットはどこにありますか?
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発電事業だけでは事業採算性が厳しい面がありますが、自治体や地域の企業の出資により新電力会社(SPC)を創設して、発電・配電・小売の3種を兼業することで収益を確保できると考えています。(下図)
デジタルグリッドの実現に向けて、地域住民ができることは何でしょうか。
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事業を実施していくためには多くの課題があり、関係者の役割分担が必要となります。自治体だけではできないため、ノウハウを有する企業の協力も必要になり、地域のための事業ということを理解した上で地域が一丸となって進める必要があります。理解を得るのに時間を要することが多いため、そこを地域住民の力で進められるとスムースに事業が進んでいくと思います。農地にソーラーパネルを設置しようと思いましたが、雑種地になり固定資産税が高くなるため元が取れず断念しました。
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農産物を作りながらその上にパネルを設置するソーラーシェアリングという形は一つの解決策かと思います。
また、温暖化対策法の改正により、市町村が「促進区域」を定められるようになり、許認可手続きのワンストップ化や環境影響評価の簡略化などで優遇されるようになるため、そういった制度を利用するのも一つの手法だと思います。地域新電力会社は誰が始めるのが良いですか?
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地域によって様々な出資の形がありますが、自治体や金融機関、大手企業、地元企業などの場合が多い状況です。
自治体と地元企業で出資するのが理想ですが、現状では難しい面があるため、大手企業にも支援してもらいながら進められている事例が多くあります。地域新電力は、自治体単位で取り組むのと、もう少し広域的に取り組むのと、どちらが良いですか?
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各地域の再エネのポテンシャルや電力需要等によるので一概には言えませんが、現時点では自治体を超えたものは少ないと思います。事業が成立する最小の電力規模はありますか?
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配電事業や小売事業も含めて兼業することを考えると、現在の電力使用量や電気料金などを計算してみないと何とも言えません。
一つのグリッド内に、どれだけの需要と供給のポテンシャルを把握して、事業性が出る形を作っていくということが鍵になります。地域共生型再生可能エネルギー等普及促進事業補助金を申請するためには、どの程度の基礎数値が必要になりますか?
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初めに調査をするので、対象とする地域の範囲や再エネポテンシャルなど、ある程度の画を描けていれば、それほど詳細な数値は必要ありません。個人で発電する人が増えて、将来的にそれらを接続してマイクログリッドにしていくような道筋は考えにくいでしょうか?
例えば近所の10軒くらいで組んで既存の電力網を使って分け合うといった形は可能でしょうか?
↓
可能です。太陽光だけでなく小水力なども組み合わせて電力を融通できたらいいですね。地域の理解、賛同が大事という話がありましたが、電気の話は難しいので、多くの人に理解を求めるのは難しそうです。
電気や再エネという言葉を最初から出さずに、地域のお金が循環すること、耕作放棄地など活用されていない土地でお金とエネルギーが生まれること、地域の雇用、災害時の電源、気候変動を遅らせる、雪が降り続けるなど、みんなが「いいね!」と思う事例を話した後に、それを実現するツールが「再エネ」なんです、と話ができればいいかと思います。エネルギーと経済の地域循環を実現したいと思いながら、なかなか一歩を踏み出せずにいます。
地域新電力は公社など公的な位置付けで取り組むのが良いと思います。(民間や特定の団体が表に出ると「誰が儲けてるの?」みたいな話になって地域が一丸になれないような気がします…)
最近、ソーラーパネルの普及による導入コストの低下が著しく、諸々の技術の進化でソーラーパネルと蓄電池で何とかなる時代が近い将来に訪れるような気もしますが、小水力の安定的な発電もとても魅力的だと改めて感じました。
お知らせ・閉会
8月は夏休みということで、次回は9月9日(木)18:30〜開催します。
テーマは決まり次第お知らせします。
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