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東京女のカープ熱狂録 その4 -日本シリーズ第3戦「松山の後逸」-

日本シリーズ3回戦、広島東洋カープ黒田博樹ラスト先発試合、札幌ドーム、8回裏。日本ハム中田翔がレフトへ浅く運び、走り抜いた松山のグラブが間に合わなかったその瞬間。カープはあっけなく逆転されました。6回まで痛みを押して投げぬいた、黒田の守った勝ちが、その一瞬で消えました。

あかん、と思いました。テレビの前で松山に大きな声を上げてしまいました。それはかなり激しく汚い言葉となりました。

テレビだから見えました。ベンチに戻り、黒田の目の前に座して、笑っているような松山の表情が。……笑っている?

いや、笑っているわけがない。ひきつってるんです。どうしようもなく強ばっているんです。家族は「泣いてるんじゃないか」と言いました。まさか。試合中です。アンパンマンと呼ばれたムードメーカー、あの松山が。

松山。あなたを怒ってごめんなさい。

イニング移って9回表。初っ端の誠也がライトを切り裂く3ベースヒット。そのあまりの激走に、カメラが追いついていませんでした。三塁を踏む誠也のことを、からっぽの二塁方向から急角度で追いかける残像が、その速さを物語っていました。塁を踏み、ようやく息を整える誠也の横顔。鬼のような闘志がその横顔からにじみました。

ここからは勝手な想像です。

わたしにはそのときの誠也の横顔が、そして松山、ブラッドをおいてライトに綺麗なタイムリーを打った安部の表情が、「松山さん、黒田さん、大丈夫です。全員野球です」とでも語るように見えたんです。

個人的に、今日の試合は日本シリーズ過去2試合とまったく違うものでした。ホームとビジターという設定だけでは説明できない、「異境の磁場」のようなものを感じました。うねり、割れるほどの日本ハム側の声援も、それを後押ししました。そして、大谷の恐ろしさに凍ったのは、実に、日本シリーズ始まってから初めてだったかもしれません。

感想、言うべきこと、たくさんあるのに、わたしの今日の観戦記録はこの8.9回の鮮烈でした。

明日の朝刊にはこう並ぶでしょう。
「世代交代を印象づける試合だった」などと。

黒田の果たしてきたことは、世代だとか、そんな小さな言葉で揶揄できるものではありません。ましてや、比べるべきものなどひとつもない。連綿と彼が残した事実、言葉、鍛錬、その一球ずつの重みを思うのみです。ナインの闘志の源が、男黒田とともに掴む、新しい未来なのだと結ばれていた。その団結を忘れるわけにはいかないのです。

試合直後、某所に書き込まれたという「松山はいらん」。厳しい言葉です。彼の守備の特性を考えると、そしてわたしがテレビの前で思わず叫んだ言葉も思うと、誰のことも責められません。

しかし、松山が泣いたかどうかはどちらでもよいことです。むしろ、試合中に、禁忌の表情までしなければならなかった彼の重責を、メンバーもファンも、延長10回の最後までよくシェアしたことだと思っています。

カープの強さはなんだったのか。

改めて思い出せば、おのずと責める言葉はなくなります。「全員野球」という言葉は古いのかもしれませんが、少なくともわたしたちにとっては、サーチライトのようなものだと思っています。明日の足元を照らしだす、一条の光なのだと。

だから、皆さん。明日も、共に。

共に戦おう。

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