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東京女のカープ熱狂録 その5【人にやさしく 】

「カープファン」と呼ばれることについて、この1年でプラスした考え方のフレームをごく個人的エッセイにしました。

2016年9月10日。25年ぶりのリーグ優勝。それから1年が経った。

こつこつとした、細かく果てないチーム内の努力や運や罵声や奮起やマネジメントやつまりあらゆる意味で「プロ野球」と呼ばれるひとつの目的のために戦う広島東洋カープは、月曜日……つまり「基本的にはゲームのない」今日のこの日も、プロ野球のために動いていることだろう。

25年ぶりのリーグ優勝を頂いた昨年以降、他球団ファンの方のみならず、身びいきあるからこそのカープファンの方々からも、ファンらは「浮かれすぎ」「驕りすぎ」と指摘されることしばしばだった。それは「カープファン」という、ぼんやりとした塊についてのご苦言というのではなく、おそらく具体的に思い浮かぶ誰かについてのご苦言が、ちかちかと乱反射しながらわたしの元にも届いてきたのだと思う。

ぼんやりとした塊へのご苦言であれば、その塊の一部を自認するわたしであれ、どうしたって他人事になる。

学校の朝礼で「通学路で騒いでいる在校生がいる、とご近隣の方から通報をいただきました」と校長から説諭されたとて、「わたしじゃないし」とそっぽをむきつつイラっとして他人事にしてしまえば、説諭で肝要だった「通学路では静かになさい」という目的が、耳を抜ける。

だからこの場合、目的を果たしたい校長であれば別の話し方をすべきでは、と思うのだけど、空論に空論を重ねることとなるので、それは今は置いておく。

十把一からげにされるのは、ほとんどの場合、とても不快なことだ。

だから、「カープファン、鬼の首取ったみたいに調子こいてる」との言説を目にすれば、まあ、ムカつく。反省点は見つかるし、そこには感謝するけども、それは後付けの感覚だ。言われた瞬間はムカつくものだ。

それでも。他人事をわがことに置き換えろ、などと(古い校舎の張り紙みたいな)乱暴なことはまったく思わない。想像力を使え、だとかそんな、ゲージもつかない、おぼろで掴みどころの無い話でもない。

どなたかがどこかの塊について感想を持ったとすれば(つまり今回ならばカープファンへのご苦言だ)、その方には「具体的に思い描いたAという姿があったんだな」と受け取ること。

こちらが十把一からげにされたムカつきはさておき、発話者の誰かが「カープファン」というもやっとした塊に話の印象をぼかしながら、おのれの暴力を逃しながら、それでも「おれは嫌な思いをした」と具体的に感じたことがあったのだろう、と受け取ること。

そう考える枠を持つと、わたしはカープファン調子ぶっこきすぎ、と冗談交じりに言われたとて、特に腹は立たないのである。むしろ、「そのカープファンと呼ばれる人間が何をしでかしたのか分からないけれど、ぜひお話を聞かせてください」という気持ちになるのである。

こうして膝を詰めて、どんな具体的な嫌な経験が、と聞いていくなかで「実は印象だけで尻馬に乗っていたので、具体的にAという嫌な出来事や人も存在しなかった」という事実を、相手の中で判明させてしまうこともある。

十把一からげの魅力とは、そこにある。

具体的なAという人や出来事、グループですらない、幻想としての「カープファン」。そこに空砲を撃つことは、無責任でいてとても楽しいことなのだろう。

けれどもわたしはその無責任を、にこにこと、詰める。

すると、ひとからげにすんな、うっせーよ、とは全然思わなくなったのである。そして、こうした(つとめて誠実でありたいと願うこのやり方が)どこかの誰かにとってはなおのことイラつくものであることも、知っている。

慇懃無礼のヤクザ的優しさ。

このヤクザなやり方は、「カープファン」をひとからげにした、どなたかを貶めるためでは、断じてない。

なぜなら、これを書くわたしでも、ちょくちょく魅力にあらがえず陥る「罪」だと自省しているからだ。それ、やっちゃダメだと思うからだ。

具体的なAを是正させるための苦言ではなく、レッテルを貼ったなんらかのグループに、具体的でなく、印象やイメージだけで悪口ともとれる言葉を使ってしまうこと。その軽率なあやまちを、こつこつと、身の丈レベルから「やめていく」ための発声だ。

イメージの尻馬に乗って、誰かが嫌な気持ちになるだろう言葉遣いをすることを、ストップするための訓練だ。

このコツコツが、いつか幸せな共感や受容の力に結びつけば良いなと願い、だからコツコツを続けていきたいと過ごしていく。

それが、この1年で広島東洋カープファンのわたしが得た感想の、ひとつだ。

人にやさしく。誠実でありたい。

広島東洋カープが好きで、なおそう思うのは、欲張りにすぎることだろうか。

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