キャンプの話【後編】

~前編はこちら~

温泉から戻った時点で、そのまま眠ることを想定した最強防寒装備へと各々が仕切り直しており、焚き火を囲んでゆっくり暖をとる。ちなみに私はアウターのマウンテンパーカー+インナーダウンまで含めると、トータルで5枚も着込んでいた。下半身は中に裏毛のタイツを履き、もこもこの靴下を二枚重ねる。さらに長めのネックウォーマーと手袋、ひざ掛けも完備。ここまでやって、ようやく温泉で蓄えてきた熱をとどめることができた。


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先端がさすまた状になった伸縮する棒にマシュマロを刺し、火で焼いたものをチョコレートとビスケットで挟んで「スモア」を作ったり、明るいうちから飲んでいたメーカーズマークだけでなく、酵母の風味によってパンみたいな味がする不思議な日本酒を熱燗にして飲んだりした。アルコールを飲まない人たちは、山などでも淹れられるタイプの温かい紅茶を飲んでいた。

あとは、ぼーっと火を眺めたり、空を眺めたり、なんだかよくわからない話をするようなしないような、思い思いのチルタイムを過ごす。燃える薪が弾ける音が、静かなキャンプ場のそこかしこから響いていた。吐いた息の白さが真冬そのものだ。


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透き通った夜空を照らす月がみるみる登ってきて「これは戦国時代だったら奇襲には向かない夜だなあ」などと思っていたら、いつしか写真にあるようなまだらな雲がもりもり湧いてきて、一気に幻想的な風景になった。寒いは寒いが、しっかり対応はできているので、こうなったらもう果てしなく気持ちがよくなってくる。

夜はどんどん更けていき、23時を過ぎて最年長の一人が寝ようとしたところで、そのまま全員が寝袋へ潜り込んでいく流れになった。なんとなく寝るタイミングを待っていたのかもしれない。焚き火などを速やかに店じまいして、あっという間に就寝する。


キャンプの夜はさぞかし寒かろうと、私は家からダブルサイズのマイクロファイバー毛布を持参しており、体へ巻きつけるようにして寝たが、ダブルはちょっと大きすぎたし、何なら毛布は無くても大丈夫だった。十分な厚着をしていたほか、レンタル品のsnow peak製シュラフ「オフトン」がなかなか高性能で、寝心地はまるで悪くない。

寒さで目が覚めるようなことは無いながらも、深夜には何度か雨が降り、テントの表面をリズミカルに鳴らしていたことでは少しだけ目が覚めた。そのたびに(あー、薪とかチェアとか、外に置いてたものが全部濡れちゃうなあ……)と思いつつも身動きがとれず、そのまま気持ちよくオフトンに抱かれ続けた。


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朝7時前。誰ともなく、もぞもぞと起き出す。どうやら薪やチェアなどを雨が降りしきる中、友人の一人がテントの中へと撤収していてくれたらしい。おかげですぐに焚き火を再開できた。超サンキュー。温泉施設「かりんの湯」は朝7時からオープンしているということで、私を含めた朝風呂に入りたいメンバーがそのまま温泉へと直行する。まだほんの少しだけ雨が残っていた。

私が露天風呂へ入ったとき、ちょうど中には誰もおらず、顔の半分くらいまでぶくぶくとお湯に沈み込みながら、硫黄の成分でお湯がやや緑色がかって見えることもあって、ドラゴンボールに出てくる傷を癒す「あの装置」の中みたいだなあ、と思った。朝イチの露天風呂を独り占めすることがこんなにも気持ちがいいものなのか、とメロメロになった。

ところで私は、持参していたお風呂セットで朝にやりたいルーチンの一連を全部しっかりこなした結果、テントへ戻るまでにたっぷり時間をかけてしまい、戻った段階で「何をしてたらこんなに時間がかかるんだ」と噂になっていた。それに対し、テントへ残っていた起き抜けの恋人が「この人はお風呂に入ったら全部一からやらないと気が済まない人だから」という、100点満点の回答をしてくれていたらしい。そう、まさにそれです。私が付け加えるものは何もない。


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朝食は昨夜の残りのスープと、snow peakの器具「トラメジーノ」を使って焼き上げたホットサンド。それから私がいない間には、昨夜つくるのを断念していたリゾットを食べていたらしい。

snow peakのトラメジーノはどういうわけだか「ヤマザキのランチパックサイズ」で作られているらしく、普通の食パンでは耳が盛大にはみ出してしまう。が、耳を切らずにはみ出させてカリカリに焼け焦げた部分も、それはそれでけっこううまい。ホットサンドの中身はハムやベーコン、チーズ、卵など。友人夫妻は「小ぶりなバターを選んだらこれになった」といって贅沢にもエシレバターを持参しており、食べた食パンの枚数を覚えていないくらい食べまくった。

ほかにはコーヒーもいただいた。酸味の強いサードウェーブな味と、通常の苦いコーヒー味の二種類があってよかった。カップに注いだ温かいコーヒーは、少し目を離した隙にキンキンのアイスコーヒーになってしまうが、冷えてもしっかりおいしいコーヒーだ。日が出てくるにつれて辺りがどんどん温かくなってくる。キャンプの朝はなんだか優雅だった。


追加購入していた予備の薪まで焚き火で使い切ったところで、食後はすぐさま撤収タイム。あまり時間に余裕がなく、ややバタバタとした展開になった。各レンタルグッズをシンクで洗って元通りに収納していき、ゴミなども片付ける。10時にはスタッフのお兄さんがやってきて一緒にテントを撤収する予定なので、それまでにテント以外は終わらせておく必要があったのだけど、なんとか全部片付いて時計を見たら9時56分だった。だいぶギリギリ。

「昨夜はかなり冷え込みましたね~!やっぱりヒツジを食べられたんですか?」と、スタッフのお兄さんが朝から元気よく登場。雨でテントが濡れているため、本当ならテントをしばらく放置して乾かすのが一般的とのことだったが、畳み方のレクチャーも兼ねて、バサバサと水を振り払いながら、予定通りの撤収体験をさせてもらう。

手順としては、単に建てる時の逆をやればよく、ロープを取り、ペグを抜いて洗って、パイプを抜けばテントがそのまま一気にしぼむので、しぼんだテントを丁寧に折り畳んでいく。一夜を過ごした巨大テントがあっという間にボストンバッグサイズに収まっていくさまは、あっけないというか、どこか寂しい雰囲気があった。変な例えかもしれないが、故人のお骨が小さな骨壷に収まって「こんなに小さくなっちゃって…」と思ったときの感覚に、これが本当に全部入っちゃうんだ~という驚きまでも含めて、ちょっと似てるなと思った。

テントの撤収自体はサクッと30分程度で完了。レンタル品を一箇所にまとめて、あとはスタッフのお兄さんが片付けてくださるとのことで、ここで「手ぶらキャンプ」プランは終了。何から何まで大変お世話になりました。いいスタッフさんで本当に良かった。しばらくゆっくりしながら、11時までに余裕をもってチェックアウトを済ませる。で、あらためてテントが建っていた場所を見たら、さっき私たちが畳んだばかりのテントがもうすでに建っていた。きちんとテントを乾かすためですね。


その後は、THE FARMの敷地内にある「THE FARM CAFE」へ昼食を食べに向かう。11時オープンのカフェは週末ともなると人気らしく、すぐ満席になるという話だったので、開店と同時に入店。

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農園で採れたての野菜を使ったピザと、ブイヤベースを注文。それから各々が食べたいパスタなどをいく。私はペスカトーレにした。どれもメチャクチャうまい。


あとは帰りの高速バスに合わせてバス停まで送迎してもらう予定なのだが、食事を終えてもだいぶ時間に余裕があったため、外の売店で濃厚なソフトクリームを食べたり、一度も行っていなかったアスレチックやグランピングエリアなどを一通りうろうろしてみた。アスレチックはよく見ると「12歳まで」の表示があったが、私たちの中では比較的軽量級の二人が子どもみたいにはしゃぐ一幕があった。

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グランピング用テントにはエアコンが完備されていて、今回泊まったテントと比べたら普通に暖かそうだ。そもそも建てたり畳んだりする必要もないので、滞在スケジュール的にももっとゆっくりできるかもしれない。私は今度こちら側に泊まってみたいと思った。


「かりんの湯」内のおみやげコーナーもチェックするなど、たっぷりゆるゆると時間を過ごしてから、14時のバスに合わせて、来た時と同じワゴンに乗り込んでTHE FARMをあとにする。視界の端から過ぎ去っていくTHE FARMの様子は、どこまでも穏やかで明るかった。

ところで今回、往復で使用した高速バスは通常の路線バスと同じく席の予約ができないタイプのため、1時間に1本のバスが満席だった場合は次のバスを待つか、あるいは近くの駅までタクシー移動して2時間以上かけて電車で帰る事態すら想定していたものの、予定のバスには無事に全員乗り込むことができて一安心。まっすぐ帰京できた。

一泊二日のキャンプの旅は、これにて終了。
楽しかった!!



今回の5人まで宿泊できる「snow peak 手ぶらキャンプ」プランは、人数に関わらず一泊二日で45,000円。つまり、5人で行ったので一人頭9,000円になった。ほかに調理用のガスや薪、カセットガスヒーターなどに追加課金したものの、それでも食費を除いて一人1万円ちょっとかな。

私のようにキャンプグッズをほとんど持っていない状態で、しかも、なかなか触れる機会のない総額55万円の道具たちをレクチャー付きで一式体験できる分には、けっこうお得だったのではないかなと思う。いきなりいい道具を使わせるのは「入り口」の施策としてかなりアリな気がしました。もし今後キャンプを趣味にするなら何が必要だとか、さまざまな部分で具体的なイメージもついた。

もともと私は東京生まれの超インドア人間で、学校行事に毛が生えた程度のキャンプなら幼い頃に数回行ったことはあるのですが、あとは今年の夏に初めて焚き火を経験したようなレベルでした。それでも今回、ちょっと寒すぎたとはいえ、夜の焚き火は最高だったし、そこにお酒も加わって、大人になったからこそ色々できて幸せになれる部分が多いな~と思った。キャンプって完全に「大人の遊び」なんですね。夜にはいつまでも泣き叫んでいる子どもが遠くにいたんだけど、やっぱり自分の意志で来たわけじゃないキャンプがつらい気持ちも、インドア派としてはすごく理解できた。

まあ、私は料理も火の番もせずほとんど任せきり、食べて飲んで寝るだけのようなものだったので、何にも大層なことは言えないのだけど、誘ってくれて色々セッティングしてくれたパーティの各位、本当にありがとうございました。メチャクチャ楽しかった。

あと、【THE FARM】という施設自体が、そもそも良かった。ウォシュレット完備の清潔なトイレが24時間使えるし、(寒すぎて飲む気が起こらなかったものの)遅くまで開いてる売店では各種ビールなどが売っていたらしい。スタッフの皆さんは好印象で、温泉は最高だった。今回は虫がいないメリットと引き換えに防寒装備が爆増してしまったので、ほかの季節にも是非来てみたいな〜と思った。自前でキャンプグッズをしっかり揃えて…なんてことは全然考えていないけど、この手のお気軽プランならまたやりたい。


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700mlも持っていったメーカーズマークは、きっと半分も減ってない状態で持って帰るんだろうな~と思っていたが、まさか一夜でここまで減るとは。ロシア人がウォッカを飲む原理が肌で理解できてしまったところがある。

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