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M13 FREESTYLE 【飯塚浩一郎】


ーーこれまでZENON過去3回の公演全て振り付けをしていただいていますが、改めて今回も引き受けていただいた理由を教えてください。

20年ほどダンスを続けている中で、「踊りたい」と思いつつも、社会人になってダンスから離れてしまう同期や仲間たちを沢山見てきました。
様々な事情はあるものの、「踊りたいのに踊れない」というのはすごくもったいないことだと思っています。僕自身、10年以上サラリーマンをしながらダンスをしてきましたし、w+i&sのOBOGイベント”アダルベ”を僕らの代から開催したり、総指揮を務めていた関東ダンス連盟公演の社会人イベントを企画していたときもありました。

20代の頃は僕も仕事を午前3時ぐらいに終わらせてそのまま深夜練習して、また朝から働く、というような生活をしていました。だから、ZENONにいる後輩は若い頃の自分の姿を見るようで、ダンスへの気持ちも実際両立することの大変さも痛いほど分かるし、応援したいと思っています。

僕はダンスは好きだけど最初はそれが仕事になるとは思っていませんでした。今もDAZZLEで活動できているのも、基本的には自分のためではなく「お客様のために」踊っています。
一緒に踊ってくれている人がいて、自分のダンスを見たいと思ってくれている人がいる、という環境があってこそ続けてこれたのだと思います。

ZENONはまさにそんな「環境」を提供する場所だと思いますし、「社会人になっても踊りたい」という意思があるZENONの後輩たちに協力できたら、という思いで携わっています。


ーーZENON以外にも、同じ想いを持った社会人団体の振付のお話しがあった場合も引き受けられますか?

それはやらないですね。物理的にできないというのもありますが。少なくとも僕は、慶應の後輩だから、ZENONだからやっています。先輩からしていただいたことを、後輩たちにより大きくして返す、というのが自分の義務だと感じています。
現役当時はw+i&sだけでなく、SFCの学園祭実行委員長も務めていたので、慶應の先輩からは返しきれないほど大きなものを受け取ってきました。それを少しでも大きくして返したいという気持ちです。

そういう関係が慶應のいいところだと思いますし、個人的には、そういう思いを持った人がもっと増えていったらいいなと思いますね。


ーー「浩一郎さんにとって ZENONとは?」と聞かれたらなんとお答えになりますか?

「慶應の人間的なつながり」が大きいと思っています。
それをどこまで大切にとらえるか、は人によって異なりますが、僕はすごく大切にしたいと思っています。僕も先輩から後輩に繋がる大きな流れの中の一人であって、自分の行動自体が、その人間的つながりの価値を大きくも小さくもすると思っています。

年を重ねて思うのは、同じ経験をしたとしても、人によって得られるものは意識次第で大きく変わるということです。この公演に参加することで、ダンサーとして、人間として何を得るかというのも、人によって違うと思っています。

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ーー今回の公演では、社会人でもダンスに打ち込む私たちの実生活に近い視点で「人生を豊かにする無駄遣い」というテーマが絡めていますが、浩一郎さんにとってダンスはそれに当てはまりますか?

ダンス自体は、踊ることも見ることも、生きる上で必ずしも必要ではないと思っています。
ただ一方で、発展途上国のように日々の生活だけで精一杯という世界においては、アートやエンターテイメントがあるだけで、豊かさになりますよね。

必要ではないことをするというのは「無駄」という一面もありますが、必要のないことに打ち込めるという時点でそれが人生にとっての豊かさだと思います。

ZENONのように仕事以外で出会うさまざまな世代の人たちと何か1つのものを作る、というのはとても意義深いことだと思いますね。
仕事での繋がりとなると、どうしても利害関係から抜け出せないところもあったりすると思うので。

今回を含めて四回振り付けしてきた中で出会ってきた後輩たちとの関係は公演以外のところでも大事にしたいと思っています。


ーー振付師の皆さん、一般的にはご自身の「曲」と呼ばれることが多いですが、浩一郎さんのお話しを伺っているとご自身の「作品」と呼ばれているのが印象的です。

僕にとっては踊りは手段です。「お客様に伝えたいこと」をダンスや演出を通してどうやって届けるか、心を動かすかが使命だと思っています。作品全体の目的を考えて、踊るべきときに踊り、道具を動かすべきときに動かす、といったような感覚で、作っています。
ZENONの場合はそこにさらに出てくれたダンサーがが満足できるかというのも考えますが、一番大きいのはお客様の心が動かせるかということですね。究極的には、自分たちが楽しくてもお客様が感動できなければ失敗だし、自分たちが苦しくてもお客様が感動できれば成功だと思っています。


ーー今後、浩一郎さんがZENONやダンスを通じて、挑戦したいことはありますか。

ダンサーが自分のダンスで、表現で、ちゃんとした対価をもらえる形を作りたいですね。
国や企業やメディア、別のアーティストに依存する形ではなく。DAZZLEとしても海外公演を重ねてきましたが、日本にはまだ世界の誰もが知っている作品、というのはないと思うので、世界から「あの作品があるから日本に見に行こう」と言われるぐらいの作品を作りたいと思います。