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「公平・中立・簡素」、スミス、ワグナー、マスグレイブ・・・様々な租税原則

 国も地方自治体も勝手気ままに取っているように見える税金ですが、一応、「税金というものはかくあるべき」という理念があります。財政学ではこれを「租税原則」と言います。現状の税制が「租税原則」を満たしているかというと、ものすごく疑問符がつくのですが、大きな税制改革の検討が行われるたびに「租税原則」から見てどうかという議論は行われています。
 ”取る”側の理屈をざっと並べてみますので、頭の片隅に入れておいておきましょう。

1 「公平・中立・簡素」

 現代租税原則として財政学の授業で最初に教わるのが「公平・中立・簡素」です。

 ア 公平
  様々な状況にある人々が国家の費用を公平に分かち合うという意味で、水平的公平と垂直的公平とがあります。(近年では世代間の公平も)
  A 水平的公平
    状況が同じなら同じ税額を負担していること
  B 垂直的公平
    状況が違うなら異なる税額を負担していること
 イ 中立(効率)
  税制ができるだけ個人や企業の経済活動における選択を歪めることがないようにするという意味です。A市に泊まりたいが宿泊税がきついので隣のB市に泊まることにしたというのは、税金によって選択が歪められた例です。
 ウ 簡素
  税制の仕組みをできるだけ簡素なものとし、納税者が理解しやすいものとするという意味です。簡素なことは納税者の”納税協力費”と徴税側の”徴税費用”の最小化にもつながります。

 一般的にこの3つの原則をすべて同時に満たすのは難しいとされています。例えば、簡素な税制にしようと思えば、状況の違いに”精密に”応じた公平な課税は難しくなるとされます。
 現代租税原則は、様々な経済(財政)学者が唱えた租税原則を集約したものとされています。以下、代表的な学者の租税原則を見ていきます。

2 代表的な学者による租税原則

・アダムスミス

・ワーグナー

・マスグレイブ

この表では7条件となっていますが、財政学の教科書では「十分性」を除いて6条件とすることも多いです

 大雑把に言って、スミスは納税する側にとって望ましい租税原則、ワーグナーは課税する側にとって望ましい租税原則、マスグレイブはリベラルケインジアンにとって望ましい租税原則と考えればよいと思います。

3 公平とは?(応益課税と応能課税)

 公平な課税と一口で言ってもどのような観点から”公平”なのか、という問題が生じます。財政学では”利益”と”能力”の2つの観点を提示します。
 ア 利益説
  政府が供給する公共財の利益に応じて課税されるべきという考え方です。利益に応じた課税ということで「応益課税」と言われます。アダムスミスの”公平の原則”は利益説に近いものになります。課税方式としては定額課税や比例課税と親和性が高い考え方です。
 イ 能力説
  公共財の利益とは無関係に個人の支払能力に応じて課税されるべきという考え方です。能力に応じた課税ということで「応能課税」と言われます。ワーグナーの”公正の原則”に近いものです。課税方式としては比例課税や累進課税と親和的です。
 現実の税制では、どの国においてもどちらか一方の考え方が適用されることはまずなく、混合して用いられています。日本の財政学会では「国税は応能課税、地方税は応益課税を中心とする」という考え方が超主流で、実際の制度設計でも例えば所得税(国税)は累進課税で住民税(地方税)は比例課税(定率課税)になっています。

4 地方税原則 

 日本のローカルルール?として、地方税原則があります。(英語文献では相当する用語が見つからないそうです)主として次の5つになります。

負担分任の原則 → 住民税均等割・森林税等の定額税(これには批判もある)
応益原則 → 定額税と住民税・固定資産税等の比例税

5 やっぱり異質な「森林環境税(国税)」

 適当にやっているように見えても、国税は所得税・相続税・贈与税が累進税、その他は比例税(完全比例でないものも含む)となっていて、応能課税中心という考え方に沿ったものになっています。しかし、最も特徴的な地方税原則である負担分任の原則に沿った”定額税”という形態をとっているのが”森林環境税(国税)”です。
 増税に血道をあげるあまり、自分たちがこれまで寄ってきた租税原則すら無視してしまっているのが、現在の日本政府(主に総務省、財務省)なのです。

※租税原則の観点から森林環境税を論じている動画を探しましたが、高橋さんのものくらいでした。