見出し画像

初めて一目惚れしたのは現役アイドルでした 15話

次の日、朝早くに乃木坂公式Twitterからさくらの活動休止が発表された。

SNSでは瞬く間にトレンド1位になり、ファンの人から悲しみの声が多く寄せられた。

想像以上の大反響。

これを受けて俺の元にもいくつか連絡が入った。

橋本:「今朝ニュース見たよ。さくらちゃんに何があったの?」

○○:「さくらと遥香が喧嘩してて...さくらがかなり精神的にキテる感じです...。」

橋本:「ひょっとして○○くんのせいじゃないよね?」

○○:「完全に俺のせいです...。」

橋本:「はぁ...まったく...。君って本当にダメだね。」

○○:「すみません...。」

橋本:「とにかく○○くんはさくらちゃんの側にいてあげな。早く立ち直れるように協力してあげなさい。」

○○:「もちろんです。ありがとうございます。」

橋本:「また何かあったら連絡してね。」

橋本さんは心配してわざわざ電話をかけてくれた。

グループの外だと、俺とさくらの関係を知る唯一の人間。

こうして距離が離れてても真っ先に頼ってしまう。

姉さんからはメールが来た。

深川:「○○見た!?さくらちゃん、活動休止だって!」

○○:「あぁ見たよ。」

深川:「心配だね...。早く戻って来れるといいけど...。」

○○:「そうだね。」

深川:「私にはなんにも情報入ってきてないから不安だよ。」

○○:「姉さんもなにも知らないんだ?」

深川:「うん、残念ながら。」

姉さんは俺がさくらのファンだと思っているから、定期的にさくらに関する連絡が来る。

出演する番組だったり、載る予定の雑誌だったりを早めに教えてくれるのだ。

今日もその一環で、親切心で連絡してきただけだろう。

衛藤さんからも世間話かのような短めのメッセージが届いた。

さくらの活動休止は、多くの人に衝撃を与えたに違いない。

遠藤:ねぇ○○さん、これどこ向かってるの?

○○:着くまで内緒!

遠藤:なんだろ...気になるなぁ。

俺はさくらを元気づけるために、車を出して遠出することにした。

○○:さくら、お腹空いてる?

遠藤:普通くらいだよ。

○○:みんながいっぱい用意してくれてると思うから、今日はがっつり食べようね。

遠藤:みんなって?

○○:はい、そろそろ着くよ!

遠藤:え?ここですか?

まもなく目的地が見えてきた。

遠藤:山...ですけど...。

○○:うん。そうだよ。

俺はニヤリと笑って適当に車をつけた。

前方にはすでに大きめのテントが張られている。

遠藤:これってもしかして...。

○○:キャンプだよ!

遠藤:わぁ...ありがとうございます!

○○:もうみんなもいるみたいだね。

俺はさくらと一緒に車を降りて、テントまで移動した。

○○:お待たせ田村さん。朝早くからありがとう。

田村:○○さん!おはよう!

遠藤:まゆたん...!?

田村:みんなー!さくちゃんが来たよー!

田村さんの声に、調理場で作業をしていた3人が反応する。

矢久保:あ、さくちゃーん!

筒井:おはよー!

北川:おはようさくちゃん。

遠藤:どうしてみんなが...?

さくらは混乱して訳がわからないと言った様子だ。

○○:さくらを元気にしてあげたいと思って田村さん達に声をかけたんだ。

田村:○○さん突然だから困っちゃったよ。たまたま仕事なかったから良かったけどさ。

○○:ごめんごめん...。

田村:私たちはずっとさくちゃんの側にいるからね!

遠藤:ありがとう...。

矢久保:さくちゃーん!こっち来て手伝ってー!

遠藤:あ、はーい!

さくらは早速友達に呼ばれて水道の方へ行ってしまった。

○○:良かった...。喜んでくれたみたい...。

田村:だね。

○○:田村さん、あの2人は?

田村:あっちの小さい子が矢久保美緒ちゃん。誰よりもさくちゃんのことが好きなんだよ。

○○:へぇ。

田村:ぼーっとしてるとみおちゃんに取られるかもね。

○○:それは困る...!

田村:その隣に立ってるのが北川悠理ちゃんだよ。なんて言うんだろう...ちょっと不思議ちゃんかな?

○○:ふぅん...ありがとう。

田村:2人とも○○さんのことは知ってるから安心して。

○○:助かるよ。

さすが田村さん、しっかりしている。

4期の中でも年上のメンバーだというし、俺自身もかなり信頼している友人だ。

○○:その...無茶言ってごめん。

田村:大丈夫大丈夫。さくちゃんのためならなんでもするって!

○○:そっか...良い関係だな。

田村:うん。私もそう思う。

○○:さくらは誰と1番仲良いの?あの矢久保ちゃん?

俺は仲睦まじく会話している2人を指さす。

矢久保ちゃんがしきりにさくらに話しかけているようだ。

田村:うーん...みおちゃんもそうだけど...。1番はやっぱりかっきーなんじゃないかな?

○○:そうなんだ...。

田村:2人はデビューからずーっと一緒だもん。

今から3年ほど前の24枚目シングル、さくらが初めてセンターに立ったことは以前調べた。

その時隣に立っていた1人が遥香だったという。

田村:ほら...私たちは違うけどあの2人はずっとエリートだから...。

○○:なるほど...。

筒井:ちょっと2人とも?いつまでおしゃべりしてるの?

長話が過ぎたようだ。

野菜を切っている筒井さんがこちらを鋭い目で睨んだ。

片手に握られた包丁が物騒だ。

筒井:早く来て手伝ってよー。

○○:あ、悪い!

田村:ごめーん!今行く!

筒井さんに呼ばれた俺たちは急いでみんなの元へ走った。

ーーーーーーーーーーーー

準備があらかた終わり、そろそろ空腹も限界な時間になってきた。

田村:さ、お肉焼くよ〜!○○さんよろしく!

○○:え、俺1人!?

筒井:男の人だからね。

矢久保:頑張って頑張って♪

○○:しゃあねぇなぁ...。

今日は田村さんが気を利かせてバーベキューのコンロまで持ってきてくれた。

キャンプと言ったらやっぱりバーベキューだよな!

北川:みんなー。カレー出来たよー。

矢久保:嘘!はや!

北川:ゆりがよそうねー。

田村:ありがとうゆりちゃん。

みんながガーッとカレーの方に行ってしまう。

○○:ちょっと肉は...?

しかし、俺の呼びかけも虚しく北川さんを中心にみんなでカレーを食べ始めてしまった。

○○:全然聞いてねぇし...。

遠藤:その端っこのお肉もういいんじゃない?

○○:さくら!

1人で肉を焼いていると、さくらが横からひょっこりとやってきた。

遠藤:1人で寂しそうだったから手伝うよ。

○○:ありがとう。嬉しいよ。

遠藤:美味しそうだね〜。

○○:な!めっちゃ美味そう!

遠藤:あ、このおっきいの○○さんにあげる。

さくらがお箸で摘んだお肉を俺の口元に持ってきた。

遠藤:はい、あーん...

さくらは躊躇なくあーんをしてきた。

チラリとみんなの方を見ると、全員ニヤニヤしてこちらを見ていた。

遠藤:どうしたの?食べないの?

○○:あ...じゃあいただきます...。

大きめの肉を一口でパクリと頬張る。

途端にみんなが俺たちをいじるような声を上げた。

田村:も〜!イチャイチャしちゃって〜!

遠藤:あれ...見られてたんだ...。

○○:気づいてなかったの!?

遠藤:えへへ...恥ずかしいね。

矢久保:照れてるさくちゃんも可愛い〜!

みんなの声にさくらは恥ずかしそうに顔を赤らめた。

○○:さくらって大胆な割にすぐ照れるよな。

遠藤:...○○さんも顔赤いよ?

○○:えっ...いや...それはコンロが熱いから...。

遠藤:可愛いですね、○○さん。

○○:ちょ...なに言って...。

遠藤:私今すっごい楽しい!連れてきてくれてありがとう!

○○:あ、うん...。

さくらのペースに飲まれがちだけど、楽しんでくれてるなら何よりだ。

遠藤:みんな集合!そろそろ焼けるよ!

全員:はーい!

さくらと俺で皿に肉や野菜を盛る。

田村:わぁ良い匂い!

筒井:美味しそうだねー。

矢久保:私さくちゃんが焼いてくれたお肉がいい!

北川:あ、ゆりは○○さんのでもいいです。

○○:はいはい。まだまだあるからどんどん食べよう!

その後も楽しくキャンプは続き、お腹いっぱいご飯を食べた後はまったり時間を過ごした。

矢久保:たまにはこういう休日もいいよねー。

田村:分かる!のどかな1日って感じ!

北川:みて。ちょうちょだよー。

筒井:すごーいゆりちゃん。捕まえれるんだ。

矢久保:そうだ!ラケット持ってきたからバドミントンしない?

筒井:いいね!やりたい!

田村:ラケット何個ある?

矢久保:4つ!

北川:ならゆりもやるー。

野原で楽しそうに遊んでいる4人を、俺とさくらは遠くから眺めていた。

○○:さくら、マシュマロ焼こうぜ。

遠藤:マシュマロ食べたーい!

2人でコンロに立ち串にさしたマシュマロをまわす。

○○:どう?楽しんでる?

遠藤:うん!最高だよ!

○○:さくらが喜んでくれて俺も嬉しいよ。

遠藤:みんなも来てくれて本当によかった!

○○:4人ともいい友達だね。

遠藤:うん。みんなすごく優しいんだよ。

○○:さくらのことを心配してくれてるんだなっていうのが分かるよ。

遠藤:でもね、ほんとは4人だけじゃなくて4期生全員いい子達なんだ。

○○:うん...。

遠藤:今度来る時は、16人全員がいいなぁ。

さくらは4人が遊ぶ姿を見ながらしみじみと言った。

なんてできた子なんだろう。

1番の仲間思いは、きっとさくらに違いない。

○○:きっとすぐ行けるよ。

遠藤:うん。ありがとう○○さん。

○○:お、マシュマロいい感じじゃん?

遠藤:ほんとだ!食べよ食べよ!

2人同時にアツアツのマシュマロをかじる。

遠藤:美味し〜!

○○:な!甘くていい感じ!

遠藤:あっちにチョコとクラッカーがあったから今度はスモアにしようよ!

○○:いいね。やりたい!

田村:あ、勝手にマシュマロ食べてる!

バドミントンをしていた田村さんがこちらの様子に気づいたみたいだ。

その瞬間に4人とも急いで走ってくる。

筒井:も〜○○さん!みんなで食べようって話してたじゃないですか!

○○:わり...忘れてたわ...。

矢久保:それ私が買ってきたマシュマロなのに!

北川:ゆりもスモア食べたいな。

遠藤:じゃあみんなで食べようよ!

全員:うん!

さくらはみんなと仲良くマシュマロを焼き始めた。

心から楽しんでいる表情をしている。

今日はさくらをキャンプに連れてきて本当によかった。

自分がしてあげられることを、これからも一つずつ積み重ねていこう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?