わたしが見た建設業「元女優から見た建設業」
人材育成コンサルタント Officeアイム代表
スマイル幸師 森川 あやこ
建設業の研修や講習会に関わらせていただくようになり、12年になります。
映画やTV等のマスコミでの現場経験とその後の様々な経歴を経て現在の道にたどり着いた私なのですが、初めて建設業界での講習を担当した日のことは今でも鮮明に記憶に残っています。当時、私を含め建設業に携わったことのない人達の多くの先入観やイメージは建設業=力仕事、汗、怒鳴り声が聞こえてくる厳しい現場。腕組をした難しく怖い顔をした男性達が集まっている、という印象であったのではないかと思います。
その日担当させていただいた仕事は広島県での「安全大会」での講習だったのですが私の思い描いたイメージ通りの見た目をした作業服と安全靴に身を包み、日焼けした肌の中高年世代の男性達が200人ほど勢ぞろい。ところが全員、真面目に熱心に講習会にも参加されている誠実な印象。壁には緑十字旗が掲げられ「安全第一」とポスターが貼られ、スローガンを全員で声を合わせ唱和する。「ご安全に!」という太く響く大きな声が会場中をこだました。最初は自分自身がこの場にいることに失礼ながらもなんだか場違いな印象を描き不思議な気持ちになりましたが対応してくださった建設会社の方
が非常に丁寧で優しい方でこの日の会の開かれている目的や意味をわかりやすく教えてくださり業界のごく一部ではありますがとても大切にされている内容について知ることになりました。
建設業界は全産業の中でも作業内容柄、労働災害が起きやすいのだということ。
安全第一、安全は何より最優先されるという考え方であるということ。
人命より尊いものは他にはない。
お互いの命と健康を大切にしよう!
そのため、ゼロ災害を祈り、全員で一同に会し、意識を統一し、現場での無事故、無災害への取り組みを行うために集う大切な会なのであるとのお話をお聴きしました。
私はこれまでに見たことのない景色に出会い驚いたのと同時に、このような取り組みが全国の建設業界で毎年行われていることに深い感動を覚えました。
私の建設業界との出会いはこの日、この瞬間、たまたま依頼され招かれ伺った1本の講演=幸せな縁からのスタートだったのです。
この日、建設業界の取り組みや考え方に強く感銘を受けた私は、そこから建設業界に深く関心をもつようになりました。
街中で工事中の現場を見つけるとそこで働いている人たちが実際にどのように作業しているのかを観察してみる。見つけてみよう、探してみようとしてみると建設業界で働く皆さんは日本中のあちこちの街で大活躍をされていました。
さらに建設関係の資料や新聞、書物を読み、業界に関しても興味を抱いて調べるようにもなりました。
実際に働いている方にも多数、直接お会いして、詳しくお仕事でのご苦労やこだわりや喜び等に関してもインタビューさせていただきました。
建設業界で働く方たちと接していく中で私が業界を知る前に思い込んでいたイメージは次第に大きく変わっていきました。
「難しい怖い顔をした男性達」という勝手に私自身が抱いていたイメージは、実際には「プロとしての仕事にこだわりのある魅力的な顔」ばかりであり、彼らと話してみると明るく楽しく情に厚く懐も深く優しい、ざっくばらんで楽しい人ばかり。
「厳しく見える顔=緊張感ある現場に従事することが長くなり、表情が険しくなってしまっただけの職業習慣から成り立つプロの顔」だったのだ!と、皆さんの顔や表情は「求められる役割や役柄にあった顔や表情・外見」であることを読み解き発見できたことにとても嬉しくなりました。
気づけば私は建設業界で働く人たち、建設業界に関わる人達の大ファンになってしまったのです。
また、建設業界は「常に現場が異なり、関わる会社や職人も多数。」「状況に合わせ変更も生じる」「自然を相手に屋外作業も高所作業も含まれる労働環境」であることから高い技術力や技能力の他に人間力やコミュニケーション力がプラスして求められる特性があることもわかりました。日本や地域の未来に関わる土台の業界であり、こんなに価値のある尊い仕事は他にはないのでは?もっと多くの方にこの業界の魅力を知ってほしいな、ここで活躍
し働きたいと思う人が増えたら素敵だなとも思いました。
現在、建設業界の人材育成の現場にも関わらせていただいておりますが、こういった経緯で建設業界の魅力に深く強く惹かれハマってしまったからなのであるとも言えます。
私が関わった映画の現場も監督に助監督、俳優に撮影をするカメラマンに俳優にライトを当てる技術職人のプロである照明さんや、大道具、小道具、メイクさん、正確にシーンとシーンのつなぎを記録する記録係等、それぞれの専門家が専門技術を持ち寄る、スペシャリストの集団が集まって一つの映画やドラマといった作品作りに携わり、情報を共有しながら行程に添って連携しながら行っていました。お互いを認め合い、リスペクトし、協力し働きあう、コミュニケーションとチームワークが求められる現場。映画の世界も作品が完成するごとにかけがえのない大きな感動と喜びがありました。
建設業の現場も電気工事に配管工、塗装職人、内装職人、型枠大工、鉄筋工、土工事…各工程の専門職が集まってバトンタッチをしながら工事が進む、一つの工程で不備があると次の工程に影響するため大きな責任感を持って個々にプロとして仕事をする。一つのプロジェクトを終えると建物が完成した達成感や仕事を任されるやりがいもある。
このように二つの現場には共通する点がたくさんあったことも建設業界に大きな魅力を感じ心惹かれることに繋がったきっかけなのかもしれません。
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私が惹かれ、魅力を感じ共にこの業界と共に歩みを進めてきた12年の中で少しずつですが景色も変わり、建設業界で働く女性の数も増えてきました。業界の広報の在り方も親しみやすく若年層の多くの人の目にもとまりやすく変化したようにも思います。
また、業界の人材育成のシステムも昨今の学校教育環境に合わせ変化し、「背中を見て盗め、察しろ」といった従来の教育方法も改められて働き
やすい職場環境、現場環境に変わりつつあります。時代の変化とともにあわせ柔軟に対応し未来へと歩みを進めていく建設業界。
これからもこの業界の未来への道をファンの1人として見守り続けていくことがとても楽しみです。
[全建ジャーナル2023.8月号掲載]
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