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わが街の歴史的建造物[第4回]北海道庁旧本庁舎(赤れんが庁舎)

北海道建設部建築局建築整備課 課長補佐 佐藤 信也

○施設概要

所在地:北海道札幌市中央区北3条西6丁目1番地
構造:煉瓦造 地下1階地上2階建    
建築面積:1,654.4㎡ 延床面積5,004.32㎡
重要文化財(建造物)指定年月日:1969年(昭和44年)3月12日

○赤れんが庁舎のあゆみ

 赤れんが庁舎は、北海道庁が置かれた1886年(明治19年)にその本庁舎本館として建設され、1888年(明治21年)に竣工しました。屋根中央部にある八角塔の頂部までの高さは約33m、現在の10階建のビルの高さに相当する威容を誇っています。明治中期における煉瓦造洋風建築としてはかなり大きな規模のものであり、現存する数少ない遺構の一つとして重要な意義を持っています。
 設計は土木技師であった平井晴二郎を中心とする北海道庁土木課によるものであり、日本人の設計による洋風建築としては国内でも初期の事例で、特に規模の大きな煉瓦造の洋風建築の現存遺構としてはほぼ最古のものといえます。
 赤れんが庁舎の特徴の一つである中央八角塔ですが、「設計にはなかったものを増築したが構造不備でその重量に堪えず各部に狂を生じ取り払った」「風でゆれ動いたため撤去した」との記録にあるように、急遽設置されたものの、創建から間もなく撤去されました。

明治21年創建
明治42年全焼
明治44年火災復旧後
昭和43年復原改修

 その後、1909年(明治42年)の全焼火災に伴う1911年(明治44年)の復旧工事においても中央八角塔の復原はなされませんでしたが、1968年(昭和43年)の復原改修工事において「外観は創建時にできる限り近いものとする」こととし、創建時の外観に復原されました。

○約50年ぶりの大改修

 赤れんが庁舎は、1888年の創建以降、幾度の改修工事を経て現在に至りますが、建物内部・外部ともに劣化が進んでいることから、2012年(平成24年)から各種調査、計画策定や設計などを行い、保存修理や耐震補強を進める工事を2025年(令和7年)の完成を目指して進めているところです。
 今回の改修工事は、保存修理工事、耐震補強工事、公開活用工事、仮設工事の四つに分類することができます。
 保存修理工事として、外部では、屋根の天然スレート及び銅板の葺き替えを行っています。

葺き替え中の屋根
天然スレート

 現在の赤れんが庁舎に使用されている天然スレートは、宮城県石巻市雄勝町産のものが使用されていましたが、東日本大震災の影響により一時は生産停止となり、設計時は入手困難の状況であったため、大半が外国産を使用する計画としていました。しかし、雄勝産天然スレートは貴重な国産の材料であり、生産を復興する動きが出てきたことから、伝統技術の継承という点も踏まえ、できるだけ多く使用することとしました。
 また銅板は八角塔の屋根や谷部、棟部に葺かれており、葺き替えによりこれまでの緑青色から赤褐色に変わります。今後、十数年かけて緑青色に変化していくこととなります。
 内部では、明治の火災復旧工事で取り付けられた天井仕上材で、一階と二階に使用されている金属の板をプレス成型したメタルシーリングの修理を行いました。メタルシーリングは、複数のパーツの組み合わせで成り立っており、赤れんが庁舎では約四千枚が使用されていますが、1911年の火災復旧時に取り付けられてから100年以上経過しているため、経年の雨漏りや結露から生じる発錆など劣化が見られるものは新しい材料に取替を行いました。

メタルシーリング

 次に耐震補強工事では、赤れんが庁舎に与える影響を最小限に抑え、創建当時の意匠性を保持し、文化財的価値の保護に最大限配慮するとともに、将来的なリニューアル等の更新性を考慮して、煉瓦壁内に挿入した鉄筋で壁を締め付けて補強するプレストレス補強工法を採用しています。プレストレスの導入は煉瓦壁の内部に頂部から基礎まで貫く縦孔を掘り、基礎部に埋め込むPC鋼棒の抵抗力を高めるため、拡底削孔部を形成し、高強度モルタルを注入後、PC鋼棒を挿入します。高強度モルタルが硬化したのを確認した後、煉瓦壁上部から所定の緊張力を導入することで、煉瓦壁の耐震性を向上させるものです。
 次に公開活用工事では、赤れんが庁舎の文化財としての価値を保存し、歴史文化・観光情報の発信拠点として活用するため、老朽化した設備機器を高効率設備に更新することによって、重要文化財として各種の制約があるものの省エネ化を図ることとしています。また、工事完成後においても、観光名所として数多くの観光客が訪れることが予想されることから、重要文化財としての文化財的価値の保存・承継の両立を踏まえた、障がいのある方、高齢者を含むすべての方が、より快適に親しむことのできる環境づくりのためのバリアフリー化の充実を図ることとしています。
 仮設工事では、赤れんが庁舎全体を素屋根と呼ばれる仮設の屋根で覆うとともに、素屋根の外壁には赤れんが庁舎の外観写真を印刷した転写シートを設けました。

素屋根

 また、工事期間中においても、道民をはじめ多くの観光客に対応するため仮設の見学施設を設置し、改修工事内容や歴史の紹介のほか、素屋根の高さを抑えることなどを目的として移設した八角塔の屋根を展示し、改修工事期間中ならではの経験ができるようにしました。仮設見学施設は2023年(令和5年)5月から公開を開始し、2024年(令和6年)5月12日の公開終了までに約14万5千人の方に見学していただきました。

仮設見学施設
仮設見学施設内部
八角塔屋根の展示

○新たに判明した遺構

 今回の改修工事で実施した解体調査の結果、これまで確認されていなかった新たな遺構が見つかっていますのでいくつか紹介します。
 一つ目は、階段を塞いだ跡です。創建当時の新聞報道などでは、「長官房の正面廊下」「中央階段の南隣」に小屋裏への階段が存在したとの記録が残っていますが、1968年の復原改修工事では、その位置を特定できず、新たに螺旋階段を設けました。今回の改修工事において中央階段南側を調査したところ、明らかに煉瓦の種類、積み方が異なる煉瓦壁が見つかりました。上部の換気塔位置がこの部分だけずれていることから、創建当時にはこの位置に八角塔に登る階段があったと想定されます。

中央階段南側の壁

階段を塞いだ跡と思われる部分

 二つ目は、地下1階の床下から見つかった遺構です。創建時の整地状況や基礎コンクリート打設用の溝、創建時から火災前までの間に構築された煉瓦構造物の一部が残されていたほか、火災による堆積物などが検出され、創建時の地業や1909年の火災後の状況を示すものとなっています。

地下床下で検出された遺構

 三つ目は、壁に貼られた新聞紙です。1944年(昭和19年)6月9日、6月14日、7月5日、9月18日付けの紙面が貼られていましたが、この時期に改修を行った記録はなく施工時期は不明ですが、漆喰壁の施工にあたり、寒冷紗の代用として使われたものと考えられます。

壁に貼られていた新聞紙

 この他にも今回の改修工事では、これまで確認されていなかった新たな遺構が見つかっています。

○さいごに

 赤れんが庁舎は、建築史的な価値のみならず、北海道行政の中枢として機能してきた「歴史的価値」、札幌の幹線道路の象徴的なアイストップとして北海道民に親しまれてきた「景観的価値」、北海道民はもとより道外、海外からの観光客が集う「社会的・経済的価値」など、多様な価値を持つ北海道を代表する歴史的建造物です。この価値を後世に継承していくために、良好な状態に保存して広く公開し、国内外に向けた歴史文化・観光情報発信拠点として利活用を図っていきます。
 現在は工事中のためご覧いただくことはできませんが、2025年(令和7年)7月にリニューアルオープンの予定ですので、その時には是非お越しいただき、改修後の赤れんが庁舎をご覧いただけると幸いに存じます。
 また、改修工事の進捗などについては当課のホームページでご覧いただけます。改修工事前から現在までの庁舎内部が見られる現場内の360°画像も公開しておりますので、併せてご覧ください。

【北海道建設部建築局建築整備課HP】
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/kn/ksb/akarenga.html

【現場内360°画像】
https://app.holobuilder.com/app/?m=player&p=d74fca4b-7d61-412b-a559-5ebd520d5d9a&s=1652071825580&d=2i50

[全建ジャーナル2024.9月号掲載]

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