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「いまの仕事の進め方、正しいですか? それとも間違っていますか?」(第10回)

土木技術者 大友 靖浩

 ChatGPTは現在大変話題となっていますが、すでにお使いになっていますか?
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 このサービスは、先進的な人工知能AI 技術を採用しており、人間のような自然な会話ができるAI チャットツールとして注目されています。無料で利用が可能なことから多くの人々から関心を引き付けています。リリースからわずか2か月でユーザー数が1億人を突破しました。ネットニュースや雑誌、テレビなどの多くのメディアで取り上げられており、ChatGPTの名前を知らない人は少ないでしょう。
 人工知能AI の歴史を簡単に振り返ると、1956年にアメリカの計算機学者たちは「人間の脳に近い機能を持つコンピュータープログラム」としてAI の概念を初めて定義しました。
 最初のAI ブームは、1960年代。アメリカやイギリスでゲームのAI、例えば迷路やチェスのAIが開発されましたが、まだ全ての問題を解決する段階には至らず、一時的な停滞期を迎えました。
 第2次のブームは、1980年代に訪れました。この時期にはコンピューターに知能を組み込む試みや、問題解決に関する研究が活発に行われました。しかし、コンピューターが自ら新しい知識を蓄積するのは難しく、人間が直接知識を入力する方式が主流でした。
 そして、第3次のブームは、2000年から続いています。この期間にはAI がインターネット上の情報を自動で学習する技術が実用化され、パソコンやスマートフォンの普及とともに我々の日常生活に深く浸透してきました。
 現在、人工知能はデータを効率的に分析し、未来の事象をトレンド予測する能力を持っています。売上や利益の予測、ユーザーの行動履歴に基づくコンテンツの推薦など、日常の多くの場面でその能力が活用されています。

 ChatGPTについて話を進めると、今年の3月に「GPT-4」がリリースされ、その性能は前のバージョンと比べて大幅に向上しました。現在、「GPT-4」の利用には有料プランが必要で月額20ドルの料金が発生します。一方で、「GPT-3.5」は引き続き無料での利用が可能です。
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 「GPT-3.5」と「GPT-4」の主な違いについて詳しく見ていきましょう。
 「GPT-3.5」のパラメーター数は約1.75兆個であり「GPT-4」は約100兆個でとなっています。その数値の差は約57倍にも及びます。一般的にパラメー
ターが多いほどAI の精度は向上し、より論理的で明確な回答が期待できます。実際に、「GPT-4」はアメリカの司法試験で上位10%の成績を記録し、「かなり賢い大学生のレベル」と評されています。対照的に「GPT-3.5」は「頭のいい小学生のレベル」と言われています。
 「GPT-3.5」の処理能力は約5,000文字までですが、「GPT-4」は約25,000文字までテキストを処理できます。この能力の向上により、長文の分析や添削が容易になっています。文書を添削や校正、要約など、ChatGPTの活躍範囲は確実に広がっています。

 私たちの仕事や日常の作業を効率化する方法は数多く存在しますが、ChatGPTの活用も一つの有効な選択肢の一つと言えるでしょう。
 例えば、現場事務所にいる際に工事仕様書や指針、法規制から必要な情報を探す時、インターネットで検索することが一般的です。
 即答が必要な場合には、ChatGPTに質問することで迅速に回答を得ることができます。
 例として「廃棄物を現場で保管するのに保管基準を国の法律で教えてください」と質問すれば、詳細な情報が提供されます。(画像は例文の質問に対しての回答)
 さらに「さきほどの回答の中で1.保管場所についてもっと詳しく教えてください」との質問に対しては、地盤との関係、浸水リスク、防火距離、アクセス性など8つの項目で詳細な回答が提供されます。もし理解できない点や疑問があれば、何度でも質問を繰り返すことができ、ChatGPTは適切に答えてくれます。

 ChatGPTは協力会社や取引先へのメール文の起筆もサポートしてくれます。例えば「取引先へ納品日の遅れを丁寧に伝えるメール文を書いてください」というリクエストに応じて、適切なメールテンプレートが提供されることが期待できます。この機能を活用することで文書が得意でない方にも効率的に高品質なコミュニケーションを行うことができます。
 さらにChatGPTは、新しいアイディアや提案の生成にも力を発揮します。例えば「建設業の仕事を地域住民にアピールする方法を提案してください」というリクエストに対しても、具体的で実用的なアイディアや戦略が提示されるでしょう。これにより多岐にわたる業務や課題解決に役立つ情報を得ることが可能です。(画像は例文の質問に対しての回答)

 「さきほどの提案にある「5.地域メディアとの連携」について具体的に方法を提案してください」という質問に対して、地域の新聞やテレビ、ラジオとの連携方法として、特集記事の提案やプレスリリースの発行を提案し
てきます。さらに、SNSやYouTubeを活用した情報発信については、作業員のインタビュー動画の制作や現場のライブストリーミングなどの方法を提案してきます。
 その他の利用方法として、さまざまなタスクに対する見積書の作成をサポートします。
 例えば「20 ㎡の大きさの駐車場の工事見積書」を作成する場合は、以下の手順に従って情報を入力し、詳細な見積りを取得することができます。

 具体的な指示、例えば「生成して下さい」や「設定してください」といった命令を与えることで、見積書の作成をスムーズに進めることができます。計算や詳細の設定などの作業も指示することで、効率的に高品質な見積書を完成させることが可能です。
 現場の作業においては、資材・機材の搬入、労働者の配置、重機械の稼働など多くの要素が複雑に絡み合っています。現場担当者は、これらの要素を総合的に考慮し効率的な作業計画を立てる必要があります。ChatGPTの利用により、これらの要素をデータベースとして分析し、最適な作業計画の策定をサポートすることが期待できます。
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 ChatGPTはそのままでも多彩な活用が可能ですが、さらなる拡張を求める場合、追加モジュールのプラグインが提供されています。これにより最新の情報の取得、旅行やレストランの予約、グラフや画像の表示など、従来のChatGPTでは難しかったタスクも容易に実現できます。
 この拡張性はChatGPTの大きな魅力となっており、多岐なニーズに柔軟に対応する能力を持っています。
 ChatGPTのプラグインを使用することで、従来のChatGPTではアクセスできなかった知識ベース情報を取得することができます。具体的には、特定のプラグインを導入することで企業内のデータベースや個人が所有する電子ノートからの情報取得が可能となり、その情報を基にした詳細な回答を提供することができます。この機能の導入により、ChatGPTは単なる質問応答ツールから超え、個々のユーザーが持つ情報を基にしたカスタマイズされた回
答を出力する能力を持つようになりました。
 例えば、スポーツの試合結果や最新の株価、ニュースなどのリアルタイム情報も取得可能です。
 「GPT- 3.5」や「GPT- 4」のデフォルトモデルは2021 年9 月までの情報を学習していますが、プラグインを活用することで、それ以降の最新の出来事やニュース、データを基にした回答を得ることができます。

 また建設現場の安全管理の観点から、自社で発生したヒヤリハットや労働災害、労働基準監督署が公表する労働災害事例等をデータベースに取り込み、ChatGPTに分析させることができます。この分析を通じて、特定の工事や作業に関する災害の傾向や類似事例を把握することができ、これを基に日々の安全活動を強化することで、現場の安全意識の向上や再発防止策の策定に役立てることが期待されます。
 ChatGPTを活用することで、新入社員や現場作業員への安全教育が効果的に行われます。例えば、危険な状況や安全手順についての質問に、ChatGPTはすぐに正確な回答を提供します。これにより教育の質が向上し作業員の安全意識が高まります。さらに安全基準や法律は時に変わるものです。しかし
ChatGPTのプラグインを使えば、これらの変更をリアルタイムでキャッチし関連するスタッフにすぐに伝えることができます。これにより常に最新の情報に基づいて安全対策を講じることが可能となります。
 また現場からフィードバックや提案を収集しデータベースに保存することで、安全対策の改善点を見つけ出す手助けとなります。
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 最後にChatGPTは常に正確な情報を提供するわけではありません。そのため生成された内容については必ず人間が確認し、必要に応じて修正する事が重要です。入力するテキストには機密情報が含まれないよう注意が必要です。入力した情報が学習データとして取り込まれ、第三者への回答として漏洩するリスクが考えられるので、十分な注意が求められます。
 建設現場では、経験や直感が非常に重要です。データに基づく情報提供は得意ですが、人間の直感や経験に基づく判断はできません。それらを補完するツールとしての使用が最も適していると言えるでしょう。
 また新しい技術を導入する際には、その利用方法や適用範囲についての十分な理解が必要です。建設現場における人工知能の利用は、効率と安全性の向上を目指すとともに現場の実情や課題に合わせた適切な活用が求められます。今後もChatGPTやその他のAI 技術の進化に注視し、新たな手法として取
り入れていくことが重要になると思います。

[全建ジャーナル2023.10月号掲載]

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