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第5章. AI時代に求められる人材

前章でも述べた通り、現在の『AI技術』の研究開発の現場では、人間の脳
をリバースエンジニアリングして、そこから得られた『脳科学』や『神経科
学』の知見と『AI技術』を組み合わせるアプローチが採用されています。

そこで、この章ではAIから少し距離をおいて、私達「人間の脳」のもつ、能力について考えてみたいと思います。

■ 記憶力

まずは「記憶力」についてですが、これについては機械の方が圧倒的に有利
な立場に立つ事は、即座にご理解頂けると思います。

そもそも「試験」で「記憶力」が問われるのは高校生までで、大学での試験
は単純な「記憶能力」を問うものではありません。

そこでは教科書でも、参考書でも、文献資料でも、利用できるものは何でも
参照すれば良い訳で、要するに「設問」を「どの様に理解して」、「どの様
にアプローチして」、「そして解答を導くか」と云う、「問題解決力」が重
要視されます。

では「記憶力」を問う「試験」は無意味かというと、そうでは無くて、やは
り基礎的な知識や常識的な知識は『あるレベル』までは必要とする訳です。問題は、この『あるレベル』のレベル設定である、と考えられます。

比較的最近になって解ってきた事なのですが、人間にもコンピュータと同様
に「短期記憶」と「長期記憶」とが在るらしい。
「短期記憶」は人間の場合「海馬」と呼ばれている比較的古い脳の機能で、
「長期記憶」は「大脳皮質」という新しい脳の機能です。
「短期記憶」から「長期記憶」への記憶の移転には、『睡眠』が重要な役割
を果たしているらしく、近年では『睡眠』の重要性を指摘する研究成果が数
多く散見されます。

「ナポレオンは1日3時間睡眠だった。」
と言われて、短時間睡眠が推奨された、筆者の若い時代の常識は完全に否定された訳です。

いずれにしても、「休む事無く」記憶と学習を続けるAIには、人間は勝て
るものではありません。

■ 論理的思考力-「理系」と「文系」を分ける愚かさ

次に「論理的思考力」について考えてみましょう。

現在の高校教育の現場でも「理系」と「文系」の区分は未だ健在の様です。
これは、一説によると「数学」が得意か否かで分けられているらしい。

筆者自身も、高校在学中には大学の物理学科が志望でしたので、「理系」に
進路をとっておりました。
しかし、1年間の大学浪人時代に「近代経済学」に興味が移り、「文系」に
進路を変えました。
就職の際には、再び進路をエンジニアに変えた訳ですが、今から考えると、
実に「適切な」進路選択をしていた事が理解できます。

当時は「常識はずれ」な選択行動なので、周囲から色々と批判されて「思い
悩んだ」時期もあったのですが、今では「理系/文系」の区分自体を「愚かしい」と考えています。

これは、一般に「数学」の事を「言語の一種」とは考えていない事に起因す
る誤解であると思います。

筆者は高校2年の時に、「数学序説」と云う本を読んだ事で、ヒルベルトの
公理論的論理体系という「体系的な論理の組み立て方」を理解しました。
一般に誤解されている事は、「数学」は「自然現象」を記述する「自然現象
のモデル」だという観念です。

今日では「数学」は「自然現象」のみならず、「社会現象」や「心理現象」
や「情報科学」等々、要するに論理的な厳密性を要求される、あらゆる場面
において、「コミュニケーションの道具」または「概念モデル」として使用
されています。

従って「論理的思考力」をトレーニングする目的で、「数学」を利用する事
は大いに有益なのですが、「数学の公式」を「丸暗記」して「正しい答え」を導き出す勉強をしていても、何ら「論理的思考力」は訓練されない!

ここに気付かないまま「論理的思考」が苦手なので「数学の公式」を「丸暗
記」する人は、結局「文系」の人に区分されるらしい。。。

後に詳しく書きますが、「論理的思考」だけが「思考能力」ではない事実に
留意して頂きたいと思います。
「直観的思考」やパターン認識、アナロジー等、人間の『思考様式』は多彩
である事に、もっと注目するべきだと考えます。

『AI時代』には、科学技術が無視している人間の『思考様式』が一躍脚光
を浴びる時代なのです。

もう一点、第6章で書きますが、「論理的思考」という「ツール」には限界
がある事も、知っておいて頂きたいと思います。

■ 問題解決力

次は「問題解決力」についてですが、実は人間は既に優れた「問題解決力」を持つ動物なのです。

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