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『COVID-19』が教えてくれたこと (第4回)

今回は「免疫学」の「い・ろ・は」について、おさらいしておきましょう。

「免疫」とは、考えてみると大変不思議な言葉です。
「知ってますか?」と聞かれると、日本人のほとんどの人が「知ってます。」と答えるでしょう。

私達日本人にとって、幼い時の「痛い」想いとともに『予防接種』の記憶があるので、「免疫」と云う言葉には馴染みが深いのです。

単に言葉を知っている事だけでなく、新型コロナウイルスへの感染について考えるうえでも、
 ① なぜ日本人の死亡率が比較的に低いのか?
 ② なぜ若年層で発症率が比較的に低いのか?
など、重要な示唆を含んでいると私は考えています。

しかし、「免疫について説明して下さい。」と求められると、多くの人が、ここで「はて?」と考えてしまいます。

「抗原」や「抗体」という言葉までは知っていても、「特異性」となると、知らない方も多いのではないでしょうか。

ワクチンへの道

実は「免疫学」の歴史は大変古く、天然痘に対する免疫はイギリスの搾乳婦の間では、昔から広く知られていた様です。
尤も、これを『種痘法』と呼ばれる『予防接種』のレベルにまで進化させたのは、外科医のエドワード・ジェンナー(1749-1823)の功績です。

ジェンナーは一人の搾乳婦が、
「私は牛痘に罹ったことがあるので、天然痘には罹りません。」
と言っていた言葉をよく覚えていて、後に牛痘を使って『種痘法』を生出したと伝えられています。

つまり、免疫とは「疫(やまい)から免れた状態、すなはち、ある疫病にはもはや罹らなくなった状態」のことを意味する言葉です。

しかしその後の100年間は、それ以上の進歩は無く、病原体説を確立したのは、19世紀中葉のローベルト・コッホ(1843-1910)まで待たなくてはなりません。
彼は「疫(やまい)を引き起こす原因は病原体である。」ことを、炭疽菌の研究や結核菌を発見して証明しました。

ここまで来ると、もうワクチンへの道が拓かれました。
ルイ・パストゥール(1822-1895)は「免疫学の父」と呼ばれる人ですが、彼は「免疫学」を経験的なものから、理論に裏打ちされた実験科学の域まで進化させたのです。

元来免疫学は、細菌学の一分科として誕生したもので、「一度疫病に罹ったものは、二度と同じ病気に罹らない」という素朴な経験を、理論的に説明する学問です。

ここで『抗原』、『抗体』、『特異性』の「免疫学」の用語の定義を確認しておきましょう。

「抗原とは、それが生体内に導入された場合、抗体の産出を促し、かつ、これと特異的に反応する物質をいう。」
また、
「抗体とは、抗原刺激によって生体内につくられるもので、抗原と特異的に反応する物質をいう。」
とされています。

ここからご理解されるとおり、『抗原』と『抗体』とは相補的な関係の物質であり、鍵になるのは、これらが「特異的に反応する」事実です。

要するに『抗原抗体反応の特異性』を理解して、初めて「免疫」の意味が、正確に理解できるのです。

具体的に説明すると、「牛痘」の『抗原』を生体内に取り込む事によって、体内に『抗体』が作られます。
すると、後に「天然痘」の『抗原』が侵入しても、この『抗体』が反応して「天然痘」に罹らなくなる、すなはち『免疫』が出来たのです。

この『抗原抗体反応の特異性』を利用して、『ワクチン』が開発可能になります。
現在では、免疫システムの詳細な仕組みが分子レベルで解明されていますので、『ワクチン』の開発手法も、いろいろな種類が考え出されているのです

今回はこの辺で終わりにして、次回は人体の免疫システムの仕組みについてその概要をお話しましょう。

最後になりましたが、興味を持たれた読者のために、ここで参考書の紹介をしておきます。

分子細胞免疫学

■『分子細胞免疫学』
『分子細胞免疫学』は、世界標準の免疫学テキストとして著名です。
ハーバード大学医学部の学生とMITの1年生の学生の講義のための教科書として刊行され、細胞・分子生物学の教科書の定本として著名な免疫学教科書です。
専門書として、それなりに高価ですので、次回ではそのエッセンスを掻い摘んでご説明する事と致しましょう。

また、是非読んで下さいネ♥


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