『COVID-19』が教えてくれたこと (第6回)
今回は「人体の免疫システム」の続編です。
私達の目的は『COVID-19との闘いに打ち克つ』事ですから、その目的に焦点を絞った形で説明を続けましょう。
『COVID-19との闘い』
前回の記事では、まず英国のオックスフォード大学と製薬大手アストロゼネカ社で開発中のワクチンのニュースを動画で紹介しました。
そのニュースの中で、このワクチンの有効性について、『抗体』と『T細胞』が産出された事で確認されたとしていました。
これは、言い換えるならば『体液性免疫』と『細胞性免疫』の両方を獲得したと言えるでしょう。
ところで、一般には「免疫」と云うと「抗体を獲得する事」と考えられていますから、『T細胞』が何故必要なのかが、よく分りません。
実は『抗体』が主役を演ずる感染防御は、ウイルス性疾患の防御にはあまり役立たないと考えられています。
『体液性免疫』が強力に働く例としては、ジフテリアや破傷風がよく知られていますが、これらの体外毒素の作用によってひき起こされる病気では『中和抗体』と呼ばれる抗毒素が産出される事で、体外毒素の作用を中和してしまいます。
ウイルス性疾患に際して現れる『中和抗体』は、発症を阻止する役割はありますが、既に発病している患者では、ほとんど効果がありません。
これは、感染したウイルスが細胞内に侵入してしまうと、『中和抗体』は
到達できなくなるからと考えられます。
従って、既に発病している患者の細胞内で、ウイルスと闘う主役は『キラーT細胞』であると考えられます。
では『細胞性免疫』とは、どの様な仕組みの働きでしょうか。
『キラーT細胞』は、ウイルスが侵入してしまった感染細胞自体を攻撃して、細胞を障害してしまいます。
障害細胞はマクロファージに貪食される事で『細胞性免疫』が働くのですが、同時に増えすぎた『キラーT細胞』は、未感染の正常な細胞を障害してしまう事があります。
『キラーT細胞』の増減は、サイトカインと呼ばれる細胞間の情報伝達物質によってコントロールされるのですが、巧くいかないとサイトカインストーム(免疫暴走)を引き起こしてしまいます。
サイトカインストームは自分自身の組織を傷つけ、最悪の場合には死に至らしめる訳ですが、これを抑制するのは、ウイルス感染時に死んだ赤芽球を食べた『樹状細胞』です。
『樹状細胞』は免疫反応を抑制するサイトカイン(IL‐10)を出して、免疫反応にブレーキをかけているのです。
『SARS-CoV-2 』との闘いでは、重症化した患者で『血栓症』を発症する事
があります。
『マクロファージ』や『樹状細胞』などの貪食細胞は、外敵との闘いの結果、残骸を血液中に残すのですが、これが巧く流れ出ないと、血管を詰まらせて、その結果『血栓症』を発症すると考えられています。
『血栓症』は肺だけではなく動脈や脳などを損傷して、最悪の場合、やはり患者を死に至らしめるのです。
さて、『COVID-19との闘い』の全貌を大急ぎで説明しました。
最後に『免疫記憶』について、ご説明しておきましょう。
『免疫記憶』とは、2回目の感染で速やかに免疫反応が起こる仕組みの事です。
以前は『抗原』に対して、これと特異的に反応する『抗体』を獲得する事を
意味していましたが、最近の『分子細胞免疫学』の進んだ知見では、さらに
詳細な『免疫記憶』の仕組みが分子レベルで解明されています。
まず1回目の感染の時、『抗原』と出会う前のT細胞はナイーブT細胞と呼ばれ、この状態では特に何も仕事をしません。
『抗原』を取り込んだ『樹状細胞』によって活性化されたナイーブT細胞は、活発に増殖し、エフェクターT細胞という仕事をする細胞になります。
エフェクター細胞は、病原体に対して攻撃を始め、そのおかげで感染症は治癒します。
エフェクターT細胞は、仕事を終えると死んでしまいますが、そのうちの、一部はメモリーT細胞になって、リンパ節などで生き続けます。
2回目の感染では、メモリーT細胞が迅速かつ効率よく反応してくれます。
それは、メモリーT細胞がすぐにエフェクターT細胞になれるからです。
また、メモリーT細胞は沢山用意されています。
これらの働きは、『遺伝子再構成』という仕組みによるものなのです。
「人体の免疫システム」の戦術が分かった処で、次回は『SARS-CoV-2 』側の戦略について考えてみましょう。
「敵を知り、己を知らば百戦危うからず」です。
それでは、また是非読んで下さいネ♥
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