見出し画像

Zen2.0 2023 セッションレビュー 〜DAY1 セッション#5(方丈)〜水が教えてくれること〜自然と歴史の観点から〜

 世界の環境活動を支える、イギリスのシューマッハカレッジを創設するとともに精神世界と自然信仰に深い洞察を持つ環境活動家のサティシュ・クマール氏と、神道などの日本の伝統的な信仰と思想の専門家である京都大学名誉教授の鎌田東二氏が対談から、水環境問題を科学的視点と伝統信仰の視点から分析し、神道の教えから見た水の尊さについても探求します。地球規模の問題と古代の智慧が交錯する中、持続可能な未来への道筋を探る対話となりました。

水の起源と尊さ

 水についての起源を語る物語を皆さんご存知でしょうか? 冒頭、鎌田氏は日本の水の起源について古事記の物語の紹介をしてくれました。

鎌田東二氏

「イザナミは多くの神々を産んでいます。最後に産んだのは火の神であるカグツチで、これが原因でイザナミは火傷を負い黄泉の国に行くこととなりました。その時の最後の行動が反吐を吐く、うんちを漏らす、そして最後におしっこを漏らす。反吐は金属、うんちは粘土、おしっこは水。私たちの日常使っている鉱物や土や水の起源となる物語が日本にはあるんです」

 サティシュ氏もインドにおける飢饉に苦しむ王が神に雨乞いをした物語を紹介した上で、水の尊さについても述べてくれました。

「水は生きとし生けるものの全ての喉を潤します。人間も動物も植物も水によって生かされ、喉の潤いを得ることができる。私たちは水を精神的な師として従うべきなのです。なぜならば水は差別をしないからです。王様も乞食も、犯罪者も聖人にも水はある。どんな悪いことをしても水は私たちの喉を潤すのです。水は流れます。ですから我々も流れるように生きなければならない。そして過去の歴史、水の源流について学ぶことが大事なのです」

人間と水や自然との距離

 水を学ぶうえで、鎌田氏は京都における人と自然との距離を例えて警鐘を鳴らします。

「生きていく上でのベースにあるのはエコロジカルな基盤、その中に人間の身体がある。その上にソーシャル、メンタル、スピリチュアルが積み重なるのでフィジカルを維持するためにはエコロジカルがなければならない。しかし人と自然との距離が壊れてきている今、人間のフィジカルも変わらざるを得ません」

 鎌田氏の言葉にサティシュ氏も強くうなずいて応えました。

サティシュ・クマール氏(左)の言葉は優しいが力強く心に響く

「やはり人間と自然が分離していることが問題です。森、山、川、海、それが自然だが、我々も自然であり、そこに分離はない。人間と自然は一体なのです。ヒューマンというのはラテン語が起源だが、土という意味もあります。つまり人は土壌からできている。もちろん火も関わっているし、空気を吸いはいて生きている。人は全ての自然のエレメントを持っているのです。海・川・海などの自然と人間との分離をなくすことが大事なのですが、近代はそれが別れて二元的になっていると思います」

水や自然とのつながりを呼び戻すための詩やアートの重要性

 吟遊詩人でもある鎌田氏は癌のステージ4。自らを「”癌有”詩人」ともいい、入院中に自ら創作した詩を紹介しました。

鎌田氏が創作し、詠みあげた詩「雲水」

 鎌田氏は続けます。
「水は液体にも気体にも個体にもあらゆるものに変え、形を自在におのずから変化させて禅の境地を示すこともできます。私はシンガーソングライターでありつつ、雲水のような”癌有詩人”でありたいと思っています。比叡山を876回、私は登っていますが、これ自体がスピリチュアルケアなのです。比叡山が私を元気にさせてくれる。比叡山が私のあらゆるものをかき混ぜてくれるのです」

 鎌田氏の詩を聞いたサティシュ氏は、詩を作り出すことが、水、自然、ひいては地球を学ぶことに繋がるといいます。

「今や現代人は俳句や詩を使わなくなりました。朝から夜遅くまで働くので詩を書く時間も、自然に触れる時間もない。しかし、学ぶためには時間を自分のために作り出すことが必要です。仕事をするだけでなく、残った時間を富士山、海、川に行ったり詩や俳句、ダンスをしたり、家族とともに過ごすことに使うことが大事です。日本は物質的には恵まれていますが、時間的には貧しい国と言われています。創造的な可能性や行動をとり、物質的な文化から逸脱する勇気を持ってほしいのです。重要なのは詩やアート、友情、家族との時間を使うことなのです。お金のために時間を使うべきではない。お金に囚われた文化から逸脱することこそ、幸せであることと人生を楽しむことに繋がるのです」

エゴからエコへ

会場の参加者からの質問に答えるサティシュ・クマール氏

 「今のビジネスリーダーや政治家と呼ばれる人たちの一部は権力や通貨に愛情や執着があるが、その愛の力を別の力、エゴからエコに移行してほしい。エコノミー、エコロジーの「エコ」とはギリシア語で家という美しい意味があります。インドの哲学では宇宙そのものが我々の国、丸ごと国であり、その地球に私たちは住んでいると捉えることができます。であれば、私たちは人種は関係ない地球人であり、自然人です。自然が私たちの国籍であり、愛が私の通貨になれば、差別・対立・境界線・分断を壊して「この宇宙が家なんだ、宗教は愛なんだ」と全ての人がそう思えば素晴らしいことです。でも政治家、ビジネスリーダーは狭くて窮屈な思考に囚われていると思います。変革は政治家や権力化からは生まれません。ホワイトハウス、クレムリンからではなく、普通の市民から変わるのです。政治家やビジネスリーダーが世の中を良くしてくれるだろうと思わないでほしいのです。平凡な市民から変わっていくのです。市民は「もっと違う生き方をしたい。歌や詩や自然を楽しみたいという改革を起こしていけば、上の人たちも変わっていくのだと思います」

 サティッシュ氏の言葉に会場からは大きな拍手が巻き起こりました。

二人の想いを伝える法螺貝の音

 藤田氏はその力強い言葉と会場の熱気に応えて法螺貝を取り出します。

法螺貝を吹く鎌田氏(右)とその音を聞くサティシュ・クマール氏(右)

 その音はお二人の想いを空気に伝え、会場の人々の身体にある水を強く振るわせます。さらにその音と振動は建物から飛び出し、まるで高い遠い空、世界や宇宙にまで届くようでした。何かに挑戦して立ち止まるようなことがある時には、お二人の言葉を思い返し、今後の自らの生き方や社会や世界との関わり方など考えていきたいですね。

2023.11.4(text by Kiichiro Jimura)

<Zen2.0 公式Webサイト>
https://www.zen20.jp/