Com(ik)et

呪いにかけられた女の子がいました。でも女の子の心の中のあくまは、彼女が幸せに生きることを快く思いませんでした。あくまは女の子にたびたびちょっかいをかけては、針を振り切れさせずに、時間が経っていくのをただ楽しんでいました。女の子は そんなあくまが何よりも嫌いでした。

女の子はずっと星になりたくて、高いところに登ることが好きでした。高いところへ登れば、星に近づくことができる。星を見る人と全く同じ発想で、女の子は4階建て墓標(校舎)の屋上から空を眺め、時々彼女とあくまが暮らす、汚い、汚い地面も見つめているのでした。

屋上には、大昔の牛乳瓶入れがあります。女の子の踏み台としては ちょうどいい大きさでした。あれに乗れば、もっと星に近づける。女の子はそれを2段に重ねると、ひょいと飛び乗りました。

「あ」

ヒトの上半身は重いものです。女の子の身体は、手摺に乗ったおへそを軸にぐるりと回ります。力を籠めれば――あるいは、立て直せたかもしれません。しかし女の子は、ふいに拳を緩めてしまいました。

*

何度となく来た屋上の、すぐ隣で、ほんの一歩踏み出した先で、解放されるんだ この汚い穢れた血が、世界に迷惑と不利益をばらまき続けた脳漿ごと飛び散って、終わる いいじゃないか 今日の空は、きれいだ

もう誰も、何も、私の行く先を変えることはないだろう まほうも、呪いも、願いも、■■でさえも
何にも縛られず自由であることは難しい でもいま私を縛るのは、重力だけ――それからも、じき解放される

私が願い続け、選択した救済が、眼下にはっきりと見える はやく、あれを手に入れたい 全てからの、解脱

”卒業” 記念日は何日なのだろう 明日が■■■  ……あなたは、何を考えているの?

世界を遊び尽くして後悔せずに自殺したいとか、
誰にも依存しない、なんでもできる■■さんだとか
挙句の果てに姿だけ消して自身に手を下さなかった
そしてこの期に及んでわざわざ意識するの? ■■■

今までのは、なんだったの? それもまた、被っていた猫?


どうして?

あなたは白の部屋で悟ったはずだ
■■と同じ血がこの身体を巡っている
■■は自分を傷つけることで生きてきた
身体を傷つければ 生きていることができた
この身体が生きていくには 自らを傷つけるしかないのだ

私だって

わ た し だ っ て

楽しく 幸せに 生きたかった

あの時間を 続けたかった

でも

そんな時間は もうおわり

空が、きれいだ

死にたい

*

女の子は近日点に近い彗星のように重力に引き寄せられ、最初の犠牲者の視界端を横切って消えました。

彗星は太陽から離れた 暗く冷たい場所で その生涯のほとんどを過ごします。
しかし ひとたび太陽に近づくと その身体を切り崩しながら輝きます。
短く 儚く 有限で しかし美しく 何よりも価値のあるものでした。

とても遠くからやってきて 一度だけ輝く彗星があります。
それを慰めるためか 人々は 長周期彗星 となづけました。

また いつか 逢いましょう。

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