1 相続税のペナルティー
相続税を正しく期限内に申告納付しなかった場合のペナルティーとして
① 本来納めるべき税額である本税の他
② 正しく申告しなかった場合の過少申告加算税
③ 申告しなかった場合の無申告加算税
④ 納付しなかった場合の延滞税
⑤ 脱税事案においては、罰金刑や懲役刑等もあります。
があります。
2 ペナルティーの税率
(1)過少申告加算税
過少申告加算税は、調査があった場合とそうでない場合で異なり、調査がなかった場合は、自主的な修正申告のペナルティーありません(国税通則法65条5項)。
調査があった場合は、調査通知があった後は基本5%と実地調査等が開始された後では10%と後になればなるほど重いペナルティーである過少申告加算税が多くなります(国税通則法65条1項)。
(2)無申告加算税
無申告加算税も過少申告加算税と同様、調査の有無で異なりますが、過少申告加算税と異なり、自主的に期限後申告した場合でも加算税5%がかかります(国税通則法66条6項)。
調査があった場合は、調査通知があった後は基本10%と実地調査等があった後では15%です。後になればなるほど重いペナルティーである無申告加算税の金額が多くなります(国税通則法66条1項)。
(3)重加算税
仮装隠ぺい行為により申告内容に嘘があった場合には、過少申告加算税 が35%、無申告加算税が40%に変更になります(国税通則法68条1項2項)。
(4)延滞税
上記(1)~(3)の加算税の他、期限翌日からの日割り計算で延滞
税が発生します。加算税は申告が1日でも過ぎればかかるのに対して、
延滞税は納付が1日遅れても端数調整等により少額であればかからない
場合もあります。
延滞税は、基本1年分しか発生しません(国税通則法61条1項)。
3 加算税延滞税の計算方法
本税に税率等を掛けて加算税・延滞税の計算を行います。その際、本税は1万円未満は切り捨て、加算税は5,000円未満、延滞税は100円未満は全額切り捨てとなるため注意が必要です。
なお、延滞税に関してはかなり細かい計算が必要となるため、税務署の管理運営部門に問い合わせしましょう。また、相続税の加算税金額についても分からないことがあれば、税務署の資産課税部門に問い合わせしましょう。
4 相続税の重加算税の賦課基準
加算税で一番重いペナルティーである相続税の重加算税の賦課基準については、国税通則法68条を根拠に、その具体的事例として国税庁が事務運営指針を下記のとおり発表し、基本的にはこの基準で動いている。
5 実際の相続税の重加算税の賦課基準
もっとも、資産課税部門における重加算税の暗黙のルールとして、被相続人名義の財産つまり実名財産については重加算税、評価や名義預金等については過少申告加算税と相場となっている。もちろんそうでない事例もあるだろうが、この基準で動いてる調査官も多い。
6 事務運営指針の考察
相続税の申告財産は、法人税のように記帳を前提としたものではないため、賦課基準に該当するような事例はまれであるが、事務運営指針では以下のものを重加算税対象としている。一つ一つ考察していこう。
⇒(1)は、相続人や税理士が領収書等を偽造や破棄等する場合であるが、なかなかこのような状況は考えられない。もし、ありうるとすると反面調査等でこのような状況が明らかになった場合であろうか。
⇒(2)は、架空債務等を立ち上げて、課税価格を圧縮する行為であるが、これは積極的な仮装隠ぺい行為を伴った行為といえるので、重加算税の賦課になるのは間違いない事例である。架空債務を捏造した行為と申告行為との関連性が明らかである。
⇒(3)は、相続人や税理士が領収書等を取引先と偽造や破棄等する場合であるが、(1)同様になかなかこのような状況は考えられない。もし、ありうるとすると反面調査等でこのような状況が明らかになった場合であるが、(1)と異なり相手先と通謀しているため、反面調査が粘り強く行われることは間違いない。
⇒(4)は、相続人が税理士等に虚偽答弁をして財産の存在を伝えない等が一番典型的な事例といえる。なぜなら、相続人は自分だけ知っている財産を他の相続人には言いたくないし、税理士に伝えることで他の相続人にばれる等も考えれるからだ。
なお、調査の際の虚偽答弁は、既に申告行為を行った後の行為であるので、仮装隠ぺい行為を推認させる間接事実として取り扱われる。
⇒(5)は、相続人が名義預金等である状態や遠隔地の被相続人の預金等を利用して申告しないことである。名義財産の場合には、客観的帰属性や行為者の帰属の認識やその作為義務について立証を要するだろう。
7 重加算税の賦課に対する対応について
上記の事務運営指針に掲げる典型的事例であれば重加算税を免れないと考えるが、そうでない事例に対しても課税庁が重加算税を賦課する予定であることを伝えてくる場合がある。
この場合については、一調査官が言っているのか、税務署として言っているのか探る必要がある。後者の場合には、組織として意思決定しているので覆すことはなかなか大変であるが、前者の場合には担当者レベルで重加算税の賦課を視野に入れているだけであるので、もし仮装隠ぺい行為がないとすれば争う姿勢を示した方がいい。
また、重加算税においては、申告行為と仮装隠ぺい行為との時系列が大事になってくるため、納税者・税理士サイドとしては、一度時系列整理を行い、課税庁と戦う準備をするのが得策である。