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元国税が相続税のペナルティーである加算税・重加算税がかかる場合・対応方法について教えます

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この記事の監修者:元国税税理士 石井聡
 国税専門官として相続税の査察調査や内部担当まで広く資産税実務に従事する。退職後、相続専門税理士事務所を開業し、都内相続専門税理士法人の外部顧問も務める。

1 相続税のペナルティー

  相続税を正しく期限内に申告納付しなかった場合のペナルティーとして
 ① 本来納めるべき税額である本税の他
 ② 正しく申告しなかった場合の過少申告加算税
 ③ 申告しなかった場合の無申告加算税
 ④ 納付しなかった場合の延滞税
 ⑤
 脱税事案においては、罰金刑や懲役刑等もあります。
 
があります。

2 ペナルティーの税率

 (1)過少申告加算税

 過少申告加算税は、調査があった場合とそうでない場合で異なり、調査がなかった場合は、自主的な修正申告のペナルティーありません(国税通則法65条5項)。
 
調査があった場合は、調査通知があった後は基本5%と実地調査等が開始された後では10%と後になればなるほど重いペナルティーである過少申告加算税が多くなります(国税通則法65条1項)。

(過少申告加算税)
第六十五条 期限内申告書(還付請求申告書を含む。第三項において同じ。)が提出された場合(期限後申告書が提出された場合において、次条第一項ただし書又は第七項の規定の適用があるときを含む。)において、修正申告書の提出又は更正があつたときは、当該納税者に対し、その修正申告又は更正に基づき第三十五条第二項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額に百分の十の割合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないときは、百分の五の割合)を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する
 第一項の規定は、修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合において、その申告に係る国税についての調査に係る第七十四条の九第一項第四号及び第五号(納税義務者に対する調査の事前通知等)に掲げる事項その他政令で定める事項の通知(次条第六項において「調査通知」という。)がある前に行われたものであるときは、適用しない

 (2)無申告加算税

 無申告加算税も過少申告加算税と同様、調査の有無で異なりますが、過少申告加算税と異なり、自主的に期限後申告した場合でも加算税5%がかかります(国税通則法66条6項)
 調査があった場合は、調査通知があった後は基本10%と実地調査等があった後では15%です。後になればなるほど重いペナルティーである無申告加算税の金額が多くなります(国税通則法66条1項)。

(無申告加算税)
第六十六条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該納税者に対し、当該各号に規定する申告、更正又は決定に基づき第三十五条第二項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額に百分の十五の割合(期限後申告書又は第二号の修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないときは、百分の十の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する。ただし、期限内申告書の提出がなかつたことについて正当な理由があると認められる場合は、この限りでない。 期限後申告書の提出又は第二十五条(決定)の規定による決定があつた場合 期限後申告書の提出又は第二十五条の規定による決定があつた後に修正申告書の提出又は更正があつた場合
 期限後申告書又は第一項第二号の修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでない場合において、その申告に係る国税についての調査通知がある前に行われたものであるときは、その申告に基づき第三十五条第二項の規定により納付すべき税額に係る第一項の無申告加算税の額は、同項及び第二項の規定にかかわらず、当該納付すべき税額に百分の五の割合を乗じて計算した金額とする。

 (3)重加算税

  仮装隠ぺい行為により申告内容に嘘があった場合には、過少申告加算税  が35%、無申告加算税が40%に変更になります(国税通則法68条1項2項)。

(重加算税)
第六十八条 第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。
 第六十六条第一項(無申告加算税)の規定に該当する場合(同項ただし書若しくは同条第七項の規定の適用がある場合又は納税申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出せず、又は法定申告期限後に納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、無申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る無申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の四十の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。

 (4)延滞税

  上記(1)~(3)の加算税の他、期限翌日からの日割り計算で延滞  
税が発生します。加算税は申告が1日でも過ぎればかかるのに対して、 
延滞税は納付が1日遅れても端数調整等により少額であればかからない  
場合もあります。

  延滞税は、基本1年分しか発生しません(国税通則法61条1項)。

(延滞税)
第六十条 納税者は、次の各号のいずれかに該当するときは、延滞税を納付しなければならない
 期限内申告書を提出した場合において、当該申告書の提出により納付すべき国税をその法定納期限までに完納しないとき。
 期限後申告書若しくは修正申告書を提出し、又は更正若しくは第二十五条(決定)の規定による決定を受けた場合において、第三十五条第二項(申告納税方式による国税等の納付)の規定により納付すべき国税があるとき

(延滞税の額の計算の基礎となる期間の特例)

第六十一条 修正申告書(偽りその他不正の行為により国税を免れ、又は国税の還付を受けた納税者が当該国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知して提出した当該申告書(次項において「特定修正申告書」という。)を除く。)の提出又は更正(偽りその他不正の行為により国税を免れ、又は国税の還付を受けた納税者についてされた当該国税に係る更正(同項において「特定更正」という。)を除く。)があつた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、当該申告書の提出又は更正により納付すべき国税については、前条第二項に規定する期間から当該各号に定める期間を控除して、同項の規定を適用する。
 その申告又は更正に係る国税について期限内申告書が提出されている場合において、その法定申告期限から一年を経過する日後に当該修正申告書が提出され、又は当該更正に係る更正通知書が発せられたとき その法定申告期限から一年を経過する日の翌日から当該修正申告書が提出され、又は当該更正に係る更正通知書が発せられた日までの期間
 その申告又は更正に係る国税について期限後申告書(還付金の還付を受けるための納税申告書で政令で定めるもの(以下「還付請求申告書」という。)を含む。以下この号及び次項において同じ。)が提出されている場合において、その期限後申告書の提出があつた日の翌日から起算して一年を経過する日後に当該修正申告書が提出され、又は当該更正に係る更正通知書が発せられたとき その期限後申告書の提出があつた日の翌日から起算して一年を経過する日の翌日から当該修正申告書が提出され、又は当該更正に係る更正通知書が発せられた日までの期間

 

3 加算税延滞税の計算方法

 本税に税率等を掛けて加算税・延滞税の計算を行います。その際、本税は1万円未満は切り捨て、加算税は5,000円未満、延滞税は100円未満は全額切り捨てとなるため注意が必要です。
 なお、延滞税に関してはかなり細かい計算が必要となるため、税務署の管理運営部門に問い合わせしましょう。また、相続税の加算税金額についても分からないことがあれば、税務署の資産課税部門に問い合わせしましょう。

(国税の課税標準の端数計算等)
第百十八条 
 附帯税の額を計算する場合において、その計算の基礎となる税額に一万円未満の端数があるとき、又はその税額の全額が一万円未満であるときは、その端数金額又はその全額を切り捨てる。

(国税の確定金額の端数計算等)
第百十九条 
 附帯税の確定金額に百円未満の端数があるとき、又はその全額が千円未満(加算税に係るものについては、五千円未満)であるときは、その端数金額又はその全額を切り捨てる。

4 相続税の重加算税の賦課基準

加算税で一番重いペナルティーである相続税の重加算税の賦課基準については、国税通則法68条を根拠に、その具体的事例として国税庁が事務運営指針を下記のとおり発表し、基本的にはこの基準で動いている。

(1) 相続人(受遺者を含む。)又は相続人から遺産(債務及び葬式費用を含む。)の調査、申告等を任せられた者(以下「相続人等」という。)が、帳簿、決算書類、契約書、請求書、領収書その他財産に関する書類(以下「帳簿書類」という。)について改ざん、偽造、変造、虚偽の表示、破棄又は隠匿をしていること。

(2) 相続人等が、課税財産を隠匿し、架空の債務をつくり、又は事実をねつ造して課税財産の価額を圧縮していること。

(3) 相続人等が、取引先その他の関係者と通謀してそれらの者の帳簿書類について改ざん、偽造、変造、虚偽の表示、破棄又は隠匿を行わせていること。

(4) 相続人等が、自ら虚偽の答弁を行い又は取引先その他の関係者をして虚偽の答弁を行わせていること及びその他の事実関係を総合的に判断して、相続人等が課税財産の存在を知りながらそれを申告していないことなどが合理的に推認し得ること。

(5) 相続人等が、その取得した課税財産について、例えば、被相続人の名義以外の名義、架空名義、無記名等であったこと若しくは遠隔地にあったこと又は架空の債務がつくられてあったこと等を認識し、その状態を利用して、これを課税財産として申告していないこと又は債務として申告していること。

5 実際の相続税の重加算税の賦課基準

 もっとも、資産課税部門における重加算税の暗黙のルールとして、被相続人名義の財産つまり実名財産については重加算税、評価や名義預金等については過少申告加算税と相場となっている。もちろんそうでない事例もあるだろうが、この基準で動いてる調査官も多い。

6 事務運営指針の考察

  相続税の申告財産は、法人税のように記帳を前提としたものではないため、賦課基準に該当するような事例はまれであるが、事務運営指針では以下のものを重加算税対象としている。一つ一つ考察していこう。

(1) 相続人(受遺者を含む。)又は相続人から遺産(債務及び葬式費用を含む。)の調査、申告等を任せられた者(以下「相続人等」という。)が、帳簿、決算書類、契約書、請求書、領収書その他財産に関する書類(以下「帳簿書類」という。)について改ざん、偽造、変造、虚偽の表示、破棄又は隠匿をしていること。

⇒(1)は、相続人や税理士が領収書等を偽造や破棄等する場合であるが、なかなかこのような状況は考えられない。もし、ありうるとすると反面調査等でこのような状況が明らかになった場合であろうか。

(2) 相続人等が、課税財産を隠匿し、架空の債務をつくり、又は事実をねつ造して課税財産の価額を圧縮していること。

⇒(2)は、架空債務等を立ち上げて、課税価格を圧縮する行為であるが、これは積極的な仮装隠ぺい行為を伴った行為といえるので、重加算税の賦課になるのは間違いない事例である。架空債務を捏造した行為と申告行為との関連性が明らかである。

(3) 相続人等が、取引先その他の関係者と通謀してそれらの者の帳簿書類について改ざん、偽造、変造、虚偽の表示、破棄又は隠匿を行わせていること。

⇒(3)は、相続人や税理士が領収書等を取引先と偽造や破棄等する場合であるが、(1)同様になかなかこのような状況は考えられない。もし、ありうるとすると反面調査等でこのような状況が明らかになった場合であるが、(1)と異なり相手先と通謀しているため、反面調査が粘り強く行われることは間違いない。

(4) 相続人等が、自ら虚偽の答弁を行い又は取引先その他の関係者をして虚偽の答弁を行わせていること及びその他の事実関係を総合的に判断して、相続人等が課税財産の存在を知りながらそれを申告していないことなどが合理的に推認し得ること。

⇒(4)は、相続人が税理士等に虚偽答弁をして財産の存在を伝えない等が一番典型的な事例といえる。なぜなら、相続人は自分だけ知っている財産を他の相続人には言いたくないし、税理士に伝えることで他の相続人にばれる等も考えれるからだ。
 
なお、調査の際の虚偽答弁は、既に申告行為を行った後の行為であるので、仮装隠ぺい行為を推認させる間接事実として取り扱われる。

(5) 相続人等が、その取得した課税財産について、例えば、被相続人の名義以外の名義、架空名義、無記名等であったこと若しくは遠隔地にあったこと又は架空の債務がつくられてあったこと等を認識し、その状態を利用して、これを課税財産として申告していないこと又は債務として申告していること。

⇒(5)は、相続人が名義預金等である状態や遠隔地の被相続人の預金等を利用して申告しないことである。名義財産の場合には、客観的帰属性や行為者の帰属の認識やその作為義務について立証を要するだろう。

7 重加算税の賦課に対する対応について

 上記の事務運営指針に掲げる典型的事例であれば重加算税を免れないと考えるが、そうでない事例に対しても課税庁が重加算税を賦課する予定であることを伝えてくる場合がある

 この場合については、一調査官が言っているのか、税務署として言っているのか探る必要がある。後者の場合には、組織として意思決定しているので覆すことはなかなか大変であるが、前者の場合には担当者レベルで重加算税の賦課を視野に入れているだけであるので、もし仮装隠ぺい行為がないとすれば争う姿勢を示した方がいい。

 また、重加算税においては、申告行為と仮装隠ぺい行為との時系列が大事になってくるため、納税者・税理士サイドとしては、一度時系列整理を行い、課税庁と戦う準備をするのが得策である。



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