子会社・関連会社からの配当の源泉徴収が変わった件とトラップについて

1.事の発端

令和5年(2023年)10月以降に子会社・関連会社が支払う配当について、源泉徴収が大きく変わった。
子会社・関連会社が支払う配当について、一定のものについては源泉徴収が不要(従前は配当額×20.42%)となったのだ。
事の発端は令和元年度に行った会計検査院の検査報告によるものである。

検査報告の内容を要約すると以下のとおりである。
① 源泉徴収は、所得税の前払いであるが、源泉徴収義務者(源泉徴収を行う者)の便宜を考慮して、利子や配当等を内国法人に支払う場合にも行われることになっている(法人の場合には法人税の前払いとして扱われる。)。
➁ 一方で、法人税法の法人の所得計算にあっては、他の内国法人から支払を受ける配当については、受取配当等の益金不算入制度が設けられており、株式等の区分により、20%~100%が益金不算入(つまりは、課税所得から除かれる)ことになっている。
③ ②の区分のうち、完全子法人株式等(配当の計算期間を通じて持株比率が100%)については全額、関連法人株式等(原則として6月以上の持株比率が1/3超)については一定の支払利子を超える部分は全額が益金不算入の状態にある。
④ 配当の全部または殆どが益金不算入となる③の株式等については、法人税を課税しないため、簡単に言えば返金するわけだから、そもそも源泉徴収がいらないんじゃない?税務署も納税者も手間なだけじゃん。税務署に至っては、還付加算金という利息を納税者に払わないといけないの、ムダ金じゃん。

となったわけである(我ながら④については、随分と口語的になったが要約すると大まかにはそのようなことが書かれている。)。

会計検査院の当時の報告はこちら
第2 完全子法人株式等及び関連法人株式等に係る配当等の額に対して源泉徴収を行うことにより生ずる還付金及び還付加算金並びに税務署における源泉所得税事務及び還付事務等について | 第4章 | 令和元年度決算検査報告 | 会計検査院 (jbaudit.go.jp)

2.改正の内容

「改正の内容っていっても、完全子法人株式等と関連法人株式等から受ける配当からは源泉徴収をしなくなったってだけでしょ??」という意見もあるかもしれないが、実際にそのような改正であれば、わざわざ記事にしたりはしない。

完全子法人株式等については、大まかに言えばそのとおりであるのであるが(細かく言えば異なるが、そこまで重箱の隅をつつく気はしない)、
関連法人株式等については、国の親切心が逆効果だったのか、トラップが生じてしまっている。今回はそのトラップをクローズアップするための記事なのだ。

表形式にしてまとめると、以下のとおりとなる。

自分で作りました

「結構違うな」と思ってもらえればそれでOKである。
では、なぜこのような違いが生じたのか、財務省はこのように説明をしております(太字は私が補いました。)。

「基準日等においてその内国法人が保有する他の内国法人の株式等の発行済株式等の総数等に占める割合が 3 分の 1 超である場合における当該他の内国法人の株式等に係る配当等については、所得税を課さない(つまり、源泉徴収は要しない)こととされました。これは法人税法でいうところの「関連法人株式等」に相当するものですが、こちらについても法人税とは異なり、自己の名義をもって有するものに限られるほか、その保有割合の判定をその配当等の額に係る基準日等の一時点で行うこととされています。これは、源泉徴収段階で源泉徴収義務者がその判断を行う必要があるためです。」

親切心がにじみ出ておりますが、法人税法と源泉所得税(所得税法)とで変える意味はあったんかいな、と突っ込みたくなります。こういう微妙な違いは、よく勉強をしている経理担当者であるほど引っかかってしまうのです(そして、「なんで微妙に違うんですか!」と詰められるのは税理士です笑)。

3.想定し得る弊害

① 誤りやすいと思われる論点
完全支配関係とは、簡単に言えば100%の資本関係で繋がっていることをいう。例えば、頂点にA社が君臨し、A社がB社及びC社を100%保有し、B社がD社を10%、C社がD社を25%保有していたとしよう。結論としては、以下のようになる。

自分で作りました。

先ほど、知識がある(D社の)経理担当者ほど間違えるといったのは、
D社は、B社及びC社の関連法人株式等であるが、源泉は必要であるといった結論になるからだ。

➁ 1/3超有していても「その他株式」(益金不算入割合50%)となることも
ある
どういうパターンかといえば、他社から買収した場合だ。つまり、1/3超の株式を取得した場合であっても、保有期間が6月に満たないといったケースでは、法人税法上、関連法人株式等ではなく、その他株式等となり、益金不算入割合も50%に減額される。

このような場合には、源泉所得税の有無は保有日時点で判定することから、源泉徴収は行われないものの、法人税法においてはその他株式等に該当するため、確定申告時に追加納税が発生するケースが生じるというわけだ。①と比べて実害は少ないが、経営者からすれば重税感を持ってしまう可能性がある。

3.最後に

本質に立ち戻るのであれば、法人について源泉徴収が採用されるのは、会計検査院のいうとおり「源泉徴収は、個人に帰属する所得につき行われるものであるが、源泉徴収制度の実施の円滑化を図り、源泉徴収義務者の源泉徴収に係る事務の便宜を考慮して、利子や配当等を内国法人に支払う場合においても、源泉徴収を行うこととされ、、、、」とあることから、法人に対する源泉徴収自体を終わりにしていいのではないだろうか。ここでいう便宜とは技術上の問題であり、我が国で源泉徴収制度が開始されたのは明治32年の話である。その後、機械化が進んだ現在においても法人に適用すべきなのであろうか(勿論、納税自体が行われない可能性がある外国法人への不動産の譲渡などについては話は別だ。)。
法人に対する道府県民税の利子割(源泉徴収の地方税バージョン)の徴収は、10年程度前に役目を終えたことも鑑みると、少なくとも内国法人に対してまで所得税の源泉徴収制度を存置することに対して疑義を抱かざる得ないのが正直な感想である。




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