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交際費の飲食費が5,000円以下→10,000円以下になった件あれこれ


1.飲食費に関する税制改正のざっとした流れ


令和6年度税制改正において、一人当たり5,000円以下の飲食費が交際費等から除外される規定が、一人当たり10,000円以下に金額が引き上げられました。
この改正は令和6年4月1日以後に支出する飲食費について適用される。
通常の法人税の改正であれば、「令和6年4月1日以後に開始する事業年度において適用する。」なるケースが多いが、決算事業年度に関わらず、令和6年4月1日以後に支出する飲食費としていることが経理担当者や税理士にとっての一つの注意点であろう。

「令和6年度税制改正に関する意見」について、として商工会議所は2万円への引き上げを要望していた。

https://www.tokyo-cci.or.jp/file.jsp?id=1200968

また、てっきり経済産業省と思い込んでいたが、厚生労働省がこの件について、金額の引き上げを求めていた。

https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2024/request/mhlw/06y_mhlw_k_17.pdf

あくまで租税特別措置法は租税政策であり、時限立法であることから、物価上昇に苦しむ救いの手として飲食産業を救いたい、商工会議所や厚生労働省の意志が一人当たり2万円とならずとも、一人当たり1万円とする改正につながったのだろう。

2.何故、飲食費は一人当たり5,000円以下だったのか?

山本守之先生の時事税談から以下の部分を抜粋する。
「平成17年当時の自民党税制調査会の津島雄二会長は、仕事の打ち合せ時における食事代についても、このような考え方を明らかにしています。『
ご承知のとおり、外国の例を見ると、例えば昼食を一緒にとって食事をしながら仕事の打合せをするとかを当然認めているわけで、それが社会の批判を招かない程度の枠内であれば、通常の社会的存在である企業体としての活動です。それが企業の収益活動につながっていくと考えられます。実態に合わないような交際費否認制度から決別すると受け止めてください。』
これを聞いて、私も『これで日本の交際費課税は世界に恥じない正しいものになる』と期待していました。」
引用はここまでになります。

この後、残念ながら山本先生は5,000円という形式的な基準に大変お心を痛められたことが文書から伝わってきました。

あくまでも「相手の歓心を買うための支出(税法上の交際費等)」であったか、「社会通念として通常供与されるものなのか(事業遂行上の必要経費)」を軸に考えるべきであると山本先生はお考えだったからです。

5,000円と形式基準を導入しながらも、ビジネスランチという思想を国税庁は忘れたわけではなかった、ということを当時の通達改正の趣旨説明から垣間見ることができます。

https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/070313_2/07.htm#a-01

辛うじて受け継がれてきた理想は今回の改正で姿を消したといえそうです。

3.理想と現実

交際費課税の理想は再度述べる必要はないと思いますが、「相手の歓心を買うための支出(税法上の交際費等)」であったか、「社会通念として通常供与されるものなのか(事業遂行上の必要経費)」で判断すべきということだと思います。
ただ、現実としては、「5,000円までなら損金に算入できる!」だったのでしょう。さらに令和6年度税制改正においては、「5,000円→10,000円」になった、という事実だけが残ります。これが現実だと思います。

4.現実は悪いことなのか

結論から申し上げますと私はそうは思いません。
何故ならこの政策によって活気を取り戻す飲食店を経営する人たちがいるからです。
実際に私のクライアントが定額控除限度額(800万円)を超える交際費等を支出していたのであれば、税理士として10,000円以下の飲食費の要件を満たすようにお伝えし、飲食費として損金算入ができる体制を整えるアドバイスを行うはずです(800万円の定額控除限度額は基本的には期末資本金の額が1億円以下の法人に適用されます。)。
ただ、忘れてはいけないことは、上記でも述べたとおり、租税特別措置法は租税政策であり、時限立法であることから、景気が回復し、飲食店を経営する人たちがコロナ禍からダメージから回復した後には、交際費課税の理想を取り戻すことではないでしょうか。
現状、交際費等の損金不算入は租税特別措置法の規定であり、恒久法である法人税法ではありません。
交際費等について今後も議論が行われるのであれば、まずは交際費等の理論を追求した部分を法人税法に格上げし、経済状況に関わる部分については租税特別措置法に残すべきではないでしょうか。
武田昌輔先生の「法人税回顧六十年」によると、交際費等の損金不算入が導入されたのは、昭和28年(1953年)だそうです。
概ね70年以上、租税特別措置法でいたのであれば、その存在意義を認めて、法人税法に格上げしてもいいのではないかと思います。

5.所得税法上の交際費の誤解をちょっと解きます

何の記事だったかは忘れましたが、「個人事業主の交際費は法人と違って青天井」といったものを目にしたことがありました。
所得税法においては、交際費について法人のような定額控除限度額800万円のような形式的な基準は設けられていないのは確かです。
ただ、所得税法の必要経費(第37条)は以下のように規定されております。
「その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(事業所得の金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに雑所得の金額のうち第三十五条第三項(公的年金等の定義)に規定する公的年金等に係るものを除く。)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。」
つまり、業務の遂行上必要な費用しか必要経費にはなりません。
そうでない場合には、家事費(第45条)として、必要経費には算入されません。

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