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おまえらは土方歳三について何もわかっていない(逆噴射聡一郎ではない)

賀茂の河原に 
千鳥が騒ぐまたも血の雨 
流れ雨 武士という名に 
命をかけて新選組は 今日もゆく
恋も情けも 
矢弾に捨てて軍かさねる 
鳥羽伏見ともに白刃を 
淋しくかざし新選組は 月に泣く
菊のかおりに 
葵が枯れる枯れて散る散る 
風の中変わる時勢に 背中を向けて新選組よ 何処へ行く
――あゝ新選組


 よく来たな、おれは逆噴射聡一郎ではない。おれは毎日かなりの量のクトゥルフ神話TRPGテキストをほんやくしているが、誰にも読ませるつもりは無い。
 お前は土方歳三を知っているか?知っているだと?あらかじめ言っておくが、「どかた」ではなく「ひじかた」だ。スマッホの入力で面倒がって「つちほう」と入れている奴は論外だ。ここがもしメキシコだったら意思疎通は無理と判断され即座にショットガンをぶっ放され、サボテンすら慰めない悲惨あ死を遂げていたはずだ。おれは今までの人生の中で、壬生寺を訪問し「あゝ新選組」の歌碑に百円入れたことがある。だから一瞬の躊躇もなく「ひじかた」と書くことができる。
 土方歳三は新選組の副長で、キョートで敵を殺し、鳥羽伏見で敵を殺し、宇都宮で敵を殺し、会津で敵を殺し、箱館で敵を殺し、最期に敵にころされ死んだ。 しかし、最近の研究では、彼は箱館で敵を殺した後、火星に渡って敵を殺していたという末路がゆうりょく視されている。
 現在、火星を治める有るおくな君主がアメリカ出身のジョン・カーターであることは広く知られている事実だが、王都ヘリウムの治安を浪士隊が守っている事情までは、さすがにジャスーム(地球)へ届かず、この説が広まるのが遅れた原因となった。
 幸いにも、アメリカの人気小説かのバロウズ氏にジョン・カーターが自らが火星へと雄飛した経緯を記した草稿を託したように、火星訪問後の顛末について土方歳三が書いた自伝を、日本の小説家が校正し発表しているので、歴史に興味を持つ好学の徒は『火星の土方歳三』を一読するべきだろう。
 土方歳三はメキシコとは無関係だが、五稜郭政府関係者が後にメキシコへの移民となったというのも頷ける話だ。土方歳三もイクサを生き延びればメキシコへと旅立ったかもしれない。もっとも、彼を待っていたのはメキシコの熱風吹き荒ぶ土地ではなく、戦乱と冒険の星マルス(マイリトルポニーの守護神でもある)であった。

アレス(マルス)も時にはダーピーを愛でたい気持ちになることがある


あらすじ

 「まだ、斗いたい」
 と、その色白で細面の優男は呟いていた。かつて、島原の女郎をさんざん泣かしてきた貌、ニコリともせず隊士たちに切腹を申し付けてきた貌が、今わたしに向かってそう言うのだ。
 「斗わせてくれ、今少し……。どこかに、斗える場所はないのか」

 土方歳三、それは生粋のウォーモンガーであり、自白系拷問職人とか部下の粛清が得意とかハイクが下手の横好きとか些細な欠点はあるが、おおむね真の男だ。
 話は土方歳三が箱館で凶弾に倒れたところから始まる。彼は自分の躰を見下ろし、自らの死を認識する。だが、死をもってしても彼のイクサを求める血潮は冷めやらず、天空に赤く輝く凶星に目をやり、両手を伸ばす。
 肉体の枷を引きちぎり、火星へと跳躍するシーンは、ジョン・カーターの体験談とも一ちし、この報告の信憑性を高めている。
 土方歳三は文字通り裸一貫、火星の大地に自らが横たわっていることに気づく。彼の目に最初に飛び込むものは、火星の双子の月フォボスとダイモスだ。
 ジョン・カーターは緑色人の孵卵場で目を覚ましたが、土方歳三は野原で意識を取り戻し、通りがかった赤色人に捕虜とされる。
 ジョン・カーターは火星に着いてほどなく白猿と石棒一本で死闘を繰り広げる羽目になるが、土方歳三は短刀一本で火星獅子に突撃することになる。
 まったくもって、火星へと召喚されたジャスーム人は、流血の洗礼無しには戦星への滞在を許可されないようだ。

 土方歳三は軍人でありなおかつ剣客でもあり、南軍将校として戦場を転戦したジョン・カーターと同じく、火星の戦場や武器類に関して鋭い観察眼を働かせている。特に刀剣をはじめとする近接武器への造詣はカーターをもしのぐ。
 また、新選組のんかでも色男と知られる彼は、火星の風習などにも鋭い観察眼を働かせている。生殖行為に対するバロウズ氏の誤認識を指摘したり、市街の社会生活について描写を試みたりする視点は、土方歳三らしいと言えるだろう。
 さて、一度は捕虜となった土方歳三は、獅子殺しの武勇を評価され、オドワール(太守)麾下の隊長となり、折しも攻め寄せるワフーン族とのイクサに参戦、敵兵士や猛獣相手に奮戦するも多勢に無勢、再び捕虜の憂き目に陥る。
 ジョン・カーターも一度は体験したワフーン族の闘技場送りとなった土方歳三、彼を待ち受けるのは目もくらむ大怪獣、奴に抗するには天魔剣に開眼するしかあり得ぬ。
 いろいろあって自由を手にした土方歳三は、同じ地球人が君主となっていると聞いたヘリウムを目的地としながら火星を旅する。時には各地の好漢英傑とイクサを共にし、またある時にはあやかしの女王に情を迫られ、麗しの美姫に運命を感じる――
 そして、ジョン・カーターの失踪事件(火星のプリンセスを参照)の後、不逞の輩が闊歩するありさまと化したヘリウムへとたどり着き、そこでヘリウムの守護役カントス・カンが市中警護隊を募集しようとしていることを知る。
 果たしてヘリウムに浅葱のだんだらは再び翻るのか?そして彼を待ち受ける狂暴と奸智を併せ持つ怪物とは……?

火星シリーズ

あれは火星、戦の星だ。わたしのような軍人にとって、あの星は常に抗しがたい魅力を秘めている星である。過ぎ去った遠い昔のあの夜のこと、わたしがじっとみつめていると、あの星は想像を絶する空間を越えてわたしを誘い、磁石が鉄片を吸いよせるように、わたしを招きよせているように思えた。 ――火星のプリンセス

前じつの通り、火星の風土習慣については、ジョン・カーターの草稿を世に送り出したバロウズ氏の尽力によって、100ねんくらい前から世界中で広く知れ渡っている。
 ジョン・カーターはアリゾナで遭難した後、火星へと雄飛し、各地で冒険を繰り広げ、ヘリウムの王女デジャー・ソリスと結ばれ、火星の危機を何度も救ったその輝かしい功績を称えられ、火星の大元帥の称号を得た。
 その体験記の描写は精緻なもので、古代文明の流れを引く火星の優れたか学力や、火星で独自の進化を遂げた生態系、各種民族の習慣風習などを地球に紹介する一級資料として今なおその意義を失わない。
 ジョン・カーターの他にも、彼の子供、ユリシーズ・パクストンなどの残した記録も地球で刊行され、「火星シリーズ」という名称で世に広まっている。
 バロウズ氏は、地底世界ペルシダー帝国皇帝デヴィッド・イネスや、アフリカで生育した英国貴族の遺児グレイストーク卿の手記などを紹介したことでも有名で、伝記作家として名声は名高い。

 バロウズ氏は「荒唐無稽な小説家」などと揶揄されることもあるが、火星において黒色人が最初に生まれた人類として由緒ある存在とされることや、金星の支配者が当時勢力を増していたナチや共産主義とにいかよった部分があることを堂々と描写するなど、真実を伝えるのに躊躇をしない偉大な人物であった。
 そう、パルプは百年も前からパンクだったのだ。

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