人の心と制御工学のオブザーバーについて考えたこと
「あなたには心がない」と言われたことがあります。そのときに、「いや、心があるなんてわからないだろ」「むしろあなたは自分に心があると確信があるんですか?」なんてことを思ったりしました。
そもそも、心なんてものは臓器としてあるわけではないから、外部の観測の結果として、あるかないかを判断するしかないわけで。それが、制御工学のオブザーバーというのに似ている気がしたので、そのことについて考えてみました。
制御工学のオブザーバーとは、数学的なモデル(数式)と実際の制御システムへの入出力をつかうことで、直接観測できない内部状態を推定するものです。たとえば、位置の情報の変化をセンサで観測することで速度を推定したりすることができる(Δx/Δt)。速度を直接はかることができなくても速度を推定することができる。
人間の心もこれと一緒だと思っていて、心という直接観測できないものの状態を推定するには、人に対して何かしらの入力を加えて(コミニュケーションをとって)、その出力(相手のリアクション)を観測することで推定ができそうだなと思いました。というか人は、意識せずにそうしているのではないかと思います。
しかし、オブザーバーには数学的なモデルが必要であって、そのモデルを導出する必要がある。じゃあ、これをどうやって作るかというと、物理的な法則(f=maとか)から導出したり、観測結果から仮定をおいたり、最近流行りのAIにデータを食わせて考えてもらったりします。重要なのは、物理的にわかるもの(f=ma)みたいな明らかなもの以外は、入力と出力の関係をから推定するしかないわけです。
これを人間に当てはめると、人の心の状態を推定するためのモデルを作るには、その心に入力を加える、すなわち、その人と何回もコミニュケーションをとって、その結果を観測するしかないのではないかと思います。
他人という一般的なモデルを人生の中でいろんな人と交流する中で構築していって、それのパラメターを相手一人一人ごとに調整することで、その人それぞれの気持ちの推察をするしかない。
長く生きていく中で、人との関係性やその人の属性などによって、使うモデルやパラメータを変化させて相手のリアクションを推察して、基本的には相手に嫌われないような(良好な関係を気づくような)コミュニケーションをとっていくのが人間関係の構築なんだろうと思います。
仲良くなりたいと思う人に対しては、コミュニケーション量を多くして、そのモデルの精度を上げていくしかない。
加藤千恵さんが昔ラジオで「私のやさしさってデータなんだよね」って言ったのは有名な話?ですが、それは正しいと思っていて、まさにこの話である。人とコミニュケーションを取る中で、「やさしい」という曖昧な概念を具体的な入出力の関係に当てはめて、「〇〇状況で×☓の行動をとると、優しいと思われる」というデータをためて、曖昧な概念を具体化していくしかない。
常識や倫理観というのもそういったデータを大量に学習する中で、醸成されるものではないのか、とも思います
話は変わりますが、葬送のフリーレンという漫画に、主人公たちの完璧な複製体を作る敵がいて、その完璧な複製体に心があるかどうか?を主人公たちが考えるシーンがあります(心があると作中の心に作用する魔法が有効になるから)。結果、その完璧な複製体には心がなくて、心の働きを模倣しているだけ、っていうことがわかるのですが、人間ってこれだな、って個人的には思っていて、心の有無なんてものは分かりようがなくて、全員心があるように振る舞っているだけだし、外からはわからない(漫画のような魔法がない限りは)ものだと思います。
逆にいうと、どう表現していいかわからない人間の行動の理由づけに名前がつけられた概念が心や気持ちなのかもしれない、とも思いました。
結局のところ、人の心がわかるようになるには(社会的に最低限必要なコミュニケーションを取れるようになるには)、多くのコミュニケーションをとってデータを学習していくしかない。そして、その多様な入出力を入れる作業を許されているのが子供なのかもしれないと思いました。非常識な行動や未熟な行動が許されているうちに、多くのコミニュケーションを通じてデータを貯めるしかない。
大人になってから人の心がしりたいとか、やさしくなりたい、って思っても、そのデータを取るためのコミュニケーションを取ることがだんだん難しくなっているように思います。一度でも、ダメなやつという判断を下されると、その後のコミュニケーション自体をとることが難しくなり、データを集められない、モデルを高精度化することができなくなるから。それをクリアするには数をこなすしかないのですが、大人になると、学校入学みたいな、強制的にコミニュケーションを取る必要があるイベントが起こらなくなって、より難しくなって八方塞がりになりがち。結局のところ勇気を振り絞っていろんな人と話すしかない(そして非礼があれば詫びて、それを元に次は同じ失敗をしないようにするしかない)
長くなりましたが、人と仲良くなりたい、優しくなりたい、助けて、っていう話でした。
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