『真珠夫人』

『真珠夫人』という大正時代の小説がおもしろいという噂を知りまして、読んだら止まらなくなりました。

パーフェクト貴婦人が、群がり寄る男どもを弄ぶんですが、そのやり方がいやらしい。
男は美女の前では虚栄を張ります。女性を巡る競争の宿痾は、精子時代から負っているのです。
貴婦人は「サロン」と呼ばれる会合で、言葉巧みに競争を煽って、複数の男の間で闘わせるわけ。敗れたものは無残にも劣等感と恥辱まみれることになります。
ときには一人の青年を死に追いやることもあります。偶然その今際の際に立ち会った信一郎という法学士が義憤に駆られ、青木という青年の遺したノートを突きつけ、貴婦人を面罵します。ところが、それに見事な反論。

菊池寛は文藝春秋を創刊した人物であり、「菊池寛賞」はジャーナリストに授与されます。その菊池寛がこんな通俗的な小説を書くのかと意外に思ったのですが、いえいえ、この貴婦人の反論は、100年後の今の大性社会をも貫きます。
ジェンダー・ギャップ指数146か国中116位の日本を。
やっぱりただ者じゃないな、菊池寛。


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