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火の墓守

やぁ、こんにちは。 あるいは、こんばんは。それとも、おはよう、かな。
ここに人が来るだなんて久しぶ…いや、初めてだったかな?どうだったかな、分からないな

僕かい? …そうだね、今僕が見ているこの場所はとても不思議な場所でさ。急に火がたち昇っては消えていく、そんな場所なのさ。誰も僕を呼ぶものはいないけど、勝手に「火の墓守」、だなんて呼んでるよ。
誰に言われたのかも忘れてしまったのだけれど、この場所でずっーと、火を見守って欲しいと頼まれたんだ。そうして僕は、ここに居るっていうわけ。

あっ!見て!そうこうしているうちに火が立ってきたよ、見てみるかい?
個体差はあるんだけど、あんまり近すぎ無いことをおすすめするよ。

どう?  
へー、そうかい、君にはこの火が「綺麗」に見えるんだね?

僕には 、 ─く見えるよ。

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風呂に入ってみて、今日負った傷が思ったよりも深いことに気づいた。
いや何、ささくれ以上すり傷未満、紙をシュッ!ってやったやつよりかは痛くない傷さ。
ただ、目に見えない傷だけどね。

そんなことを自覚し始めると、不思議と笑みがこぼれていた。気持ち悪い顔だ。髪が乱れぐちゃぐちゃな顔さ。そんな顔が鏡に写っている訳だが、気分は案外悪くなかった。  「─俺だ」


私はこれまで恋というものをしてこなかったと強がるが、その実何回も心の中で恋煩っていた。
今もそう、なのかもしれない。
俺はいつも行動に起こさない。リアルであればただただ心に反芻して、そうでないならそれに加えて口だけの、上辺だけの何かを雄弁に語る。

恋をするとき、その対象の横に俺が立っていいものかと、いつも考える。その演算は常に「俺なんか横に立っていられない、ふさわしくない」という結果に終わるものだった。

俺の性格を知っているならわかるが、じゃあ、横に立てるように自分磨きをしよう、という考えに至らない。ただただ、腐っていく。煮崩れするとも言っていい。終わっている。救いがない。
もちろん、グーチョキパーで言えばチョキくらいだが、相手からアプローチされたこともあるにはある。だが、俺には興味のない事だった。強がりだ。


俺は、別に振り向いてもらわなくていいんだ。たとえ振り向かれても、その心までもが振り向いてるかなどと分かったものでもない。いやそもそも、それをわかりたい、知りたいと思うことこそが傲慢。
俺に構うな。構わないで。優しく、しないで。もっと好きになる。あなたがその気でないのに、私が勝手にその気になる。
あなたが与えた微量の何かは、私の中ではそれがただただ増殖して、培養して、心の中を埋めつくしていくの。激おもポップコーン。
最近、一日のどこかであなたのこと、考えているような気がする。
怖いでしょう。1つ程度与えた何かが、その実蓋を開けてみたら、それが量産されているなどと。

ただ傷を負って背負って生きていくの。あなたが付けた傷ではなく、俺があなたの知らない間に、その手にナイフを持たせて、俺の肌に突き刺していく。

傷が疼く度、自分が生きていると確信できる。
傷が疼く度、あなたの事が好きだと確認できる。
これをただ、一方的に、内向的に執行している。
あなたの答えなど、聞きたくない。でも、聞きたい。聞きたくない。どう、思っているの?何を、考えているの?君の目に、私は、写ってはいない?どう写ってるの?気になる。気に、ならない。

怪物と化す前に、思考を止める。

いやはや、恋というのは、なんというか。
刹那的だ。私は、この感情に嘘偽りがないとも言える。しかしいつかこの感情は、未来の私に間引かれてしまうものだろう。
そうはいくか。これまで、その過程の記憶が抜け落ちてしまっていたが、今度こそ拾い集めよう。

いつかそのパズルのピースをはめて、繋ぎ合わせて出来たその光景がなんであるのか、私には分からない。

傷を背負って生きていく。あなたが私を好きになることなどないのだと。ただ、祈って。祈って。

私はあなたを、幸せにすることなど


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消えてしまったね。
…?何か、見えたのかい?
そうなんだよねぇ、たまにこの火、だ~れの記憶なんだか知らないけど、そんな風にフラッシュバックしてくるのよ。おかげで退屈しないけどね。


それで、どう?
それでもまだ、あの火が綺麗だったと君は言える?

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