過去の仕事でのできごと③

今回はほっこりした話。

某映画の企画展の設計班に入っていた時、その会社の建物内に仮設事務所としてスペースを作って通うかたちで仕事をしていた。

その仕事が上京してきて初めての仕事で、慣れないことが多く、当たり前に雑用もあれば、当たり前にプレッシャーや責任のある仕事もあり、今思えば新人いじめ的なそんな事も多くあってそのせいもあり「適応障害」になった。

毎日通うのが辛くて、毎朝毎朝家を出る時に泣きながら出勤していたんだけど、そんな中、出勤するととてもほっこりと和む事があった。
今思い出してもめちゃくちゃほっこりして和む。

建物の一番上の階が事務所だったのだが、そこへ向かう途中の階段の窓枠に、その会社の作品に出てくるキャラクターの大中小のぬいぐるみが置いてあった。

初めは気が付かなかったのだけど、毎日通っていて気づいたことがあった。

「ぬいぐるみの配置が毎日変わっている」

みんな正面を向いていることもあれば、次の日にはみんな窓の外を眺めていたり、横向きに一列になっていたり、ぬいぐるみ同士が向き合っていたり。

まるで生きてるみたいだった。

これだけ聞くとちょっとホラーぽいんだけど、雑用を済ませるために部署の誰よりも早く出勤していた私は、そのぬいぐるみを見るのが毎朝の楽しみになってた。

部署では一番に出勤するし、帰りも私が大抵一番遅いのに、そのぬいぐるみを触っているひとを目撃したことがない。「一体誰がやってるんだろう?」と気になっていた。

でも、ある時ふと思い出した。

いつも私よりも早く来て作業をしてる人が一人だけ居る。

青いエプロン姿でほうきを持ったお爺さんだった。

掃除を終えるとササッといなくなってしまうので、私以外の部署の人が来る頃にはもう姿はなかった。

毎朝、すれ違いざまに私が挨拶をすると、いつも穏やかな笑顔で返してくれるその人は一体誰なのか。

しばらくして、「ぬいぐるみ動かしてるのはその人だよ」と教えてもらった。

それに加え、「その人、めちゃくちゃ偉い人だよ」と言われた。

私は全く存じ上げていなかったので大変申し訳なかったけど、そんなに偉い人がふんぞり返ることもなく、下っ端の私に穏やかな笑顔で挨拶を返してくれ、毎朝誰よりも早く来て、隅々まで掃除をしている。

という事実だけで心が温かくなったし、毎朝ぬいぐるみの配置を楽しそうに変えているその人を想像するだけで、ひたすらに和んだ。


あ~、好きだな。


わたしもそんな、人に分けられるだけの愛を持った人間になりたいな、と思った。

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