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毒舌寿司(#毎週ショートショートnote)

夕方5時を回った。惣菜コーナーの周りに人の波が押し寄せる。サラダ、肉じゃが、唐揚げ…。店員が割引シールを貼るたびに四方八方から手が伸びてきて、瞬く間に買い物カゴへと吸い込まれていく。

5番レジの流れがさっきから止まっている。薄汚れた作業着の男性が店員と揉めていた。
「ですからお客さん、このちらし寿司は割引シールないでしょ?だから500円。ね?わかるでしょ?」
「同じとこに並んでるだろ。冷たいこと言わないで頼むよ。今日おふくろの誕生日でさ。食べさせてぇんだよ、酒と、この寿司。350円ならギリで買えんだよ」
「困ります。これは8時過ぎないと」
「8時じゃ遅すぎる」

その時、ちらし寿司が店員の手をはねのけるようにカゴの外に飛び出した。

「お客さん、失礼失礼。うちの店員が落としたからね、これで3割引だ。早くおふくろさん祝ってやろうぜ。なに、どうせ8時で棄てられんだ。今諦めて誰が幸せかって、な」

ちらし寿司は、毒舌な上にダミ声だった。

(410字)

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